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新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 2021年5月現在

(IASR Vol. 42 p135-136: 2021年7月号)

 

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスである重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は, コロナウイルス科ベータコロナウイルス属に分類され, 約30,000塩基からなる1本鎖・プラス鎖RNAゲノムを持つ。受容体(アンジオテンシン変換酵素Ⅱ:ACE2)を使ってヒトの細胞に吸着・侵入する。エンベロープを持ち, アルコール, 界面活性剤等により不活化される。

 国内外の発生動向:2019年12月に中国武漢市で発生したCOVID-19は, 短期間に世界中に広がり, 2020年3月11日には世界保健機関(WHO)によりパンデミック状態にあると発表された。2021年6月1日のWHO COVID-19 Weekly Epidemiological Update(2021年5月30日時点)によれば, 累計患者数169,604,858人, 累計死亡者数3,530,837人と報告されている(https://www.who.int/publications/m/item/weekly-epidemiological-update-on-covid-19---1-june-2021)。

 国内においては, 厚生労働省(厚労省)のオープンデータ(https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/open-data.html)によると, 2020年1月16日に最初の患者が確認されて以来, 2021年5月2日(2021年第17週)までに検査陽性者(陽性者)数598,298人, 死亡者数10,358人が報告されている()。2020年4月以降COVID-19は繰り返し流行し, 2021年3月中旬頃に再度検査陽性者と入院治療等を要する患者数が増加し始め, 3月下旬からは重症者数も増加し, 医療提供体制の逼迫が深刻化した。政府は2021年4月5日以降, 東京都, 大阪府等1都, 2府, 7県において, まん延防止等重点措置を開始した。さらに4月25日には, 東京都, 大阪府等1都, 2府, 1県に対して, より強力な施策として緊急事態宣言を発出, その後, 愛知県, 北海道, 沖縄県等1道5県にも発出した。

 厚労省の「新型コロナウイルス感染症の国内発生動向(速報値)」:2021年5月26日18時時点(https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000785178.pdf)によると, 陽性者の男女比(男/女)は1.2, 陽性者全体に対する年齢階級ごとの陽性者の割合は20代(22.2%), 次いで30代(14.9%), 40代(14.4%), 50代(13.1%), 60代(8.5%), 70代(7.5%), 80代以上(7.4%), 10代(7.3%), 10歳未満(3.2%)の順であった(不明・調査中・非公表の1.4%を除く)。各年齢階級別人口を考慮しても, 他の年代と比較して, 20~30代の陽性者数が多い。各年齢階級別にみた死亡者数の陽性者数に対する割合は80代以上で13.2%, 70代で4.8%, 60代で1.3%, 50代で0.3%, 40代で0.1%, 30代以下は0.0%であった。80代以上の陽性者数は全陽性者数の7.4%であったが, 死亡者数は全死亡者数の64.7%を占めた(小数点以下第2位四捨五入)。

 ゲノムサーベイランスと感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される変異株の出現:国内においては, COVID-19発生初期からSARS-CoV-2のゲノムサーベイランスが行われている(https://www.niid.go.jp/niid/ja/basic-science/467-genome/9586-genome-2020-1.html)。国立感染症研究所(感染研), 地方衛生研究所(地衛研), 検疫所等では協力してウイルスゲノム解析を実施しウイルスゲノム情報を使用したクラスター対策(本号3&5ページ)や疫学情報と併せてのモニタリング(本号7ページ)に活用されている。

 2020年末から, 感染・伝播性, 重症度および抗原性等に影響を与える可能性がある遺伝子変異を有するSARS-CoV-2変異株の出現が問題となっている。特に英国で最初に検出されたB.1.1.7系統(アルファ株), 南アフリカで最初に検出されたB.1.351系統(ベータ株), ブラジルからの帰国者において日本で最初に検出されたP.1系統(ガンマ株), インドで最初に検出されたB.1.617.2系統(デルタ株)の流行が世界的に懸念されている。これら変異株に対する対策として, わが国ではゲノムサーベイランスを強化した。検疫においては, 入国者の陽性例全例に対してウイルスゲノム解析を試み, また, 国内においては, 地衛研がB.1.1.7系統(アルファ株), B.1.351系統(ベータ株), P.1系統(ガンマ株)に認められるN501Y変異をスクリーニングできる核酸検査(PCR法)を実施し, 陽性例は地衛研または感染研でウイルスゲノム解析を行っている。

 国内では, 2020年末からB.1.1.7系統(アルファ株)が海外から流入, クラスターが散発し, この対策が行われてきた(本号3ページ)が, N501Y変異を有するB.1.1.7系統(アルファ株)の報告数と割合が全国で増加傾向となった。

 変異株の出現については, 感染・伝播性, 重症度および抗原性等の表現型の評価に加えて, 既存の核酸検査(PCR法など)で検出可能か等も継続して検討していく必要がある(本号9ページ)。

 治療, ワクチン:COVID-19に対しては, わが国では重症度等に応じて, レムデシビル, デキサメタゾンが承認されて使用されてきたが, 2021年4月23日にバリシチニブ〔ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤〕が追加承認となった〔新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第5版〕。中等症Ⅱ以上では抗凝固薬であるヘパリンが併用されている。また, 国内外で, 多くの薬剤が開発段階にある。

 COVID-19に対するワクチン(新型コロナワクチン)の開発・導入が急速に進み, いくつかのワクチンはランダム化比較試験において高い有効性(vaccine efficacy), 安全性が示された。2021年5月現在, 日本ではファイザー社製, モデルナ社製, アストラゼネカ社製のワクチンが承認されている。首相官邸のウェブサイト(https://www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho/vaccine.html)によると, 2021年6月1日までに2回接種終了者は, 医療従事者314万人, 高齢者47万人(合計361万人:国民の約2.9%)である。ワクチン有効性と安全性の継続的なモニタリングは今後も必須であり, 国内での接種開始と同時に副反応モニタリングが開始されている(本号11ページ)。

 今後の課題:ワクチン接種が先行している諸外国の一部では, 感染対策の緩和なども行われつつある。こうした中で, COVID-19に対する課題としては, 以下が挙げられる。

 まず, ワクチン効果の持続期間の検討である。各国で既に使用が開始されているワクチンの有効性を評価したランダム化比較試験の追跡期間は, 2回目接種後から2カ月程度と短く, 盲検も早期に解除されている。免疫の減衰や感染対策の緩和により影響を受ける可能性がある実社会におけるワクチンの有効性(vaccine effectiveness)を経時的に評価する必要がある。

 次に, 国内外で臨床試験・前臨床試験段階にある新型コロナワクチンの開発と評価である。今後は, 各国で使用されているワクチンで付与される免疫(液性免疫や細胞性免疫等)のレベルを基に, 感染や発症からの防御に必要とされる免疫のレベルを推定し, これを有効性評価の一基準として用いることが検討されている。WHOは, 英国National Institute for Biological Standards and Controlとともに, SARS-CoV-2に対する抗体の国際標準品を作製し, 分配しているが, これによって各臨床試験における抗体測定系がある程度標準化されることが望まれる(本号13ページ)。中長期的にはブースターワクチンが必要になる可能性がある中で, 安全で有効なワクチンの継続的な開発により, ワクチン忌避を減らし, 複数の有効なワクチンが存在することで新規に出現した変異株に, より対応しやすくなり, 主に先進国と途上国の間で問題となっている新型コロナワクチンのワクチンギャップがより狭まる可能性もある。

 最後に, 抗原性が変化した変異株の出現である。これに対しては, 流行を抑制することによりウイルスが変異する機会を減らすとともに, ゲノムサーベイランスによる早期の探知と対応が必要である。検疫においても, 海外からの変異株の流入を防ぐ, または遅らせる継続的な対策・監視・対応が重要である。また, 再感染例やブレイクスルー感染(ワクチン接種後感染)においては, 免疫を逃避するウイルスが選択される可能性もあり, こうした感染例のモニタリングや原因究明も必要となる。このような課題がある中で, ワクチンで感受性者を減少させるとともに, 感染源・感染経路を意識しながら, いわゆる「3密」の回避, 物理的距離の保持, マスクの着用, 手指衛生等の感染対策の継続的な遵守が求められる。 

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