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国内感染が再び確認されたアジア条虫症―千葉県

(IASR Vol. 37 p.206: 2016年10月号)

2010年6月~2013年8月にかけて, 埼玉県ならびに群馬県を中心とした関東地方の1都4県で, 国産豚のレバー生食に起因する, 従来, 日本には分布しないと考えられていたアジア条虫による国内感染確定例が少なくとも27例確認された。2013年9月以降, 国内感染のアジア条虫症は1例も確認されなくなったが, 2016年8月, 3年ぶりに千葉県で再び確認されたので報告する。

患者は成田市在住の40歳, 日本人男性。飲食店を経営し, 千葉県成田市および旭市で生産された豚のレバーを日常的に生食していた。上記以外の豚レバーの喫食歴はなく, また, 最近の半年以内に既知のアジア条虫症流行国を含む海外渡航歴も無かったことから, 国内感染と考えられた。なお, 本症例の病原体はアジア条虫とDNA解析によって同定されている。

豚レバーの生食は食中毒の危険があるため, 厚生労働省は, 2012年10月4日付で, 「豚レバーの提供に関する指導等」 とする通知を全国自治体に発出し(食安監発1004第1号), 飲食関連事業者に対して加熱提供についての指導を要請するとともに, 消費者に向けての注意喚起も促した。さらに, 食品衛生法の改正により, 豚の肉や内臓の生食販売・提供は, 2015年6月12日から禁止となっている。一方, 2012年12月28日付の食品衛生法施行規則の一部改訂では, 条虫(アジア条虫を含む)は食中毒事件票の病因物質の種別の一つとして「その他の寄生虫」として新たに取り上げられ, 例示もされた。今回の症例は飲食店の事業者自身が特定の卸業者から仕入れた豚レバーを生食して感染した例で, 原因物質と原因食品とが明らかであり, 飲食に起因した健康被害の典型的な例として食中毒として取り扱われるべき事例である。

現在のところ, 症例の継続的な発生は確認されていない。しかし, 一般消費者が豚レバーを購入し, 生食することが危惧され, 今後, 新たな感染者が見出される可能性がある。今回の症例の感染源となった養豚場を特定し, 早急に清浄化を進めるとともに, アジア条虫の国内侵入経路を明らかにし, さらなる発生防止策を講じることが重要であり, 行政の適切な対応が強く求められる。

国立感染症研究所寄生動物部第二室
 山﨑 浩 森嶋康之 杉山 広
成田赤十字病院感染症科
 馳 亮太 鈴木啓之 矢野勇大

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