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札幌市内の高齢者向け社会福祉施設における新型コロナウイルス感染症事例の特徴

(IASR Vol. 41 p130-131: 2020年7月号)

札幌市では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)症例が2020年4月以降再び増加し, 特に高齢者向け社会福祉施設での症例発生が増えていた1)。これら施設でのCOVID-19事例は引き続き増加すると考えられ, その予防と事例発生後の対応は喫緊の課題である。今後の対策に活かすため, 札幌市における高齢者向け社会福祉施設でのCOVID-19事例の特徴を調べた。

2020年5月4日~5月18日に札幌市においてRT-PCR法でSARS-CoV-2が検出された人を確定症例とした。札幌市保健所の調査で高齢者向け社会福祉施設と関連を認めた確定症例について, 調査票を用いた調査を行い, その結果から初発症例の行動歴, 事例の規模, 対応を確認した。施設の種類は入居型(介護老人保健施設, 老人ホーム, サービス付き高齢者向け住宅等), 通所型(通所介護), 訪問型(訪問看護ステーション)と分類した。

期間中に13のクラスター事例が確認された。施設種類別のCOVID-19確定症例数, 濃厚接触者数および初発症例属性をに示す。施設種類では入居型が8事例(62%)と最も多く, 次いで通所型4事例(31%)であった。初発症例は, 利用者10例(77%), 職員3例(23%)であった。13事例の推定感染経路をに示す。施設Aには, 既にクラスターとなっていた施設Xの医療従事者からAの介護従事者を介して利用者に感染が拡大し, この利用者から訪問介護を実施した施設Kの医療従事者に感染した。さらに, 施設Kでは職員の健康観察を実施していたが, 呼吸器症状を呈していた感染職員が, 施設Zの利用者に訪問介護を実施し, 感染させていた。施設Hの利用者は, デイケア施設Mの利用日に発熱していたが, そのまま利用して麻雀をし, 施設Mの利用者および職員に感染が拡がっていた。施設Mの感染職員は, 併設施設Lと休憩室や更衣室を共用しており, 感染職員が施設Lへの感染伝播経路の一因となっていた。施設Fの利用者は, 施設Cの初発症例とともに施設の共用食堂を利用して感染したと推定された。入居型8事例では, すべて入居者が先に発症していたが, 職員の健康観察は必ずしも適切に実施されておらず, どこからCOVID-19が入り込んだかは不明であった。

高齢者はCOVID-19による死亡リスクが高く2), 高齢者向け社会福祉施設でのCOVID-19アウトブレイクも報告されている3,4)。今回の調査結果から, 市中でCOVID-19が流行している状況では, 高齢者向け社会福祉施設での感染拡大防止のため, 次の対応が必要と考えられた。

1. 訪問診療, 通所介護等の要否を確認し, 不要不急のものは実施を延期する

2. 施設に訪問または通所する場合, 事前に訪問者と利用者の健康状態を確認し, 感染が否定できない症状がある場合は, サービスの提供や利用を控える

3. 有症状の利用者は個室に隔離し, 有症状の職員は自宅で安静を基本とする

4. 施設内の集団での作業(食事, 就労作業, レクリエーション等)を一時中止する

まだCOVID-19が流行していない地域や, 流行が小康状態にある地域においても, 社会福祉施設へのCOVID-19の持ち込み防止, 持ち込まれた時の早期探知と対応の体制づくり, 複数のCOVID-19患者が発生した時の支援体制等の調整を進めることが重要である。

 

参考文献
  1. 札幌市, 新型コロナウイルス感染症の市内発生状況等, 2020
    https://www.city.sapporo.jp/hokenjo/f1kansen/2019n-covhassei.html(accessed June 8, 2020)
  2. Mehra MR, et al., N Engl J Med, 2020
  3. Hannah R, et al., J Am Geriatr Soc, 2020
  4. 茨戸アカシアハイツ新型コロナウイルス感染症患者の発生状況と対応(第2報)
    http://www.keiyu-kai.org/htdocs/wordpress/wp-content/uploads/2020/05/茨戸アカシアハイツ2.pdf(accessed June 8, 2020)
 
 
札幌市新型コロナウイルス感染症対策室  
 山口 亮 東小太郎 小野嵩史 川西稔展 千葉紘子
 寺田健作 中西香織 藤川知子 三觜 雄 矢野公一          
国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)    
 黒澤克樹 門倉圭佑 鵜飼友彦     
同 薬剤耐性研究センター        
 黒須一見 山岸拓也

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