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新型コロナウイルス感染症症例(2020年2月17日~5月31日報告)における感染経路判明の有無とその後の感染伝播に関する考察

(IASR Vol. 42 p82-84: 2021年4月号)

 

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は3密(密閉, 密集, 密接)条件により, 感染伝播が助長され, 特定の感染者との接触が確認できない場合でも, 行動歴の中で3密のいずれか, または複数の条件に該当するような状況下にあった場合にはそこで感染を受けた可能性がある。曝露状況(時, 人, 場所)の情報に基づき, さらなる感染者が想定される際には, 早期探知をすることで感染伝播を抑制することが期待される。

 今回, 感染経路判明の有無による, その後の感染拡大への影響を評価することを目的に, 大阪府内で2020年2月17日~5月31日に報告されたCOVID-19症例1,782例について解析を実施したので報告する。

COVID-19症例発生状況

 大阪府では2020年2月17日~5月31日までにCOVID-19症例が1,782例(無症状病原体保有者100例を含む)報告された。年齢階級別の報告数では, 2020年第9週(2/24~3/1)~第12週(3/16~3/23)にかけて, 40~50代の症例が最も多く報告されていたが, 第13週(3/23~3/29)以降20~30代の報告数が急速に増加した。20~30代増加に伴い感染経路不明割合も増加し, 第13週には5割以上が感染経路不明例となった(図1)。

感染経路判明の有無によるさらなる感染伝播への影響

 大阪府内1,782症例について, イベント参加や医療機関, 職場施設での感染等, 推定感染経路が判明している症例は一次感染症例456例中53例(12%)が82例(発症者)に感染させた(実効再生産数0.18, 82/456)(図2左図および)。一方で, 感染経路不明症例は一次感染症例814例中218例(27%)が360例(発症者)に感染させた(実効再生産数0.44, 360/814)。次世代への感染を起こす割合は, 感染経路不明症例(218/814)の方が感染経路判明症例(53/456)より2.3倍高かった(図2右図)。

 感染経路不明症例が感染の発端となった場合, 最大で五次感染まで発生したが, 感染経路判明症例では三次感染までであった。感染経路判明症例の発症から判明までの日数の中央値は6日(四分位範囲4-9)で, 感染経路不明症例の中央値8日(四分位範囲5-10)に比較して短かった。

同居または家族内感染例の感染伝播への影響

 同居, または家族内(パートナー含む)で感染を受けた348例のうち13例(4%)が次の感染を引き起こした。一方で, 同居または家族内感染(パートナー含む)以外で感染を受けた症例では, 164例のうち次の感染を引き起こした症例は32例(20%)と, 同居, または家族内感染に比較し高かった。小児は, 感染するリスクおよび感染させるリスクが他の年代に比較し低いとの報告が先行研究でみられることから, 13歳以上の症例に限定し, 次の感染を引き起こす症例の割合を同居または家庭内感染を受けた症例と, それ以外の症例で比較した結果, 同じ結果〔4%(13/316)vs 20%(32/162)〕が得られた。

まとめと考察

 感染経路判明の有無によって認められた二次感染を引き起こす割合(あり:12% vs なし:27%)や感染世代数(あり:三次感染 vs なし:五次感染)の違いは, 積極的疫学調査により感染経路や濃厚接触者を特定することや, 症例が周囲の感染状況により自発的な早期受診を実施したことで, 感染経路判明例で発症から判明までの日数がより短い傾向となったこと(あり:中央値6日 vs なし:中央値8日), が影響している可能性が考えられた。

 同居または家庭内感染を受けた症例は, その他の感染背景を有する症例に比較し, 次の感染を引き起こす症例の割合が小さかった(4% vs 20%)。すなわち, 家庭内感染を受けた症例は, その他の感染背景を有する症例に比較し, 早期に濃厚接触者として探知され, さらなる感染伝播が抑制されるためと考えられた。
今回の調査対象範囲, 期間および症例数が限定的ではあるが, 保健所による感染経路や濃厚接触者等の積極的疫学調査が, 感染拡大の抑制に寄与していると考えられる。


 
大阪府健康医療部         
保健医療室感染症対策課     
大阪市保健所           
大阪健康安全基盤研究所      
公衆衛生部健康危機管理課    
疫学調査チーム(O-FEIT)    
 柿本健作  

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan