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国立感染症研究所
2021年5月10日時点
(掲載日:2021/5/13)

要約

国内に導入された新型コロナワクチンBNT162b2(Pfizer/BioNTech)の臨床的効果を迅速に評価することを目的として、サーベイランスデータを用いてワクチンを接種した医療従事者の仮想コホートを構成した。接種者においてCOVID-19報告率は1回目接種日から12日前後を境に低下する傾向がみられた。接種後0-13日の報告率と比較したときの報告率比は、14-20日が0.42(95%CI: 0.30-0.59)、21-27日が0.39(95%CI: 0.27-0.56)、28日以降が0.14(95%CI: 0.09-0.21)であった。

1.背景

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチンのひとつであるBNT162b2 (Pfizer/BioNTech)は、SARS-CoV-2 のスパイクタンパク質遺伝子を用いたメッセンジャーRNA (mRNA) を基にしたワクチンである(1)。海外で実施された第III相臨床試験では、プラセボ群と比較した発症抑制効果(vaccine efficacy)は1回目接種後の全期間(追跡期間の中央値2か月)で82.0% (95%信頼区間(CI) 75.6-86.9%)であり、1回目接種後から2回目接種前までの効果は52.4% (95%CI: 29.5-68.4%)、2回目接種から7日後以降のそれは94.8% (95%CI: 89.8-97.6%)であった (2)。またイスラエルで行われた観察研究では、COVID-19報告の抑制効果(vaccine effectiveness: VE)は1回目接種後14日から20日までは46% (95%CI: 40-51%)、2回目接種から7日後以降は92% (95%CI: 88-95%)であった(3)。一方で、いずれの研究においてもワクチンの効果が発現するのは1回目接種から12日目以降であった(2,3)。

BNT162b2は国内では2021年2月14日に薬事承認され、2月17日から医療従事者を対象とした先行接種が開始となった。4月12日からは高齢者への接種が開始となった。本報告は国内に導入されたBNT162b2の臨床的効果を迅速に評価することを目的として、サーベイランスデータを用いてワクチンの接種を受けた医療従事者の仮想コホートを構成し、1回目接種後のCOVID-19報告率の変化を検討した。

2.方法

本報告では、ワクチン接種円滑化システム(V-SYS)と新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS) のデータを用いて分析を行った。V-SYSはワクチンの在庫や発注量、接種実績を一元的に管理する情報システムであり、予防接種実施医療機関に分配されたワクチンが接種された実績(接種日、接種回数)が記録されている。HER-SYSは、COVID-19患者の発生届出システムであり、2021年2月10日の「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第12条第1項」改正に伴い、COVID-19患者を診断した医師は、発生届に新型コロナワクチン接種歴(ワクチンの種類、接種年月日等)を記録することになっている (4)。本報告では、V-SYSのワクチン接種実績記録を使ってワクチン被接種者の仮想コホートを構成し、HER-SYSから抽出したワクチン接種歴が記録されたCOVID-19患者のデータを、1回目のワクチン接種日と都道府県に基づいて突合した。なおV-SYSのデータには性別、年齢などの基本特性の情報は含まれていない。

解析対象は医療従事者を対象とする先行接種が開始された2021年2月17日から高齢者への接種が開始される前の4月11日までの期間に新型コロナワクチンを少なくとも1回接種した医療従事者とした(仮想接種者コホート)。主評価項目(一次アウトカム)は報告されたCOVID-19症例の診断日とし、副次評価項目(二次アウトカム)は報告時に有症状であった症例(報告時有症状例)の診断日と無症状であった症例(報告時無症状例)の診断日とした。追跡期間は、1回目のワクチン接種日から診断日まで、もしくは2021年4月30日 (HER-SYSデータ取得日)までとし、生存時間解析を行った。1回目のワクチン接種以降の追跡期間を接種後0-13日、14-20日、21-27日、28日以降の4期間に分け、それぞれの期間におけるCOVID-19の報告率(reporting rate)を推定した。また、ポアソン回帰モデルを用いて接種後0-13日の報告率を参照としたときの14-20日、21-27日、28日目以降の報告率比(rate ratio: RR)を推定した。ワクチン接種後の感染リスクは地域の流行によって変化する可能性がある。そのため感度分析として、混合効果モデルを用いて疫学週と都道府県ごとのクラスタリング効果を考慮した追加解析を行なった。なお、今回は対象者の2回目の接種を終えてからの追跡期間が短く、1回目接種後と2回目接種後の報告率の変化について検討できるだけの十分なサンプルサイズを確保することはできなかった。

3.結果

1) 基本情報

2021年2月17日から4月11日の期間中に、医療従事者1,101,698人に対して1回目の新型コロナワクチン接種が実施され、このうち4月30日の時点で2回目の接種終了者は1,042,998人(94.7%)であった (図1)。4月30日までにHER-SYSに登録され、少なくとも1回のワクチン接種歴が記録されているCOVID-19症例は282例であった。このうち、発症日がワクチン接種日よりも前であった1例は解析から除外した。281例中、ワクチン接種後28日以内に診断された症例は256例(91.1%)であった。症例は女性および20-40歳代が約7割を占めていた(表1)。2回目の接種後に診断された症例は全体の16.7%で、このうち報告時無症状例が占める割合は40.7%であり、1回目の接種後に診断された症例に占める報告時無症状例の割合(20.0%)より高い傾向にあった。

図1: 新型コロナワクチン被接種者数の推移

covid19 46 fig1

新型コロナワクチン接種実参照:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_sesshujisseki.html, https://www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho/vaccine.html

表1: 新型コロナワクチンを接種後にCOVID-19と診断報告された症例

    ワクチン1回目接種後0-27日 ワクチン1回目接種後28日以降
    総数 総接種回数1回 総接種回数2回 総数 総接種回数1回 総接種回数2回
    No. (%) No. (%) No. (%) No. (%) No. (%) No. (%)
    256 233 23 25 1 24
性別 72 (28.1) 63 (27.0) 9 (39.1) 8 (32.0) 1 (100) 7 (29.2)
183 (71.5) 169 (72.5) 14 (60.9) 17 (68.0) 0 17 (70.8)
不明 1 (0.4) 1 (0.4) 0 0 0 0
年代 0-19 0 0 0 0 0 0
20-29 76 (29.7) 75 (32.2) 1 (4.4) 9 (36.0) 1 (100) 8 (33.3)
30-39 58 (22.7) 49 (21.0) 9 (39.1) 6 (24.0) 0 6 (25.0)
40-49 53 (20.7) 47 (20.2) 6 (26.1) 8 (32.0) 0 8 (33.3)
50-59 44 (17.2) 38 (16.3) 6 (26.1) 1 (4.0) 0 1 (4.2)
60-69 17 (6.6) 16 (6.9) 1 (4.4) 0 0 0
70歳以上 8 (3.2) 8 (3.4) 0 1 (4.0) 0 1 (4.2)
不明 0 0 0 0 0 0
症状 有症状 201 (78.5) 186 (79.8) 15 (65.2) 13 (52.0) 0 13 (54.2)
無症状 54 (21.1) 46 (19.8) 8 (34.8) 12 (48.0) 1 (100) 11 (45.8)
不明 1 (0.4) 1 (0.4) 0 0 0 0
2) 接種後の期間別COVID-19報告率

1,101,698人の仮想コホートについて、1回目接種日以降の追跡期間中に281例のCOVID-19報告があったとみなして生存時間解析を行った。カプランマイヤー曲線では1回目接種日から12日前後を境にイベントの発生が減少する傾向がみられた(図2)。接種日からの期間ごとのCOVID-19報告率は、接種後0-13日が1.26/10万人日、14-20日が0.53/10万人日、21-27日が0.49症例/10万人日、28日以降が0.18/10万人日であった(表2)。接種後0-13日の報告率と比較したときの報告率比は、14-20日が0.42(95%CI: 0.30-0.59)、21-27日が0.39(95%CI: 0.27-0.56)、28日以降が0.14(95%CI: 0.09-0.21)であった。報告時有症状例に比べて報告時無症状例の報告率は全期間において低かった。また期間別報告率の経時的な低下傾向は、報告時有症状例に比べて報告時無症状例では小さかった。これらの結果は、疫学週と都道府県ごとのクラスタリング効果を考慮した感度分析の結果と大きな違いはなかった。

表2: 新型コロワクチンを接種後のCOVID-19報告率と報告率比

  ワクチン接種後日数 人-日 感染者数 報告率 (/10万人日) (95%CI) 報告率比 (95%CI) P値
全体 0-13日 14322331 181 1.26 (1.09-1.46) reference  
14-20日 7711134.2 41 0.53 (0.39-0.72) 0.42 (0.30-0.59) <0.001
21-27日 6982998.2 34 0.49 (0.35-0.68) 0.39 (0.27-0.56) <0.001
28日以降 14283135 25 0.18 (0.12-0.26) 0.14 (0.09-0.21) <0.001
有症状例 0-13日 14322331 151 1.05 (0.90-1.24) reference  
14-20日 7711134.2 26 0.34 (0.23-0.50) 0.32 (0.21-0.48) <0.001
21-27日 6982998.2 24 0.34 (0.23-0.51) 0.33 (0.21-0.50) <0.001
28日以降 14283135 13 0.09 (0.05-0.16) 0.09 (0.05-0.15) <0.001
無症状例 0-13日 14322331 29 0.20 (0.14-0.29) reference  
14-20日 7711134.2 15 0.19 (0.12-0.32) 0.96 (0.52-1.79) 0.900
21-27日 6982998.2 10 0.14 (0.08-0.27) 0.71 (0.34-1.45) 0.345
28日以降 14283135 12 0.08 (0.05-0.15) 0.41 (0.21-0.81) 0.010

図2: 新型コロナワクチン接種後のCOVID-19報告のカプランマイヤー曲線

covid19 46 fig2

4.考察

本報告では、V-SYSとHER-SYSのデータを用いて新型コロナワクチンBNT162b2を接種した医療従事者の仮想コホートを構成し1回目接種後のCOVID-19報告率を検討した。報告率は1回目接種日から12日前後を境に低下する傾向がみられ、接種後0-13日の報告率と比較すると、14-20日で0.42倍(95%CI: 0.30-0.59)、21-27日で0.39倍(95%CI: 0.27-0.56)、28日以降で0.14倍(95%CI: 0.09-0.21)であった。本報告の分析では比較対象となるワクチン非接種者のCOVID-19報告率の情報がないことから、BNT162b2のVEを直接的に推定することはできない。しかし、BNT162b2は1回目接種から臨床的効果が発現するまでに12日前後を要するという先行研究の結果をあてはめると(2,3)、この結果は対象者において接種後14日以降にCOVID-19報告率が約60%減少したことに相当する。イスラエルで行われた先行研究では、1回目接種後から2回目接種までの期間のVEは46-60%であったと報告されており、本報告の結果はそれと同等である可能性がある(3)。

アウトカムを報告時の症状の有無で分割して解析をしたところ、報告時有症状例については接種後14日以降の報告率の低下の程度が大きい一方、報告時無症状例の報告率の低下は限定的であった。本報告では対象者について定期的な検査を行っていないことから、この違いについての解釈には注意を要する。一方でイスラエルの観察研究においても有症状例に比べて無症状例に対する効果が低い傾向が確認されている(3)。BNT162b2の無症状感染に対する有効性についてはさらなる検証が必要である。

本報告にはいくつかの制約がある。まず本報告で行った分析はあらかじめ計画されたコホート研究ではなく、既存のサーベイランスデータ(V-SYS、HER-SYS)を用いて事後的に構成した仮想コホートを用いた迅速評価である。非接種者の情報はないことからVEを直接推定することはできない。その代わりに先行研究の結果に基づいて、接種後0-13日はワクチンの効果が発現しないという仮定の下で報告率の低下を評価した。その値は先行研究と概ね同等であったが、方法論が異なることから直接の比較はできない。またワクチン接種者の基本特性情報がなく、年齢や性別、基礎疾患などの交絡因子を補正することができなかった。ただし、感染者は医療従事者一般の性別年齢分布を反映し、20-40歳代および女性が大部分を占めていたことから、比較的特性のばらつきが少ない集団であったと考えられる。

本報告は発生届(HER-SYS)のデータを用いていることから、入力漏れや報告の遅れのためにCOVID-19報告率は過少評価である可能性がある。またワクチン接種後の経過日数によって受診行動が変化する可能性があり、これが結果に影響したことが考えられる。ワクチン接種直後は、発熱などの副反応の発現により受診頻度が増える一方で、接種から日数が経過するにしたがって接種したことによる安心から受診頻度が減るかもしれない。しかし、対象者は医療従事者であり、医療機関へのアクセスは一定に保たれていると想定されることから、受診行動の変化の影響は限定的であると期待される。他にもワクチン接種後の地域の流行状況により接種者の感染機会が変化することが考えられるため、この影響を考慮して感度分析を行ったが結果は同様であった。2回目接種後の報告率については、今後のデータの蓄積を待って別途検討が必要である。

5. 文献

  1. 新型コロナワクチンについて 第1版(2021年2月12日現在). [cited 2021 Apr 26]. Available from: https://www.niid.go.jp/niid/images/vaccine/corona_vaccine.pdf
  2. Polack FP, Thomas SJ, Kitchin N, Absalon J, Gurtman A, Lockhart S, et al. Safety and Efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine. N Engl J Med. Massachusetts Medical Society; 2020 Dec 10.
  3. Dagan N, Barda N, Kepten E, Miron O, Perchik S, Katz MA, et al. BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine in a Nationwide Mass Vaccination Setting. N Engl J Med. Massachusetts Medical Society; 2021 Feb 24.
  4. 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第 12 条第1項 及び第 14 条第2項に基づく届出の基準等について(一部改正) [cited 2021 May 2]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/content/000737646.pdf
  5. Lee S, Kim T, Lee E, Lee C, Kim H, Rhee H, et al. Clinical Course and Molecular Viral Shedding Among Asymptomatic and Symptomatic Patients With SARS-CoV-2 Infection in a Community Treatment Center in the Republic of Korea. JAMA Intern Med. American Medical Association; 2020 Nov 1;180(11):1447–52.
  6. Johansson MA, Quandelacy TM, Kada S, Prasad PV, Steele M, Brooks JT, et al. SARS-CoV-2 Transmission From People Without COVID-19 Symptoms. JAMA Netw Open. American Medical Association; 2021 Jan 4;4(1):e2035057–7.

報告書作成:

国立感染症研究所 感染症疫学センター

協力:

東京大学大学院 医学系研究科国際保健政策学 橋爪 真弘

長崎大学熱帯医学グローバルヘルス研究科 Chris Fook Sheng Ng

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan