第13回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和2年11月11日、厚生労働省)の報告による、我が国における新型コロナウイルス感染症の状況等についてお知らせいたします(第13回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料4)。
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直近の感染状況等
・ 新規感染者数は、全国的に見ると、 8月第1週をピークとして減少が続いた後、ほぼ横ばいであったが10月以降増加傾向となり、11月以降その傾向が強まっている。特に、北海道や大阪、愛知を中心に増加がみられ、全国的な感染増加につながっている。 実効再生産数:全国的には1を超える水準が続いている。北海道、大阪、愛知などで概ね1を超える水準が続いており、東京では1を挟んで前後している。
・ 感染拡大の原因となるクラスターについては、地方都市の歓楽街に加え、会食や職場及び外国人コミュニティー、医療機関や福祉施設などにおける事例など多様化や地域への広がりがみられる。一部の地域では感染拡大のスピードが増しており、感染の「減少要因」を早急に強める必要がある。このまま放置すれば、更に急速な感染拡大に至る可能性がある。
・ 一方で、感染者に占める60歳以上の割合は横ばいで推移している。また、病床占有率は、微増の動きとなっているものの、入院患者全体、重症者とも10%前後となっている。ただし、入院者数、重症者数は10月末から上昇に転じているとともに、一部地域では、病床占有率が高まってきており、留意が必要。
今後の対応について
社会の中で国民や医療現場、保健所、事業者等における取り組みが積み重ねられ、また、治療法の標準化などもあり、致死率や重症化率がこれまで抑えられてきたが、公衆衛生体制や医療提供体制への負荷を過大にしないためにも、可及的速やかに減少方向に向かわせる必要がある。
感染が拡大している地域や拡大の兆しがみられる地域では、地域によって異なるクラスター発生の要因を分析し、早急な対応が必要。また、急速な感染拡大に伴う検査や保健所機能、医療提供体制の確保のための各地域の取組やそれへの支援が必要である。
クラスターの多様化や地域への広がりがみられる中、感染の「減少要因」を強めるためには、①今までよりも踏み込んだクラスター対策及び②基本的な感染予防対策の徹底(「5つの場面」などを活用した実際の行動変容につながるよう情報発信の強化)が求められる。
分科会の緊急提言【別添】も踏まえ、接待を伴う飲食店への取組の徹底や、医療が受けにくいなどの困難を抱える外国人コミュニティへの支援等クラスターの特徴に応じた対応を着実に行うとともに、医療機関等における検査の徹底等の速やかな対応、クラスター情報等の迅速な共有を進める必要がある。
また、海外からの入国に関しては、検疫での対応や自治体への必要な情報の共有、発症時の受診方法等必要な情報について、入国する方の特性に応じた情報提供、自治体や医療機関への支援等の対応が必要である。
こうした取組によっても、感染の急拡大や病床のひっ迫が見られる等の場合には、社会経済活動に一定の制約を求めるような強い対策を行う必要があることから、そうした事態を回避するためにも、国民が一丸となって対策を進めていく必要がある。
緊急提言:最近の感染状況を踏まえた、より一層の対策強化について
第14回新型コロナウイルス感染症対策分科会
【はじめに:緊急提言の基本的考え方】
社会経済活動が徐々に戻る中、適切な感染防止策が講じられなければ、感染の「増加要因」が強まり、その力が人々の基本的な感染防止策や自治体によるクラスター対策などの感染の「減少要因」を上まわることになる。最近になって、クラスターの数も増え、しかも、多様化しつつある。そうした中、「減少要因」を早急に強めなければ、急速な感染拡大に至る可能性が高い。社会の中で国民や医療現場、保健所、事業者等における取り組みが積み重ねられ、また、治療法の標準化などもあり、致死率や重症化率がこれまで抑えられてきたが、医療提供体制への負荷を過大にしないためにも、可及的速やかに感染を減少方向に向かわせる必要がある。
今回の緊急提言は、これまでの分科会提言や政府が示してきた大きな方向性(※)を踏まえ、今回初めて経験する冬場においても社会経済活動と両立できるよう、国民、自治体、国等のそれぞれに求められる具体的な5つのアクションをまとめたものである。
分科会として政府に対してここに提言する。
※「新型コロナウイルス感染症への対応について」(第44回新型コロナウイルス感染症対策本部報告 令和2年10月30日)
【求められる5つのアクション】
アクションNO.1. 今までよりも踏み込んだクラスター対策
背景
クラスターの数が増え、しかも、多様化している。そうした中で、「早期探知しにくい」又は「閉じにくい」クラスターが増加している。これまでは、PCR検査等で感染が確認されて初めて濃厚接触者への対応などが行われてきたが、検査による確認の前に、クラスター発生の予兆をとらえることが、これまで以上に求められる。
これまでの分析によれば、クラスターはその特徴によっていくつかのカテゴリーに分けられる。
- 「早期検知しにくい」クラスター:感染の事実そのものが現状のシステムでは探知されにくいクラスターである。具体例としては、①一部の外国人コミュニティや②大学生の課外活動など若年層を中心としたクラスターが挙げられる。①については言葉や受診行動の違いがあることなどから、また、②については感染しても無症状の人が多いことなどから、探知されにくいことが原因と考えられる。
- 「閉じにくい」クラスター:感染者が不特定多数に接触し、濃厚接触者の把握が難しく、「閉じにくい」クラスターである。具体例としては、接待を伴う飲食店などが挙げられる。
具体的アクション
(1)それぞれのクラスターの特徴に応じた効果的かつ効率的な対策を行うこと。
- 接待を伴う飲食店:第13回分科会(令和2年10月29日)でまとめられた大都市の歓楽街における感染拡大防止対策ワーキンググループで提案された対策(具体的には、信頼関係に基づいたネットワークの構築や相談・検査体制の拡充など)を地方都市の歓楽街も含めて迅速かつ確実に進めていくこと。
- 外国人コミュニティ:外国人コミュニティを支援し、多言語・やさしい日本語での情報の発信及び伝達、相談体制を多元的なチャンネルで進めていくこと。そのために、各国大使館等との連携や自治体による周知に加え、コミュニティとのネットワークや経験を有する国際交流協会やNPO、NGO等と連携すること。
- 高等教育機関(大学、専門学校等):大学等では、授業そのものよりは、むしろ飲み会や寮生活、課外活動等でクラスターが発生している。感染防止と学修機会の確保の両立を図ることが極めて重要である。そのために、自治体は、域内の大学等の学生の相談を受けている健康管理センターなどと協力して、感染防止に関する啓発やクラスター感染が起きた場合の迅速な情報の共有を進めること。さらに、必要な場合に速やかに受診・検査につながる取り組みを進めていくこと。
- 職場:職場でも、仕事そのものよりは、むしろ仕事後の飲み会や喫煙などの休憩等でクラスターが発生している。このことから、事業者は、産業医等と連携し、感染防止策を今まで以上に進めること。特に、具合が悪い人が休めるようにすることやクラスターの発生が疑われた場合に迅速に保健所に協力すること。
(2)「早期探知しにくい」クラスターを探知するためには、原因が明らかではないが、普段とは何か違う状況が発生した場合に探知する仕組みが必要である。これは、いわば「異常事象検知サーベイランス」ともいうべきものであり、国際的にも、Event-based surveillance(EBS)として推奨されている。そのため、自治体は、既に各都道府県等において設置されている新型コロナウイルス感染症対策のための協議会を活用し、高齢者施設及び医療機関等と協力すること。また、学校等欠席者・感染症情報システム及びSNS上のデータを分析する仕組み等を活用すること。
(3)これまでも度々指摘されてきた、①感染者の発症日、②クラスターの発生状況に関する最新の情報、 ③クラスター対策の好事例について、自治体間及び国との間でより迅速に情報共有する仕組みを早急に設けること。
アクションNo.2 対話のある情報発信
背景
これまでも、三密や大声が感染リスクを高めるというメッセージは繰り返し発信してきた。さらに、最近では、感染リスクが高まる「5つの場面」や「感染リスクを下げながら会食を楽しむ工夫」なども政府に提言した。しかし、最近の感染状況を見ると、こうしたメッセージが人々の実際の行動変容及びその維持につながるようには必ずしも十分には伝わってこなかった可能性がある。
具体的アクション
(1)感染リスクが高まる「5つの場面」や「感染リスクを下げながら会食を楽しむ工夫」(例えば、会食時に食べるときだけマスクを外し、会話の時はマスクをする 。)などを、特に若年層や忘年会・新年会を含め飲み会などの参加者を中心に興味を持ってもらえる方法で伝えること。その際には、動画投稿サイト等のSNSをはじめ、様々な媒体も活用すること。
(2)メッセージの受け手の気持ちや受け止め方を理解した上で情報発信し、その効果や影響を確認し、次の発信に役立てること。
アクションNo.3 店舗や職場などで感染防止策の確実な実施
背景
業種別ガイドラインの策定が現場でも進んできたが、引き続き、クラスターが発生している。
具体的アクション
(1)事業者は、店舗や職場などで、感染リスクが高まる「5つの場面」が具体的にどこにあるのかについて考え、業種別ガイドラインを現場で確実に実践していくこと。その際、自治体や地元の商店街・組合などが連携すること。なお、これまでの経験や新たな知見等に基づいて、業種別ガイドラインの実効性をより高めていくこと。
(2)冬に向けて、換気の問題をはじめとした寒冷地における感染防止策のために、例えば特に飲食店などが二酸化炭素濃度をモニターするなどの具体的な指針を示すこと。
アクションNo.4 国際的な人の往来の再開に伴う取り組みの強化
背景
海外との交流が徐々に再開されていく中で、水際対策と地域での感染対策を連携して行う必要がある。
また、国内地域に入った後に保健所が行う健康監視等に関しては、多言語対応などの必要もあり、個別の保健所では極めて困難である。フォローすべき人数が増えると多大な事務負担につながり、保健所の業務に支障をきたすと考えられる。また、輸入症例が増えると、必要となる病床数も増加する。
具体的アクション
(1)水際対策と地域での感染対策を連携して行うため、国は、①検疫所における滞在国・地域別検疫実施人数及び検査実施人数やその中の陽性者数などの情報を迅速に整理し、公表していくこと。また、②自治体に検疫に係る情報を迅速に提供すること。
(2)国において、自治体での外国人のフォローアップを支援できる仕組みを早急に検討すること。また、検疫時に健康監視等に関する基本的な情報を多言語化して情報提供すること。
(3)さらに、外国人を受け入れる医療機関等に対する支援を強化すること。
アクションNo.5 感染対策検証のための遺伝子解析の推進
背景
ウイルスの遺伝子配列を調べることは、感染の伝播の状況が見えなくなっている地域の感染の由来を調べる上で有効である。地域における感染例でリンクが追えないものも多くなっている。さらに、最近、外国人コミュニティのクラスターも複数県で報告されており、その一部は国内由来ウイルスによるものであることが分かっているが、由来が不明なクラスターも多い。
具体的アクション
(1)ウイルスの遺伝子配列を調べることは、クラスターの由来を明確にするためのみならず、感染対策を検証するためにも有効である。このことから、 ①地方衛生研究所を通じて国立感染症研究所に検体を着実に送付すること。または、 ②地方衛生研究所で遺伝子配列の情報を解析したうえで国立感染症研究所に結果を共有すること。さらに、③その際には実地疫学情報も共有すること。
【おわりに】
- 以上の5つのアクションに加えて、これまでも分科会で提言してきた
・年末年始の休暇を分散すること
・小規模分散型旅行を推進していくこと
・保健所機能及び医療提供体制の強化
などについては、当然のことながら、これまで以上に推進していくことが必須である。
- 以上の5つのアクションを実施しても、第5回分科会(令和2年8月7日)で提言されたステージⅢ相当以上と国や自治体によって判断された場合には、社会経済活動に一定の制約を求めるような強い対策を行う必要があることから、そうした事態を回避するためにも、国民が一丸となって対策を進めていく必要がある。