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国立感染症研究所 実地疫学専門家養成コース(FETP)
同 感染症疫学センター

掲載日:2020年10月28日

背景

2020年10月15日現在、国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)クラスター対策班として35都道府県からのべ121事例のCOVID-19集団発生事例に対する調査派遣依頼に対して、都道府県、管轄保健所とともに実地疫学調査を実施してきた。今後のCOVID-19対策に資する情報提供を目的として、これまでFETPが関わった実地調査支援活動結果の中から特定の場所・状況下における感染伝播の状況をまとめて報告していく。今回は、いわゆる「飲み会」における集団感染事例についてまとめた。

目的

本事例集は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の実地疫学調査においてFETPが経験した実例を提示し、感染防止のために留意すべき事項について広く多くの方々に情報提供を行うことを目的としている。従って、本稿で紹介する各事例は、特定の個人の行動や店舗内の状況を詳細に伝えることを意図したものではないことに留意願いたい。

また、解釈上の注意点として、以下の点が挙げられる。

  • 当該店舗の利用が単一の感染機会か確定できていない事例が存在する
  • 主に感染者自身からの聞き取りの結果に基づいており、本人の記憶に依存している
  • 床面積、換気状況、店内BGMの有無や大小、衛生管理等の店舗内環境や当日の座席位置、人数、会話の頻度、友人関係、マスク着用状況、酒量、酔いの度合い、一次会、二次会、三次会等明確な店利用状況等の詳細情報が調査により得られていない事例が存在する

方法

2020年10月15日時点において、2020年2月25日以降に、クラスター対策班として実施した実地疫学調査のうち、いわゆる「飲み会」の際に発生したと考えられた集団感染事例*1のうち、具体的な知見等につながる情報が得られた6事例をピックアップし、曝露状況に関する情報を記述した。なお、カラオケが併せて行われたことが確認された事例については別途まとめることとし、本稿では対象から除外する。

*1:集団感染とは同一店舗内で2例以上の確定症例が確認された事例をいう

結果

6事例の曝露状況について以下に示す(表)。このうち同グループの客-客間の伝播事例が5例、別グループの客-客間が3例、客-従業員間が2例だった。(複数経路の事例あり)同グループの客-客間の事例において、ケースAでは発症者に座席が近い4名が感染し、対角線上に距離が離れた座席の者は感染しなかった。また、飲み会開催時に参加者の1名が既に咳症状を呈していた。ケースBでは、店内に窓がなく、換気状況が不良の個室内の事例であり、同席した同グループ内の客は全員感染した。またケースEでは、ケースBと同様に窓がなく、換気状況が不良の個室内の事例であり、隣席の客と肩がぶつかるほどの距離であり、人が密な環境であった。

一方、別グループの客-客間の事例では、それらに加えて、客が座席移動して別グループの客と一緒に会話・飲食したり、飲用容器の共用(飲み物の回し飲み等)したりすることによって感染したとみられる事例を認めた。

また、2例認められた客-従業員間の事例について、ケースDでは、従業員はマスク着用をしていたにもかかわらず、客(マスク着用無し)と会話を多くしていた従業員の感染が認められ、ケースFでは、客と同じテーブル等に着席し、長時間滞在・飲酒した等、客(マスク着用無し)と密接な関わりをした従業員(マスク着用状況不明)の感染が認められた。

ケースCでは飛沫対策として、客席のテーブル両端に高さ30㎝程度のアクリル板を設置していた。ケースDでは店内は十分なスペースがなく、換気のため出入口を開放していた。

表)FETPが調査に関わった飲酒を伴う会食事例における集団感染

26 fig1

考察

今回の結果から、いわゆる飲み会の事例では、客-客間の伝播が多く見られ、十分な距離を保てない状況下での飛沫による伝播、発症者が同グループの同席に存在したこと、店内の換気不良および人が密な空間での飲食等によって感染したとみられる事例を認めた。海外の事例によると、ベトナムホーチミン市のバーにおけるSARS-CoV-2感染事例では、換気の悪い混雑した屋内環境が原因でバー内で感染が拡大したと報告している1)。また、中国の広州のレストランにおける事例では、店内のエアコンの気流の方向と飛沫の伝播が一致しており、レストラン内でのSARS-CoV-2の蔓延を防ぐため、テーブル間の距離を取ること、そして店内の換気を改善することが必要であると報告されていた2)

一方、今回、客から従業員への伝播事例がわずか2例のみで、これらの事例はいずれも客と会話を多くしていたり、客と同じテーブル等に着席し、長時間滞在・飲酒をする等、密接な関わりをしており、その他の事例では従業員のCOVID-19の感染は見られなかった。したがって、通常の飲み会時において、従業員が一般的な咳エチケット(マスク着用等)や適切な手指衛生を行うことによって、客から従業員へ感染する可能性を下げることが推察された。ただし、ケースDの事例においては、当該従業員はマスクを着用していたものの、感染者との近距離で会話等を実施したことにより感染した可能性が考えられることから、一方のみのマスクの着用だけでは完全に感染を防ぐことができないことも示唆される。

また、いわゆる飲み会での事例の特徴として、別グループの客-客間の伝播と思われる事例が3例認められた。これら3例では、①参加人数が多く、人が密集しやすい環境であった、②多数の人(別グループの人も含む)と接触し会話した、③席移動が頻繁に行われた、④飲み物の回し飲みがみられた、等が認められた。

ケースCでは一般社団法人日本フードサービス協会、全国生活衛生同業組合中央会作成の「外食業の事業継続のためのガイドライン」3)に従い、テーブル上でアクリル板の設置を行っていたが、高さが十分でなく、テーブルの両端に設置されていたため、対面や隣席同士に座った客からの飛沫を防止する効果は少なかったことが示唆された。ケースDの事例においては、店内はカウンター席と小上がり席のみからなる小規模の店舗内の事例であり、換気状況が良好でなかったことから、出入口2か所を開放し、扇風機を使用する換気方法を実施していたが、近距離間の会話によって感染伝播した可能性が考えられた。国では『「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気の方法』4)で機械換気(空気調和設備、機械換気設備による換気)が実施できない場合には窓の開放やドアを開けることによる換気を推奨しているが、客-客間に十分な距離が保てない小規模の店舗等の場合には特に注意を要するものと考えられた。

飲酒そのものが感染リスクを上げるわけではない。一方で、一般的にいわゆる飲み会ではしばしば宴会や催し等の場合に参加者の増加や開催時間が長くなることによる接触機会の増加が見られる。これらの特性および今回分かったことを通じて、今後の感染対策として、一般的な感染対策であるマスク着用、手指衛生、従業員の健康管理、身体的距離の確保、店内のこまめな換気の実施等に加え、客側と従業員側、両方の立場に対して次のとおり提言することとしたい。

  • 客-客間での感染伝播が主であることから、体調不良者、または少しでも異変を感じる場合はイベントや宴会に参加しない
  • 自らが感染源になるリスクを極力おさえるため、日頃から感染機会(3密)を避け、正しいマスク着用、手指衛生を心掛ける
  • 回し飲み(通常飲用に用いる容器の共用)を行わない
  • 不要な従業員や別グループへの接触を避ける
 
従業員
  • 客同士が密集しないような店内レイアウト・座席配置の工夫(特に宴会・イベント時)
  • 席移動の制限

謝辞

FETPによるCOVID-19実地疫学調査にご協力いただいた全国の都道府県、市町村区等自治体関係者、保健所、地方衛生研究所の皆様に深く感謝いたします。

参考文献

  1. Nguyen Van Vinh Chau, Nguyen Thi Thu Hong, Nghiem My Ngoc, Tran Tan,Thanh,Phan Nguyen Quoc Khanh, Lam Anh Nguyet, Le Nguyen Truc Nhu, Nguyen Thi Han Ny, Dinh Nguyen Huy Man, Vu Thi Ty Hang, Nguyen Thanh Phong, Nguyen Thi Hong Que, Pham Thi Tuyen, Tran Nguyen Hoang Tu, Tran Tinh Hien, Ngo Ngoc Quang Minh, Le Manh Hung, Nguyen Thanh Truong, Lam Minh Yen, H. Rogier van Doorn, Nguyen Thanh Dung, Guy Thwaites, Nguyen Tri Dung, Le Van Tan (2020). Superspreading Event of SARS-CoV-2 Infection at a Bar, Ho Chi Minh City, Vietnam — United States,EMERGING INFECTIOUS DISEASE Volume 27, Number 1—January 2021 Research Letter
    https://wwwnc.cdc.gov/eid/article/27/1/20-3480_article
  2. Jianyun Lu1, Jieni Gu1, Kuibiao Li1, Conghui Xu1, Wenzhe Su, Zhisheng Lai, Deqian Zhou, Chao Yu, Bin XuComments to Author , and Zhicong Yang (2020).COVID-19 Outbreak Associated with Air Conditioning in Restaurant, Guangzhou, China,―United States,EMERGING INFECTIOUS DISEASE Volume 26, Number 7—July 2020 Research Letter
    https://wwwnc.cdc.gov/eid/article/26/7/20-0764_article
  3. 一般社団法人日本フードサービス協会、全国生活衛生同業組合中央会 新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針(改正)に基づく外食業の事業継続のためのガイドライン
    http://www.jfnet.or.jp/contents/_files/safety/FSguidelineA4_20514_630.pdf
  4. 厚生労働省 「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気の方法
    https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000618969.pdf 

 

いわゆる「飲み会」における集団感染事例(2020年10月23日作成)

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan