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廃棄物を扱う際に接触感染が疑われた清掃員や医療従事者のSARS-CoV-2感染

(速報掲載 日 2021/4/27) (2021年6月25一部改訂) (IASR Vol. 42 p119-121: 2021年6月号)
 

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染経路は飛沫感染が中心だが, 接触感染や特殊な環境下での空気感染の可能性が示唆されている1,2)。国内で医療機関における感染対策は改善してきているが, アウトブレイク発生医療施設において, 施設管理に関わる清掃員や医療従事者の直接的, または間接的な接触感染が疑われる感染事例が確認された。本報告では, その原因を探ることにした。

 2020年11月20日~2021年2月22日まで, COVID-19アウトブレイクが発生した7施設でRT-PCR検査または抗原検査で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)陽性が確認された清掃員8名と診療放射線技師1名に対し, 保健所や病院が集めた情報を収集し, 加えて感染者の一部には電話および直接インタビューを実施した。

 症例は女性が8名(89%, すべて清掃員)で, 残り1名の男性は診療放射線技師であった。年齢は中央値67歳(範囲35~74歳)であり, 経験年数は1~22年, 業務委託会社職員が7名, 直接雇用職員が2名であった()。COVID-19患者受け入れ施設は1施設あったが, COVID-19患者病棟での業務は行っていなかった。業務内容は, 清掃員は患者病室の床やドアノブ・手すりなどのふきとり清掃, 廃棄物収集, トイレ清掃等, 診療放射線技師は放射線同位元素(RI)廃棄物の運搬とRI測定業務であり, 7名が単独で業務をしていた。1名が患者ベッドサイドの廃棄物収集業務をしていたが, 業務時に患者との会話はなかったとのことであった。半日勤務者4名に休憩室の使用はなく, 1日勤務者4名は休憩室と病院の食堂を使用していた。このうち休憩中に同僚と会話をしていたものは2名であった。更衣室での会話はなかったとされていた。ほとんどが単独業務で他職員との接触は限られており, プライベートでの感染の機会は乏しかった。5施設では年1回程度の一般的な感染対策研修を感染管理担当者が実施していた。個人防護具(personal protective equipment: PPE)は委託業者が費用負担を行っており, 清掃担当者は手袋と不織布マスクもしくは紙マスクは使用しているが, ガウンやエプロンは使用していなかった。2施設ではCOVID-19対応として市中感染の流行が始まった2020年11月頃より, マスクに加えてフェイスシールドを着用していた。1施設では使用後のモップを, 洗浄した後に逆さにして布部分が上に来るように立てかけて管理しており, 周辺道具や身体の汚染があり得る状況であった。診療放射線技師は使用後のRI廃棄容器を廃棄物保管庫へ運搬し, RI量測定を毎日実施していた。その際はマスクと手袋を使用し, 手指衛生は実施していなかった。廃棄物保管庫は換気ができない狭く密閉された空間であった。なお, これら感染者から感染したと考えられる職場同僚や家族は確認されなかった。

 事例発生地域では, 市中感染より病院や施設における感染が多く, 感染した清掃員や診療放射線技師は, 勤務外での市中活動を否定しており, 市中感染の可能性は低いと考えられた。清掃員や診療放射線技師の症例は, 業務中に不織布マスクもしくは紙マスクを使用し単独で業務を行っており, 患者とも直接会話をしたことが確認されず, マスクを業務開始から終了あるいは休憩まで外していなかったことから, 会話等による飛沫感染で感染した可能性は低いと考えられた。彼らは, ベッドサイドで患者使用の廃棄物回収やトイレ清掃等, SARS-CoV-2が付着した汚染物品に接触する機会が多く, その際に手袋交換はせず, 手指衛生も毎回確実に実施されていなかったため, 接触感染で感染した可能性が高いと考えられた。

 感染管理担当者が年1回程度の基本的な感染対策研修を実施していたものの, 手指衛生の遵守状況は高いとはいえなかった。また, 清掃員は委託業務契約の関係上, COVID-19患者のいないエリアでの業務に限定されていたため, 国内でCOVID-19が流行してからもCOVID-19に特化した感染対策研修は実施されていなかった。英国の報告3)では, 病院清掃員の血清抗体保有割合は最も高く(34.5%), 清掃員の抗体陽性となる相対リスクは, 患者の診療にあたる医療従事者と比較して2.34倍であった。国内では, 委託業者に対してCOVID-19対応のPPE着脱指導や教育を事前に実施し, 陽性患者受け入れエリアでの業務を安全に実施しているCOVID-19受け入れ施設もある。委託清掃員に対して, 基本的な感染管理の知識習得, 適切なPPE着用, 手指衛生, 清潔な道具の管理に関する訓練をすることで, 業務中の感染の危険を低減できると考えられた。また, 病院では症例や疑い例からのRI廃棄物の運搬や作業時のPPE着脱訓練, および手指衛生強化を定期的に確認していく仕組みが重要である。

 SARS-CoV-2の主な感染経路は飛沫感染であるが, 今回確認された9名のように, 直接または間接的な接触によるSARS-CoV-2感染が疑われる症例も報告されている2)。医療や施設の現場においては, 清掃を行う, または廃棄物を扱う者に対し, PPEの適切な使用と手指衛生に関する研修を受けさせ, 厚生労働省がホームページ上に公開しているチェックリスト4)も活用しながら, その徹底的な実施を確認していくことがCOVID-19感染予防に重要である。また, 日常生活において清掃を行う, またはゴミを扱う場合にも, 適切な手洗いにより感染リスクを減らせる可能性がある。

 

参考文献
  1. Centers for Disease Control and Prevention, Scientific Brief: SARS-CoV-2 and Potential Airborne Transmission, Oct 5,2020
    http://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/more/Scientific-Brief-SARS-CoV-2.html(閲覧2021年2月8日)
  2. Klompas M, et al., Clin Infect Dis, 2021 Mar 11: ciab218
  3. Shields A, et al., Thorax 75(12): 1089-1094, 2020
  4. 厚生労働省, 職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト, 2020

 
国立感染症研究所薬剤耐性研究センター 黒須一見 山岸拓也 菅井基行
同実地疫学専門家養成コース(FETP)
 渡邉佳奈 中村晴奈 黒澤克樹 中下愛実 笠松亜由
札幌市新型コロナウイルス感染症対策室 三觜 雄 矢野公一
北海道医療センター 八谷有香 小谷俊雄 網島 優
手稲渓仁会病院 猫宮由美子 松居剛志
札幌しらかば台病院 高館久美子 菊地剛史
中村記念病院 山田眞弓 上山憲司
埼玉県保健医療部感染症対策課 渡邊千鶴子 古沢祐真
埼玉県南部保健所 加瀨勝一 兵頭裕子
戸田中央総合病院 鈴木裕美 松永保
岐阜県健康福祉部 堀 裕行
岐阜県可茂保健所 加納美緒
木沢記念病院 三宅有希子 山田実貴人
国立感染症研究所感染症疫学センター 小林祐介 砂川富正 鈴木 基

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