印刷

<速報>長崎市に停泊中のクルーズ船内で発生した新型コロナウイルス感染症の集団発生事例:中間報告

(掲載日 2020/5/22)
英語版はこちら
 

本稿では、長崎県長崎市に停泊中で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のクラスター感染が確認されたクルーズ船「コスタ・アトランチカ」の検査結果と初期状況について情報還元する。現在も対応は継続しており、暫定的な中間報告である。

令和2年1月29日に、イタリア籍のクルーズ船「コスタ・アトランチカ」が長崎港に入港し、2月20日からドックに入り、3月25日まで船の修繕を行った。その後、世界的な検疫強化の影響を受けて出航が困難となり停泊を続けていた。搭乗者は乗員のみであり、4月20日の時点でその人数は623人であった。男性が523人(84%)、年齢中央値は31歳 (範囲:19歳―69歳)と若年成人の男性が多かった。乗員のほとんどは外国籍であり、国籍はフィリピン、インド、インドネシア、中国の順に多かった。

4月19日夕刻、同船より長崎市保健所に連絡があり、乗船者4人に発熱を認め、1名ごとに窓のある客室内に隔離中とのことであった。翌4月20日に新型コロナウイルスのPCR検査を行ったところ、4人のうち1人が陽性であった。その後、4月25日迄に、発熱者と濃厚接触者57人、およびスクリーニングとして、エッセンシャルクルー(船内のライフライン等の維持に必要な乗員)134人、および残りの乗員428人に対して検査が実施された。その結果、これら全乗員623人のうち、148人(24%)が陽性であった。発熱者と濃厚接触者の陽性割合(検査した人数のうち、陽性であった割合)が最も高く(33/57(58%))、エッセンシャルクルー(27/134(20% ))とその他の乗員(87/428(20%))は共に20%であった。

陽性割合は、男性が24%、女性が21%と同様であった。また、10代の乗員は3人のみで2名が陽性であったが、その他の年齢群では、20代~60代迄、何れも約20%が陽性であり(範囲:18%~27%)、性別を問わず同様な感染状況であった(表)。国籍による陽性割合の違いは認めなかった。

表.クルーズ船「コスタ・アトランチカ」における、年齢群別の新型コロナウイルス検査結果(年代は4月27日現在)。A:男性とB:女性。

covid19 20 tbl1

このスクリーニング検査の結果から、4月19日の時点でコスタ・アトランチカの船内で感染が拡がっていた状況が明らかになった。陽性割合は、性別、年齢、国籍を問わず、約2割が陽性であったが、発熱者と濃厚接触者の群が約6割と最も高かった。

4月19日、船の管理者の指示により、すべての乗員は窓のある客室に一人一部屋があてがわれ、スクリーニング検査で陰性だったエッセンシャルクルーを除いて部屋から出ないように措置が講じられた。しかし全員のスクリーニング検査が終了した結果、陽性例と陰性例の部屋が同じフロアに混在していることが判明した。そこで船内での感染拡大のリスクを可能な限り低くするために、現地活動チームがエッセンシャルクルーに対する感染予防教育と個人防護具の着脱の指導を行った。またエッセンシャルクルーが客室内の乗員と対面で接触する事の無い様にする工夫、COVID-19に関する感染対策ビデオ(英語)の放送、船内のエッセンシャルクルーの共有部分の消毒、感染対策に必要な物資(ガウンやアルコール製剤など)の提供等が実施された。5月1日現在、乗組員の健康観察と医療搬送体制の構築、船内の感染管理体制の整備、下船と帰国へ向けた調整が行われているところである。

参考文献
 
謝辞:検体採取等調査と対応に御協力いただきました医療機関、自衛隊、および行政機関の関係者、港湾で対応にあたるすべての関係者に深謝致します。
 
長崎県新型コロナウイルス感染症対策本部
長崎市保健所
クルーズ船現地活動チーム(長崎大学、国立感染症研究所、国立国際医療研究センター、厚生労働省DMAT事務局、香焼現地活動各救護班)

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan