国立感染症研究所

国立感染症研究所 実地疫学専門家養成コース(FETP)
同 感染症疫学センター

掲載日:2020年12月4日

背景

2020年10月30日現在、国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)クラスター対策班として37都道府県からのべ125事例のCOVID-19集団発生事例に対する調査派遣依頼に対して、都道府県、管轄保健所とともに実地疫学調査を実施してきた。今後のCOVID-19対策に資する情報提供を目的として、これまでFETPが関わった実地調査支援活動結果の中から特定の場所・状況下における感染伝播の状況をまとめて報告していく。今回は、「趣味など余暇活動」に関する集団感染事例についてまとめた。

目的

本事例集は、新型コロナウイルス感染症の実地疫学調査においてFETPが経験した実例を提示し、感染防止のために留意すべき事項について広く多くの方々に情報提供を行うことを目的としている。従って、本稿で紹介する各事例は、特定の個人の行動や特定の店舗内の状況を詳細に伝えることを意図したものではないことに留意願いたい。  

また、解釈上の注意点として、以下の点が挙げられる。

  • 症例とは、症状の有無に関わらず検査陽性の人のことを指す
  • 提示した場面以外にも感染機会がある可能性のある事例が存在する
  • 主に症例自身からの聞き取りの結果に基づいており、本人の記憶等に依存している
  • 床面積、換気状況、衛生管理等の環境や、人の位置、会話の頻度や長さ、友人関係、マスク着用状況等の情報が調査により得られていない事例が存在する

方法

2020年10月30日時点において、2020年2月25日以降に、クラスター対策班として実施した実地疫学調査のうち、「趣味など余暇活動」の際に発生したと考えられた集団感染事例*1のうち、具体的な知見等につながる情報が得られた6事例をピックアップし、曝露状況に関する情報を記述した。

*1:ここでいう集団感染とは1つの場所及び一定期間において2例以上の症例が確認された事例を指す

結果

今回取り上げた6事例の患者発生状況について以下に示す(表)。6事例の発生場所はスポーツ関連施設2事例、バーベキュー1事例、合唱練習・カラオケ設備のある飲食店の事例3例である。  

スポーツ関連施設利用の事例において、ケースAでは全症例が共通の日時に利用した場所は更衣室であった。当時更衣室は混雑しており、換気は不十分であった。利用者はマスクを着用しておらず、何名かは会話をしていた。ケースBでは、発症後の症例と友人が、運動後に更衣室及び休憩ラウンジに滞在し、マスクを着用せず会話していた。

バーベキューのケースCでは、屋外で調理し、屋内で飲食するスタイルだった。感染源と推定された者は、発症前だが人に感染させる可能性期間にあったイベント参加者で、複数の参加者の感染が確認された。参加者は自由に移動し、調理(バーベキュー)、食事、会話をしていた。調理された料理は大皿に盛り、テーブルで取り分ける形式であり、大皿の周りに人が密集し、マスクを着用せずに会話をしていた可能性があった。

また、歌う機会に関連した事例のうちケースDでは、換気の不十分な室内で、合唱団が密集した状態で練習を行っていた。発症後練習に参加した症例の団員がおり、立ち位置が近い団員が感染した。カラオケ設備のある飲食店におけるケースEでは、客から感染したとみられる発症前の従業員が勤務しており、その従業員と接触した複数の客の感染が認められた。店内の換気は不十分で、客同士は肩が触れ合う距離で着席し会話をしたり、マスクを着用せずに歌ったりしていた。当該従業員もマスクを着用せずに歌うことがあった。カラオケ設備のある飲食店のケースFでは、店内に咳をしていた客(検査未実施)がおり、カラオケステージで歌を歌っていた。複数の客の感染が確認され、ステージに隣接した席及びステージ側を向いている席に症例が集中していた。

一方で、①客席はステージから距離をとる、②客席間隔をあける、③パーテーションを設置する、④換気を行う、等の工夫が行われていたカラオケ設備のある飲食店では、利用客の中に症例が含まれていたものの、集団発生事例への発展はなかった。

表)FETPが調査に関わった「趣味など余暇活動」における集団感染

27 fig1

考察

「趣味など余暇活動」の事例として、スポーツ関連施設の利用、バーベキュー、歌を歌う機会に関連した集団感染事例をまとめた。

スポーツ関連施設の2事例では、感染伝播の機会として、更衣室や休憩ラウンジ滞在時のマスク着用なしでの会話が考えられた。スポーツ関連施設に関する海外の報告1)では、ダンス教室で集団感染が認められ、激しい運動を密集して行うことが感染のリスクとなった可能性が述べられている。今回はこれら運動時における感染事例の報告はなかったが、2事例のような更衣室や休憩ラウンジでの会話において感染伝播を認めたことは注意が必要であり、運動以外のこれらの場面においてもマスク着用を徹底し、施設内での不要な滞在を避けることが対策として有用であると考えられた。

バーベキュー事例では、人が大皿の周囲に密集し会話することで飛沫に曝露した可能性や、マスクを着用せずに自由に移動し、複数の人と会話をしたことで、感染が拡大した可能性が考えられた。前回我々が「一般的な会食における集団感染事例について」において報告2)した、身体的距離の確保、食事中以外の時間(移動、食後の会話など)におけるマスクの着用などの対策が、バーベキュー事例においても感染拡大防止の一助となると考えられた。

合唱団の事例では、人が密集した状況で、マスクを着用せずに発声する(歌う)ことにより感染が伝播した可能性が高いと推察された。飛沫の飛距離を計測した実験では、マスクを着用しない歌唱により、最長111cmまで飛沫が到達したことが報告されている3)。従って歌唱時には、マスク着用を徹底した上で、互いに十分な距離(合唱活動のガイドライン4)によると前後2m以上、左右1m以上)を保つことが重要である。カラオケ設備のある飲食店では、歌や飲食に伴う会話で発生した飛沫への曝露が主な感染の要因と考えられた。また、従業員が感染すると店舗内が持続的な感染源になり、その後店舗を利用する客に感染が伝播する可能性がある。客、従業員共に、歌う時、歌を聞いている間や食事をしていない時はマスク着用を徹底することが重要である。また店舗は、店内換気の励行や、直接歌唱者の飛沫を浴びないセッティング(歌う人と聴く人の間の身体的距離の確保、ステージやマイクの位置の工夫、パーテーションの使用など)を工夫し、客が直接歌う人の飛沫を浴びない環境を整えることが必要であると考えられた。

症状があるにも関わらず趣味など余暇活動に参加することで、当該集団における症例発生に寄与していた事例を複数認めた。一方で、人に感染させる可能性のある発症前の症例から他者へ感染伝播したと考えられる事例もみられた。自覚症状がなくても他人に感染させる場合があることを常に留意し、無症状であっても上記の感染リスクの高い行動を避けることが大切である。「趣味など余暇活動」は往々にして近しい人達や共通の趣味を持つ仲間との活動が多く、親しさゆえ感染対策が緩慢になりがちである。イベント前の行動などで感染している可能性が高いと考えられる場合、イベント当日の健康チェックにおいて不安がある場合などは、大切な人を守るためにイベントに参加しないという判断も大切である。

今後の感染対策として、一般的な感染対策であるマスク着用、手指衛生、従業員の健康管理、身体的距離の確保、施設のこまめな換気の実施等に加え、今回の知見を踏まえて以下について提言する。

「趣味など余暇活動」を行う人

  • 更衣室や店内など、換気不良かつ密になりがちな場所では、マスク着用を徹底する
  • 食事、会話や歌唱時は、互いの身体的距離を十分に取り、密集しないようにする
  • 食事前後の会話や歌唱時や他人の歌を聞いている時などにはマスク着用を徹底する
  • 症状*2がある場合は「趣味など余暇活動」に参加しない
  • 無症状でも人に感染させる可能性があることを意識し、常に上記の感染対策を実施するとともに、イベントの直近2週間前に自らが感染している可能性がある(流行地への渡航、濃厚接触者と一定期間接触のある者など)場合はイベントへの参加を自重する

*2: 発熱、咳、呼吸困難、全身倦怠感、咽頭痛、鼻汁・鼻閉、頭痛、関節・筋肉痛、下痢、嘔気・嘔吐、嗅覚障害、味覚障害など

サービス提供者

  • 人が密集するのを避けるため、料理の大皿での提供を避け、個別の皿に分ける
  • 歌う場所と客席の距離をとり、密集しないよう客席配置・店内レイアウトを工夫する
  • パーテーションの設置等飛沫対策を行う
  • 客の入店時に体温測定や症状の確認などを行う

なお、サービス提供者の感染対策については、業界毎のガイドライン4)5)6)も参照されたい。

謝辞

FETPによるCOVID-19実地疫学調査にご協力いただいた全国の都道府県、市町村区等自治体関係者、保健所、地方衛生研究所の皆様に深く感謝いたします。

参考文献

  1. Jang, S., Han, S., & Rhee, J. (2020). Cluster of Coronavirus Disease Associated with Fitness Dance Classes, South Korea. Emerging Infectious Diseases, 26(8), 1917-1920.
    https://dx.doi.org/10.3201/eid2608.200633.
  2. 国立感染症研究所 実地疫学専門家養成コース, 同感染症疫学センター. 「一般的な会食における集団感染事例について
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9910-covid19-25.html
  3. 全日本合唱連盟, 東京都合唱連盟. 「合唱活動における飛沫実証実験の速報 2020年10月8日」
    https://jcanet.or.jp/news/covidtest1008s.pdf
  4. 一般社団法人全日本合唱連盟. 「合唱活動における新型コロナウイルス感染症拡大防止のガイドライン 第1版2020年6月29日策定 第1.1版2020年9月8日更新」
    https://jcanet.or.jp/JCAchorusguideline-ver1_1.pdf
  5. 一般社団法人日本フィットネス産業協会. 「フィットネス関連施設における新型コロナウイルス対応ガイドライン 2020年5月25日」
    https://www.fia.or.jp/wp-content/uploads/2020/01/fia_guide.pdf
  6. 一般社団法人日本カラオケボックス協会連合会, 一般社団法人カラオケ使用者連盟, 一般社団法人全国カラオケ事業者協会. 「カラオケボックス等の歌唱を伴う飲食の場における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」
    http://www.jkba.or.jp/uploads/news/a2e082c81b7de927a865d1d5048c8ba7.pdf

 

「趣味など余暇活動」に関連する集団感染事例(2020年11月25日作成)

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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