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新型コロナウイルス感染症における積極的疫学調査の結果について(第1回)
(2020年6月3日時点:暫定)

(IASR Vol. 41 p166-169: 2020年9月号)

(速報掲載日 2020/8/14)

本報告は、厚生労働省健康局結核感染症課名にて協力依頼として発出された、感染症法第15条第1項の規定に基づいた積極的疫学調査(健感発0220第3号、令和2年2月20日;https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000598774.pdf)に基づいて集約された、各自治体・医療機関から寄せられた新型コロナウイルス感染症の退院患者の情報に関する、第1回目の暫定的なまとめである。6月3日時点の状況を報告する。

新型コロナウイルス感染症患者185例のデータを集計した。入院開始日は1月25日~5月1日までで(n=184、不明1を除く)、入院期間は中央値16.0日(四分位範囲11.0-23.0日、n=165、全185例から入院中6例および入院期間不明14例を除く)であった。感染確認の経緯として、国内確認151例(82%)に加え、チャーター便による帰国5例(3%)、ダイヤモンド・プリンセス号乗船者29例(16%)であった。転帰は、生存退院163例(88%)、死亡退院16例(9%)、入院中で軽快傾向を認める症例6例(3%)であった。性別は男性97例(52%)、女性88例(48%)で、年齢は中央値55.0歳(四分位範囲40.0-69.0歳)であった。年齢群別では50代33例(18%)、60代37例(20%)、70代33例(18%)で入院患者の半数以上を占めた(図1)。妊婦は1例であった。

基礎疾患として、高血圧39例(21%)、糖尿病28例(15%)、脂質代謝異常症24例(13%)、喘息10例(5%)、悪性腫瘍7例(4%)、腎疾患4例(2%)、慢性閉塞性肺疾患(COPD) 4例(2%)、脳血管疾患2例(1%)が挙げられ、喫煙歴は15例(8%)で認められた(表1)。何らかの基礎疾患を有した症例は103例(56%)であった。

初発症状として、発熱109例(59%)、呼吸器症状68例(37%)、倦怠感23例(12%)、頭痛17例(9%)、消化器症状16例(9%)、鼻汁8例(4%)、関節痛7例(4%)、嗅覚異常6例(3%)、味覚異常4例(2%)、筋肉痛2例(1%)の順に多くみられた(表2)。入院時の症状は、呼吸器症状61例(33%)、発熱53例(29%)、消化器症状21例(11%)、倦怠感13例(7%)、嗅覚異常11例(6%)、味覚異常10例(5%)、鼻汁5例(3%)であった。15例(8%)において合併症の記載があり、その内訳は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS) 10例(5%)、急性腎障害4例(2%)、細菌性肺炎1例(1%)、カテーテル関連血流感染1例(1%)であり、このうち11例が死亡した。なお、本報告における無症状病原体保有者は25例(14%)であった。

入院時の主な血液・生化学検査値を表3に示す。血液検査において、白血球数は中央値5,205 /μL(好中球67.1%、リンパ球23.5%)であり、60歳以上の年齢群では60歳未満と比べ白血球数増加、および好中球割合の上昇とリンパ球割合の低下が認められた。赤血球数、ヘモグロビン、血小板数については特徴的な傾向はみられなかった。生化学検査のうち、総蛋白やアルブミンは60歳以上においてそれぞれ中央値6.9g/dL、3.6g/dLと低値であった。LDHは、60歳以上で中央値243 U/Lと基準値の範囲をやや超えていた。CRPは、全症例で中央値0.9 mg/dLであり、60歳以上で中央値2.4 mg/dLとやや高かった。総ビリルビン、ALP、血中尿素窒素についてはおおむね基準値の範囲内であった。

全185例のうち、対症療法ではなく新型コロナウイルス感染症への直接的な効果を期待して86例(46%)で抗ウイルス薬投与等の治療介入が行われていた。投与薬剤の内訳は、ファビピラビル48例、シクレソニド43例、ロピナビル/リトナビル20例、ナファモスタット3例、ヒドロキシクロロキン硫酸塩3例、レムデシビル2例等であり(表4)、このほか3例でステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム1例、シベレスタット1例、これら2剤の使用1例)が実施されていた。60歳以上(60%)や前述の基礎疾患を有する症例(66%)では治療薬投与の割合が60%以上と高かった。呼吸器への治療介入として、酸素投与は41例(22%)に実施され、その投与方法は、マスク13例、カニューラ6例、リザーバーマスク6例、人工呼吸器15例、体外式膜型人工肺(ECMO) 1例であった。60歳以上(38%)や基礎疾患のある症例(34%)では、酸素投与を受けた割合が30%以上と他の年齢群や基礎疾患のない症例より高く、侵襲的な人工呼吸管理を行った割合も15%以上と高かった。

なお、本調査は継続中であり、今後はCT画像データ等についても記述を行う予定である。

謝辞:本調査にご協力いただいております各自治体関係者の皆様、医療関係者の皆様に心より御礼申し上げます。本稿は、次の医療機関からお送りいただいた情報をもとにまとめています。

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