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新型コロナウイルス感染症 2020年5月現在

(IASR Vol. 41 p103-105: 2020年7月号)

コロナウイルスはプラス鎖1本鎖のRNAをウイルスゲノムとして有するエンベロープウイルスであり, ヒトに感染するコロナウイルスとしては, 風邪の原因ウイルスであるヒトコロナウイルス229E, OC43, NL63, HKU1の4種類, そして, 重篤な肺炎を引き起こす重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルス(SARS-CoV)と中東呼吸器症候群(MERS)コロナウイルス(MERS-CoV)が知られていた。2019年12月に確認された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の病原ウイルスであるSARS-CoV-2は, SARS-CoVと同じベータコロナウイルス属に分類され, 遺伝子の相同性が高く(約80%), 受容体(ACE2)を使ってヒトの細胞に吸着・侵入することが報告されている。

国内外の発生動向:2019年12月31日, COVID-19は, 中国湖北省武漢市より, 病因不明の肺炎症例クラスター(患者間の関連が認められた集団)として, 世界保健機関(WHO)に報告された(本号3ページ)。中国国内における症例数増加に加え, 日本を含む19カ国においてヒト-ヒト感染が確認されたことを受け, 2020年1月30日, WHOは, COVID-19が, 国際保健規則(IHR)における「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」に該当すると宣言した。その後の感染拡大の状況から, 3月11日, WHOはCOVID-19をパンデミック(世界的な大流行)とみなせると表明した。6月4日時点のデータによれば, WHOの分類する6地域すべての216カ国において6,287,771例のCOVID-19患者が確認され, うち379,941例が死亡している(本号3ページ)。

5月31日24時現在, 厚生労働省(厚労省)による報道発表では(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00086.html), 国内のPCR検査陽性者は16,884例(国内事例16,679例, チャーター便帰国者事例15例, 空港検疫事例190例)であった(海上で検疫を実施したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」(本号4ページ)は含まない)。うち, 追跡調査を含み死亡者数892例が判明した。

日本では, 新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令が1月28日に公布され, 2月1日より施行された(表1)。以降, 感染症発生動向調査(NESID)に届け出られた症例で, 2020年第22週現在, 自治体が確認処理を行い検査確定したものは16,911例(患者15,012例, 無症状病原体保有者1,868例, 届出時点の感染症死亡者の死体31例)(以下, 症例という)であった。5月31日現在, NESID上の届出最多日は4月9日(655例), 発症最多日は4月1日(431例:発症日判明例のみ)であった()。症例の性別は, 男性9,284例, 女性7,627例(男女比1.2:1)であり, 年齢中央値は49歳(範囲0-104)であった。届出時点での主な症状(重複あり)は, 発熱75%, 咳43%, 咳以外の急性呼吸器症状8.9%, 重篤な肺炎6.9%であった。国内では, 3月上旬から主に欧米との関連が疑われる事例が増加した。3月中旬には感染源不明の症例数および, その割合が増加した。3月下旬には, 都市部を中心にクラスターが報告された(本号89ページ)。

NESID病原体サーベイランスに, 1月29日~6月16日の間に全国の地方衛生研究所(地衛研), 保健所等から報告されたCOVID-19疑い例から検出された病原体は, SARS-CoV-2が3,177件(4月が最多の2,188件), 陰性が24,555件であった(表2)。

感染経路および治療・予防方法:COVID-19の初期症状はインフルエンザや感冒に似ており, 発症初期での鑑別は困難である。感染経路は飛沫感染, 接触感染が主であり, 1~14日(5~6日間が最も多い, 4月17日付WHO)の潜伏期間を経て, 発熱や呼吸器症状, 全身倦怠感等で発症する。大半の患者(WHOは約8割としている)は病院での治療の必要もなく回復する。感冒様症状が1週間前後持続することが多く, この頃より胸部X線写真, 胸部CTなどで肺炎像が明らかになることがある。一部の重症化する患者については呼吸不全が進行する。特に高齢者や基礎疾患等を有する者は重篤になり得る高リスク者である。

有効で特異的な治療法はまだ確立されていない。エボラ出血熱の治療薬として開発されたレムデシビルが5月7日に特例承認された他, 6月17日現在, 国内ではファビピラビル, シクレソニド等が, 観察研究, 特定臨床研究, 企業治験などの対象となっている。COVID-19に対するワクチンの開発は日本を含めて多くの国で進められている。

検査診断および病理所見:国立感染症研究所は, SARS-CoV-2遺伝子検出用のリアルタイムPCR検査法の開発や, 行政検査の確立に関連する新型コロナウイルス病原体検出マニュアル(https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2518-lab/9403-labo-manual.html)の公表, 地衛研等の診断目的で行政検査を実施する検査施設への支援, 感染症法の4種病原体に分類されたSARS-CoV-2の分与等を行い, 効率よくSARS-CoV-2を分離する培養細胞を開発した(本号13ページ)。また, 臨床的な判断の一助として, 患者病日とリアルタイムPCR検査におけるthreshold cycle(Ct)値に相関があるとして活用されている(本号15ページ)。

SARS-CoV-2抗原検査については, 酵素免疫測定法を原理としたイムノクロマトグラフィー法による迅速診断キットが実用化され, 排出ウイルス量が多い患者については検出可能である。迅速抗SARS-CoV-2抗体検査キットが開発されているが, 性能評価の結果は概して不十分であり, 検査結果の解釈には注意が必要である。抗体価の定量的測定のための標準品等の整備も必要である。

COVID-19剖検例の病理組織に関する解析は病態の解明に非常に重要である。国内初の剖検例では, 肺は, 急性呼吸促迫症候群の病理像である, びまん性肺胞傷害像を呈していた。SARS-CoV-2の検出量は肺末梢組織, 気管支, 気管や鼻咽頭の順で多く, 血液, 便からも低コピー数検出された(本号16ページ)。

公衆衛生対策および緊急事態宣言とその解除:3月14日, 新型インフルエンザ等対策特別措置法の一部改正が正式閣議決定され, 新型コロナウイルス感染症が同法に規定する新型インフルエンザ等とみなされることになった。3月28日には「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」が発表され, 感染者数を抑えること, および医療提供体制や社会機能を維持することが重要であり, 積極的疫学調査等によるクラスター発生の封じ込めが推進されている。COVID-19の特性とされる, 感染者が感受性者と3つの「密」(密閉空間・密集場所・密接場面)を共有することにより形成されやすくなるクラスターの特定と, クラスターからの連鎖の遮断は重要である(本号6ページ)。国内では保健所を中心に感染者の行動歴把握, 濃厚接触者リストアップや健康観察などの接触者調査が行われている(本号1112ページ)。

4月7日, 感染経路が特定できない症例が多数に上っていること, 医療提供体制も逼迫してきていること等として, まず7都府県に対して, 次に4月16日には全都道府県を対象に, 緊急事態宣言が発出された。その後の動向の変化に伴い, 5月25日には, すべての都道府県で緊急事態宣言の解除が行われた。

今後の課題:わが国においては厚労省を中心として, 感染拡大を防ぐために必要な情報の周知, 医療体制, 研究開発を進めていく方針である。

情報収集体制としては, 情報共有・把握の迅速化を図るために新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)を導入し, 保健所などの業務負担の軽減を図りつつ, より迅速な情報収集を行うこととした。本システムを活用することにより, 保健所, 自治体(保健所以外の部門), 医療機関等で情報共有が即時に行えるようになる。また, 接触者の把握を各自が速やかに行えるよう, 新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)を開発した。このアプリは, 利用者の同意を得た上で, 利用者のスマートフォンのBluetooth機能を利用し, 感染者と接触者のお互いのプライバシーを確保した上で, 利用者が陽性の利用者と接触した可能性がある場合に通知を受けることができる。通知を受けた利用者は迅速に検査の受診など保健所のサポートを受けることができ, 感染拡大防止につながることが期待される。このように, 情報収集の迅速化と共有化を進めるとともに, ソーシャルディスタンシングなどの国民の行動変容と合わせて, 接触者がすみやかに受診につながるよう周知する体制を推進している。

医療体制としては, 水際対策を継続するとともに, 濃厚接触者へ積極的に検査を行うことにより, 無症状者を含めた感染者を早期に診断し, クラスター対策を効果的に実施していく。また, これまでの鼻咽頭ぬぐい液のPCR検査に加えて, 唾液のPCR検査, 鼻咽頭ぬぐい液の迅速抗原検査, 鼻咽頭ぬぐい液および唾液の抗原定量検査が実用化されており, 検査施設の体制や感染対策の準備状況に応じて実施している。医師会と連携した検査センターなどの受診体制の整備と宿泊療養施設を含めた陽性患者の症状に合わせた治療体制の整備を進め, 医療提供体制が破綻することを防ぐことが重要である。

研究開発としては, レムデシビルに続く治療薬の開発の推進, 国内外で開発が進んでいるワクチンの研究の推進を行い, 実用化に向けて全力を挙げて取り組んでいる。

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