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2015年7月17日

国立感染症研究所

 

〇事例の概要

2012年9月22日に英国よりWHOに対し、後にMiddle East Respiratory Syndrome Coronavirus(MERSコロナウイルス)と命名される新種のコロナウイルス(以下、MERS-CoV)が中東へ渡航歴のある重症肺炎患者から分離されたと報告された。その後、中東地域に居住または渡航歴のある者、あるいはMERS患者との接触歴のある者において、MERS-CoV感染による中東呼吸器症候群(MERS)の症例が継続的に報告され、医療施設や家族内等において限定的なヒト-ヒト感染が確認されている。

〇疫学的所見(WHOの公表情報より要約)

  • 2015年7月14日までにWHOに報告された確定症例は1,368例(死亡489例:致命率35.7%)、男性が65%を占め、年齢は中央値50歳(範囲:9か月~99歳)であった(WHO Disease Outbreak News http://www.who.int/csr/don/en/ に適宜更新情報掲載)。報告地域は中東地域(ヨルダン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、イエメン、イラン、レバノン)、アフリカ(エジプト、チュニジア、アルジェリア)、ヨーロッパ(フランス、ドイツ、ギリシャ、イタリア、英国、オランダ、オーストリア、トルコ)、アジア(マレーシア、フィリピン、韓国、中国、タイ)、北アメリカ(米国)の計26か国である。中東地域以外の国からの報告例は、すべて中東地域への渡航歴のあるもの、もしくはその接触者であった。
  • 中東以外の国で、輸入例を発端とした国内感染事例が報告されているのは、イギリス、フランス、チュニジア、韓国の4か国である。
  • 2015年1月1日以降、217例のMERS患者がサウジアラビアから報告された。そのうち少なくとも44例はHofufから報告されており、これらの患者はHofufの13の医療機関と関連があった。過去の事例と比較し、病院におけるアウトブレイクの増加を認め、家族内での限定的なヒト-ヒト感染も報告されているものの、市中での継続した感染拡大は認めない。
韓国での発生状況
(発生数の最新情報は厚生労働省検疫所HP http://www.forth.go.jp/topics/fragment1.html 参照)
  • 2015年5月20日、韓国では初となるMERSの輸入例がWHOへ報告されたが、その後当該輸入例に関連した症例が2015年7月15日現在までに186例が報告された。年齢中央値は55歳(範囲:16歳~87歳)、男性が111例(59.7%)、死亡は36例(致命率19.3%)で、うち33例(91.7%)は基礎疾患(悪性腫瘍、心疾患、呼吸器疾患、腎疾患、糖尿病、免疫不全等)を有する、もしくは高齢者であった。複数の医療機関において限局したアウトブレイクが発生し、医療従事者の感染例も計39例(21%)となったが、市中での継続的な感染拡大は認めていない。6月2日以降、継続的な公衆衛生対策(接触者追跡、隔離、検疫、サーベイランス)により新規感染者数は減少傾向となり、7月3日以降は新規の発症例はない。 (2015年7月14日現在の以下の情報より:韓国保健省HP http://www.mw.go.kr/front_new/al/sal0301vw.jsp?PAR_MENU_ID=04&MENU_ID=0403&page=1&CONT_SEQ=324214, WHO.Disease outbreak news 14 July 2015 http://www.who.int/csr/don/14-july-2015-mers-korea/en/
  • 韓国と中国ではMERS-CoVの全ゲノム配列の解析が実施された。暫定的な所見では、韓国で得られたMERS-CoVの配列は中東で分離されたもの配列と類似していた。より正確に類似性、感染性の変化、感染源、感染伝播について評価するには引き続き解析が必要である。 (WHO. MERS-CoV joint mission findings discussion. 15 June 2015. http://www.who.int/mediacentre/news/mers/briefing-notes/update-15-06-2015/en/、 WHO. Preliminary data from sequencing of viruses in the Republic of Korea and the People’s Republic of China. MERS-CoV. 9 June 2015. http://www.who.int/csr/disease/coronavirus_infections/risk-assessment-9june2015/en/)
韓国事例へのWHOの対応
  • WHOは2015年6月16日に、国際保健規則(IHR)に基づく対応として、MERSに関する第9回緊急委員会を開催した(第1回2013年7月9日、第2回7月17日、第3回9月25日、第4回12月4日、第5回2014年5月13日、第6回6月17日、第7回10月1日、第8回2015年2月4日)。当委員会では、韓国とWHOによるJoint missionの指摘をうけ韓国におけるMERS-CoVの感染拡大の原因について韓国独自の習慣や文化の影響を含め、以下の点を言及した。
    1. 医療従事者および一般社会におけるMERSに関する認識の欠如
    2. 不十分な院内感染予防策
    3. 混雑した救急外来や多病床の病室でのMERS患者との密接で持続的な接触
    4. 複数の医療機関を訪れる行為(ドクターショッピング)
    5. 接触者の間で感染拡大を助長するような、多くの見舞客や患者家族が病室内で感染者と滞在する習慣
    また委員会は、韓国および中国で分離されたMERS-CoVは中東での分離株の遺伝子配列と比較し著しい変異は認められず、感染経路についてもこれまで同様、持続的なヒト-ヒト感染を示す証拠はなく「国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態(PHEIC)」には至らないと結論付けた。 加えて委員会は、流動性が著しい現代社会においては、全ての国は他の重大な感染症も含め、このような予期しないアウトブレイクに対して常に準備しておくべきであると表明し、医療機関と航空業界との連携を強化する必要性を強調した。 (WHO. MERS-CoV joint mission findings discussion. 15 June2015. http://www.who.int/mediacentre/news/mers/briefing-notes/update-15-06-2015/en/ , WHO. Emergency Committee – 9th meeting summary http://www.who.int/mediacentre/news/mers/briefing-notes/update-22-june-2015/en/)

〇臨床所見

  • 2012年9月から2013年10月までにWHOに報告された161例(検査確定例144例と可能性例17例)の臨床像の解析では、軽症例から急性呼吸促迫症候群(ARDS)を来たす重症例まである。典型的病像は、発熱、咳嗽等から始まり、急速に肺炎を発症し、しばしば呼吸管理が必要となる。全症例の63.4%が重症化し、44.1%が肺炎を発症した。また、ARDSの合併は12.4%に認められた。少なくとも3分の1の患者は嘔吐、下痢などの消化器症状を呈した[1]。

〇学術論文情報

 
1. 疫学情報
  • 2015年6月19日までに韓国から公式に発表された166症例の情報を基に推定された潜伏期間の平均は6.7日(95%信頼区間:6.1-7.3)であった。また著者らは発症前の感染性に関して数理モデリングを用いて検討したが、発症前に感染性を有するとする証拠はないと結論づけた[2]。
  • これまでに報告された36の輸入例関連事例(21か国で発生した36事例、うち27事例は2次感染の発生なし)を用いて、症例数と感染世代の期待値を数理モデリングにより推計したところ、MERSの輸入例1例を発端として少なくとも一つの2次感染事例が発生するリスクは22.7%(95%信頼区間:19.3-25.1)、3次感染、4次感染、5次感染のリスクはそれぞれ10.5%、6.1%、3.9%であった。事例全体の症例数が8以上となるリスクは10.9%(95%信頼区間:7.6-13.6)であった[3]。
  • 韓国の単施設内でのアウトブレイクに関連した37症例での検討では、潜伏期間は中央値6日(95%信頼区間:4‐7日)、発症から確定診断までの期間は6.5日(95%信頼区間:4-9日)であった[4]。
  • 2015年5月末、韓国で感染し、中国で確認されたMERS患者において、MERS-CoV RNAが血清から発熱8日後まで、咽喉スワブから発熱4日後まで検出された。発熱7日目に肺炎が確認されその際に採取された喀痰検体と発熱10日後および15日後に採取された便検体においてもMERS-CoV RNAが陽性であった。78名の濃厚接触者について14日間の監視と隔離が実施されたが、有症者は認められず、MERS-CoVの検査でもすべて陰性であった[5]。
  • 2012年12月1日から2013年12月1日にサウジアラビアにおいて、15歳以上の生来健康な成人を対象にした横断的な血清疫学調査が行われた。検査法はリコンビナントELISAでスクリーニング、抗体陽性の確認はリコンビナント免疫蛍光法とplaque reduction neutralization test によって行われた。対象となった10,009例中、抗MERS-CoV抗体が陽性だったのは15例(0.15%、95%信頼区間0.09-0.24)で、陽性例は13州のうち6州から検出された。年齢は平均43.5歳〔標準偏差(SD)17.3〕で、これまで確定例として報告されているもの(平均53.8歳、SD17.5)より若年であった。陽性例は、男性に多く(0.25% vs.0.05%、 p=0.028)、海岸地域よりも中央の地域(0.26% vs.0.02%、p=0.003)に多かった。また、一般人口と比較し、羊飼いで15倍(2.3%, p=0.0004)、と畜場での労働者で23倍(3.6%, p<0.0001)抗体陽性率が高かった。これまで報告された確定例のうち、明らかな感染源への曝露歴がない症例については、より軽症の感染例が感染源となっている可能性が考えられる[6]。
  • 2014年1月1日から5月16日の間にサウジアラビア保健省へ報告された確定例255例(real-time RT-PCRで診断。無症状例は、接触者調査や曝露後スクリーニングで実施された同検査で診断された)についての後方視的研究の報告によると、年齢中央値45歳、男性174例(68.2%)、医療従事者78例(31%)であった。死亡は93例(致命率36.5%)だった。255例のうち、有症状191例〔75%、うち医療従事者40例(21%)〕、無症状64例〔25.1%、うち医療従事者41例(64%)〕であった。ただし、無症状と報告された64例に対する追加調査では、インタビューが実施された33例中26例(79%)に、少なくとも一つ以上の呼吸器症状を認めた。255例の大半は医療機関および/または確定例との疫学的関連があり、当該事例における医療機関の果たした役割を浮き彫りにしている[7]。
  • 2013年4月1日から5月23日の間に、サウジアラビアのAl-Hasaにおいて23例の確定例(それ以外に11例の可能性例も存在)の報告があったが、これは4つの医療施設が関与したアウトブレイクであった。確定例23例のうち21例が、透析室、集中治療室、入院病棟においておこり、その中にはヒト—ヒト感染が確認された例もあったが、その感染様式は特定することができなかった。潜伏期間は中央値5.2日(95%信頼区間: 1.9-14.7日)、世代間隔(感染源の発症から二次感染者の発症までの期間)は、中央値7.6日(95%信頼区間:2.5-23.1日)と推定されている。病院スタッフに対する調査から、MERS症例との接点がない看護師補助員がMERSと確定診断されたが、MERS症例との接点がある他のスタッフ(2日間の発熱のみで呼吸器症状なし、特異的検査未実施)との接点以外に疑わしい曝露源がなかった[8]。
  • 2013年9月25日までの133例の症例情報によると、感染経路の情報のある129例のうち33例(26%)は院内感染の可能性があり、医療従事者の感染は全体で23例(17%)であった。2013年3~5月と6~9月の期間における致命率はそれぞれ63%(25/40)、33%(25/77)と低下傾向にある。また、18例(14%)の無症候あるいは軽症例が報告されている[9]。2013年2月、サウジアラビアのリヤドで呼吸器症状を呈した診断未確定の入院患者と接触した2名がMERSと診断された。この2例は、MERSと診断されていない患者からの院内感染が疑われた[10]。
  • サウジアラビアで2012年10-11月に発生した家族内集積事例の報告では、同居家族のうち男性のみに感染伝播が起こり(確定例2名、可能性例1名)、入院前のみに濃厚接触があったこれらの症例の配偶者は感染していないことから、病初期においては感染性が低い可能性が推察されている[11]。英国において2013年2月に発生した二次感染者2名の家族集積例における潜伏期間は19日と推定されている[12]。フランスではドバイから帰国して発症した1例とこの患者から院内感染した1例の計2例が報告された。本事例では、下気道検体のウイルス量は高濃度であったのに対し、上気道検体ではウイルスはほとんど検出できなかったことから、ウイルス検出のためには下気道からの検体が必要であることが指摘され、また潜伏期間は9-12日と推定されている[13]。
  • 2013年8月現在までに報告された症例情報等を用いた推計によると、940例(95%信頼区間:290-2200例)の有症状例が存在している可能性があり、少なくとも62%の症例は探知されていないという結果となった。また、対策がなされていれば、ヒトーヒト感染は持続的とならないといえるが、対策がなされない場合のR0は0.8-1.3と推定された[14]。
  • 2013年6月21日までの64症例から計算された基本再生産数(R0)は、低めの推計値(集団発生内に複数の初感染例を仮定)で0.60 (95%信頼区間: 0.42–0.80)、高めの推計値(集団発生ごとに一つの初感染例を仮定)で0.69 (0.50–0.92)といずれも1.00を下回った。2003年のSARSのR0が0.80 (95%信頼区間: 0.54–1.13)であり、パンデミックには至らなかったが、MERSのR0はSARSのR0よりさらに低いことから、パンデミックは起こしがたいと推察されている[15]。
2. ウイルス学的情報
【感染源となる可能性がある動物に関する検討】
  • 日本国内に棲息するヒトコブラクダは25頭前後と考えられるが、その内20頭についてMERSコロナウイルスの検査を行った。全ての個体について、糞や鼻腔拭い液中にウイルス遺伝子は検出されなかった。さらに5頭については血清中のウイルス中和抗体の検査をおこなったが、全て陰性であった。つまり日本のヒトコブラクダには、MERSコロナウイルスは感染していないと考えられる[16]。
  • ラクダは、1歳で出荷されて人への接触の機会が多くなるが、この時期のラクダでは35.3%がMERS陽性である。一方で2歳では2.9%にまで下がるので、出荷時期を遅らせれば、人への感染のリスクを下げることができると提案されている[17]。
  • サウジアラビアのヒトコブラクダの鼻腔からMERS-CoVが分離され、ヒトから分離されたウイルスの配列と同じであった。また、ヒトコブラクダは同時に複数のMERS-CoVに感染するという所見も得られている[18]。
  • サウジアラビアのAl-Hasaにおいて、ヒトコブラクダの群れの出産時期に前向きの調査を行い、MERS-CoVの感染が幼獣と成獣どちらにも認められることを確認した。ここで分離されたウイルスは、ヒトから分離されたもの(Clade B)と99.9%同一であった[19] 。
  • 2013年11月にサウジアラビアにおいて、MERS-CoVに感染したヒトコブラクダとの濃厚な接触(ラクダの世話や未殺菌のラクダ乳の喫食など)後に発症した1症例が報告された。患者とラクダの遺伝子配列解析から、種を超えたウイルス伝播が示唆された[20]。
  • 2014年2月にカタールのヒトコブラクダから分離されたウイルスは、2012年に同国でヒトから分離されたウイルスと99.9%の相同性のある遺伝子を持ち、受容体の結合に重要なほとんどのアミノ酸配列に変異はなかった [21]。
  • アラブ首長国連邦におけるヒトコブラクダの血清調査(2003年の151サンプル、2013年の500サンプル)において、計651サンプルのうち381サンプル(59.8%)がMERS-CoVの中和抗体(>1280倍)を持っていた[22]。オマーンのヒトコブラクダにおいてはMERS-CoVのスパイクに対するタンパク特異的抗体、MERS-CoVに対する中和抗体価はいずれも100%(50/50)陽性であった[23]。この結果から、ラクダにMERS-CoVあるいは類縁のウイルスが感染していると考えられた。
【ヒトからの分離ウイルスについての検討】
  • サウジアラビアで2013年の5~9月に得られた32のウイルス株のゲノム解析を行ったところ、4つのクレードに分類されることがわかった。そのうち3つのクレードに属するウイルスは、すでに患者において見つからなくなっており、この消失は、感度のよいサーベイランスと隔離が疾病のコントロールに有効であること、R0が1未満であることと関連している可能性がある。ただし、一つのクレードは継続して発生しており、診断されていない無症状者が感染を拡大させている可能性がある[24]。
  • 21例のヒトMERS症例についてのフルゲノム解析の結果, リヤドにおいては、1つのクレードの中でそれぞれ3種類の異なるゲノムタイプのウイルスが感染していた。持続的なヒトーヒト感染によって広がっている感染ではなく、それぞれが独立した動物由来の感染であることが考えられる。また、Al-Hasaのクラスターにおける解析の結果、病院におけるアウトブイレクにおいても、2種類以上のウイルスが検出されており、それぞれが独立した動物に由来の感染である可能性が示唆されている[25]。

〇WHOの対応

【ハイライト】
  • リスクアセスメント更新(2015年6月19日) http://www.who.int/csr/disease/coronavirus_infections/risk-assessment-19june2015/en/
  • サウジアラビアへの巡礼者向けの渡航時の助言(2014年6月3日)http://www.who.int/ith/updates/20140603/en/ WHOは入国時の特別なスクリーニングおよび渡航や貿易を制限することを推奨しない。各国に対し、巡礼者のみならず、輸送業者、地上職員など巡礼者の渡航に関連する人でのMERS感染のリスクを軽減するために、渡航時の助言や渡航者の自己申告に関する認識を向上するよう奨励する。また、各国は、IHRに従って、①機内や船内、あるいは入国時に探知された病気の渡航者を評価する決められた手続きが整備されていること、②病気の渡航者に関する情報を、機内や船内の担当者と入国担当者、入国担当者と国の保健当局との間で共有する手順や方法が整備されていること、③有症状者を病院や指定機関へ安全に搬送し臨床的な評価と診療が系統的に行えること、以上3点を確認すべきである。
【検査】
【感染管理】
【症例定義】
【サーベイランス】
  • サーベイランスガイダンスの改訂(2015年6月30日) http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/177869/1/WHO_MERS_SUR_15.1_eng.pdf?ua=1 サーベイランスガイダンスの改訂版では、医療機関における大規模なMERSアウトブレイクの際、可能ならば確定症例と接触のある全ての接触者(症状の有無に関わらず)、特に医療関係者やMERS患者と同室・同病棟の入院患者についてMERSの検査をすることが推奨されている。
  • 院内感染事例における医療従事者の感染リスクの解析方法(2014年1月27日) http://www.who.int/csr/disease/coronavirus_infections/Healthcare_MERS_Seroepi_Investigation_27Jan2014.pdf 前方視的または後方視的に診断されたMERS-CoV感染者に曝露した可能性のある医療従事者についての包括的な調査方法を示している。これは、医療従事者の感染リスク因子とウイルス伝播様式について理解し感染管理と国内および国際的な公衆衛生対応に繋げることを目指している。
【臨床】
  • 治療に関するガイダンスの改訂(2015年7月2日) http://www.who.int/csr/disease/coronavirus_infections/case-management-ipc/en/  前回のガイダンスからの変更点として、小児や妊婦への対応についても言及されていること、具体的で客観的な情報(酸素投与法、呼吸器設定、薬剤の投与量など)の記載、試験的なウイルス治療法についての記載が追加されている。
【研究・調査】

〇国内対応

〇リスクアセスメント

  • 日本においても、今後、現在症例が発生している地域からの輸入例が発生する可能性がある。医療機関での渡航歴確認、医療機関と公衆衛生部局(保健所等)の連携、迅速な診断、医療機関での適切な感染予防策の実施が重要である。またMERS患者は、確定例またはラクダとの接触歴は明確でない場合や, 軽症である可能性があることに留意しつつ、感染症法に基づく届出基準に従って症例の探知と報告を適切に行うことが重要である(前項参照) http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/dl/20150610_01.pdf
  • 一般社会に対して、MERS流行国へ渡航する際の注意事項(感染リスクを高める行動、予防法、帰国に際しての注意事項など)に関する認識を向上させることが重要である。
  • 医療従事者は、医療機関内での感染伝播を確実に防止するため、患者の診療に当たる際はMERSが疑われる段階から患者への感染拡大防止に関する指導、医療の実施に当たっては標準予防策及び飛沫予防策を徹底する必要がある。
  • 高齢者や基礎疾患のある者に感染した場合、重症化する恐れもあることから、症例に対する適切な医療の提供が重要である。
  • 確定患者の接触者においてヒト-ヒト感染があることに留意し、迅速に接触者調査を行い、接触者に対しては健康監視・隔離や外出自粛要請などを適切に実施することが重要である。
  • 今後も中東地域と韓国おける輸入例およびそれに疫学的関連のある症例の発生状況を注意深く監視していくことが重要である。 

以上のリスクアセスメントは、現時点で得られている情報に基づいており、症例情報は、基本的に世界保健機関(WHO)からの公式情報 (Disease Outbreak News DON http://www.who.int/csr/don/en/ および Weekly Epidemiological Report WER http://www.who.int/wer/2015/wer9020.pdf)を参照してまとめている。なお、事態の展開にあわせて、リスクアセスメントを更新していく予定である。

 

 

参考文献

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