国立感染症研究所

高病原性鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)感染事例に関するリスクアセスメントと対応

2023年4月13日
2023年12月8日一部更新
国立感染症研究所

 

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更新点

 2023年12月8日  「海外渡航者が感染するリスク」内に体調不良による受診時の注意事項の啓発について追記

 

目次

  •    背景
  •    疫学的所見
     1.事例の概要
      国外の状況
      国内の状況
     2.治療薬、ワクチン、検査について
  •    ウイルス学的所見
  •    日本国内の対応
  •    リスクアセスメント

背景

 高病原性鳥インフルエンザウイルスA(H5N1) (Highly pathogenic avian influenza virus: 以下、HPAIV(H5N1))は1997年に初めて香港で生鳥市場を介したヒト感染例の報告があり、2003年、2004年には東アジア、東南アジアでもヒト感染例が報告された。これ以降、世界各地の家きんや野鳥に感染が拡がり流行域を拡大したH5亜型のHPAIVは、A/goose/Guandong/1/1996(H5N1)に由来するユーラシア型のHA遺伝子を保持しており、HA遺伝子の塩基配列により当初は0~9のCladeに分類され、その後HA遺伝子の変異が蓄積し、Cladeごとにさらに細かな亜系統に分類されるようになった。さらに他のA型インフルエンザウイルスとの遺伝子再集合を起こすなど、遺伝的にも多様化している。特に2005年以降はClade 2の亜系統が鳥類で流行したことに伴い鳥類からヒトへの感染例も増加し、2006年には欧州、アフリカ大陸でもヒト感染例が報告された。HPAIV(H5N1)のヒト感染例は2023年3月3日時点で少なくとも873例がWHOに報告されているが、ほとんどは2019年以前の報告である。
 2021年以降はClade 2.3.4.4bに属するHPAIV(H5N1)の世界的な感染拡大に伴い、海棲哺乳類を含む野生の哺乳類や農場のミンクなどでも感染例の報告があり、散発的なヒト感染例も世界各所で報告されているほか、Clade 2.3.2.1cに属するHPAIV(H5N1)の局地的なヒト感染例も報告されている。
 近年のヒト感染例の報告は限られるが、鳥類や哺乳類で流行が拡大していることから、2020年以降の状況について、HPAIV(H5N1)感染事例の疫学情報の更新及びリスクアセスメントを行った。

 

疫学的所見

 

1.事例の概要

■国外の状況

 国外の鳥類(野鳥、家きん)における発生状況

 H5HA遺伝子のClade 2系統から派生したClade 2.3.4.4bの HPAIV(H5N1)は、2020年に渡り鳥を中心に伝播しており、アフリカ、アジア、欧州の多くの地域に拡がった。この感染拡大により、2021年から2022年にかけて、特に欧州や北米において、これまでの鳥インフルエンザ流行期から想定される以上の鳥類の死亡が確認されるようになった(WHO. 2022)。2022年末から2023年にかけては南米でも鳥類への感染例が確認されるようになった(厚生労働省. 2023)。
 鳥類におけるA型インフルエンザウイルス感染は、例年9月が最も少なく、10月頃から増加しはじめ、2月にピークを迎える(WOAH. 2023)。しかし、2021/2022シーズンは例年では感染例が少ない9月頃にも、特に欧米で鳥類における感染例の報告が続き、感染数が減少しないまま、2022/2023シーズンが始まった。この結果2021/2022シーズン、2022/2023シーズンは例年にない規模で鳥類における感染事例が報告された(ECDC. 2023、CDC. 2023a)(図1)。
 鳥類におけるHPAIV感染事例の報告数は、2022年12月から2023年1月をピークに減少傾向にあるものの(ECDC. 2023)、2023年3月現在も欧州、アジア、北米、南米において野鳥及び家きんにおけるHPAIV(H5N1)感染の報告は続いている(WOAH. 2023)。

 

図1. 欧州における野鳥・家きんでのHPAIV検出状況(2016年10月1日-2023年3月10日)

  230413 H5N1 figure1

(ECDC. 2023)

 

図2. 動物でのHPAIV(H5N1)感染事例の報告状況(2022年1月-2023年2月)

  230413 H5N1 figure2

(CDC. 2023a)

 

 国外の哺乳類における発生状況

 2021年以前にも、HPAIV(H5N1)の鳥類におけるアウトブレイク発生地では、野鳥を捕食することがある哺乳類を中心にHPAIV(H5N1)感染が散発的に確認されている(CDC. 2023a)。
 2021/2022及び2022/2023シーズンには例年にない規模で、各国での鳥類におけるHPAIV(H5N1)の感染拡大を認め、2022年1月から2023年2月までに73か国から11,300事例以上のHPAIV(H5N1)の動物(鳥類を含む)における感染が報告された(CDC. 2023a)(図2)。これまでに、クマ、ヤマネコ、コヨーテ、イルカ、フェレット、キツネ、ミンク、オポッサム、カワウソ、ブタ、イタチ、アライグマ、タヌキ、アシカ等の哺乳類においてClade 2.3.4.4b以外も含めてHPAIV(H5N1)の感染が確認されているが、哺乳類間での感染の証拠は限定的である(WHO. 2022)。また、これら哺乳類における感染事例の多くは、単数もしくは少数個体に留まる事例であるが、2022年に米国における100頭以上のアザラシ(Seal, Harbor seal, Grey seal)の感染、スペインにおける数百頭のミンク(American mink)の感染、2023年にペルーにおける600頭を超えるアシカ(Sea lion)の感染と、2022/2023シーズンには哺乳類での大規模感染事例が報告され、哺乳類間での伝播が起きている可能性が懸念されている(ECDC. 2023、Puryear W. et al.. 2023)。

 

 国外のヒトにおける発生状況

 ヒトにおけるHPAIV(H5N1)感染事例は、2003年から2023年3月3日時点までに東南アジアを中心に報告されているが、その他の地域でも報告されている。世界保健機関(WHO)に報告された感染者数は合計873例で、少なくとも458例(52%)が死亡している。このうち、2019年までの報告が861例(うち死亡455例)と多くを占め、2020年以降の報告数は大きく減少している(WHO. 2023a)(表1)。また2023年3月29日にチリで初めてのHPAIV(H5N1)のヒト感染事例が報告されたが、本症例で検出されたHPAIV(H5N1)のCladeは不明である(PAHO/WHO. 2023、CDC. 2023b)。

 

表1. 2020年から2023年3月3日までにWHOに報告されたHPAIV(H5N1)ヒト感染事例

報告年 報告国 報告数 死亡例数 Clade

2020年

ラオス 1 0 2.3.4.4b
2021年 インド 1 1 2.3.4.4b
  英国 1 0 2.3.4.4b
2022年 中国 1 1 2.3.4.4b
  エクアドル 1 0 2.3.4.4b
  スペイン 2 0 2.3.4.4b
  米国 1 0 2.3.4.4b
  ベトナム 1 0 Not reported
2023年 カンボジア 2 1 2.3.2.1c
  中国 1 0 2.3.4.4b

(WHO. 2023a、CDC. 2023a)

 

 2021/2022及び2022/2023シーズンは例年と比較して鳥類及び哺乳類におけるHPAIV(H5N1)感染事例の報告数が増加しているものの、ヒト感染者数の著明な増加は見られていない。
 国外で報告されたヒト感染例の多くは感染した家きん類等との接触歴があり、ヒト-ヒト感染を示唆する情報は確認されていない(WHO. 2023b)。

 

■国内の状況

 国内の鳥類(野鳥、家きん)における発生状況

 2022/2023シーズンは、過去最も早い2022年10月28日に家きんにおいて国内1例目が確認された。以降2023年4月11日時点で26道県84事例の家きんにおけるHPAIV(H5N1)感染事例が発生し、約1,771万羽が殺処分対象となっており、過去最大の発生であった2020/2021シーズンにおける発生事例と殺処分対象羽数を上回っている(農林水産省. 2023)。
 2023年4月12日現在、野鳥、飼養鳥及び家きんにおける事例は、それぞれ28道県(238件)、6都県(10件)、26道県(84件)から報告されている(環境省. 2023)。

 

 国内の哺乳類における発生状況

 2022年4月に北海道札幌市において、キタキツネ(アカギツネ)及びタヌキでのHPAIV(H5N1)感染事例が国内で初めて確認された。周辺地域ではハシブトカラスのHPAIV(H5N1)感染事例が続発しており、キタキツネ及びタヌキに感染していたHPAIV(H5N1)は、ハシブトガラスから検出されたウイルスと遺伝的に類似していた(Hirono T. et al.. 2023)。
 キタキツネについては、HPAIV(H5N1)に感染した野鳥を捕食してHPAIV(H5N1)に感染した事が死因と考えられた。タヌキについては、他の病原体による感染も認められ、HPAIV(H5N1)感染が直接の死因か不明であった(環境省. 2022a)。

 

 国内のヒトにおける発生状況

 国内ではこれまでにHPAIV(H5N1)を含め、鳥インフルエンザウイルスに感染して発症したヒト感染事例は確認されていない。

 

2.治療薬、ワクチン、検査について

 抗インフルエンザ薬、特にNA阻害薬やポリメラーゼ阻害薬に対する耐性を獲得しているHPAIV(H5N1)の流行は認められていないため、これらの薬剤による治療効果は期待できる。
 近年、ヒト感染が確認されているClade 2.3.4.4bのH5ウイルスは、WHOが提示したH5亜型のワクチン候補株(WHO. 2023d、WHO. 2023e)のうち、同じClade 2.3.4.4bのA/Fujian-Sanyuan/21099/2017 (H5N6)、A/chicken/Ghana/AVL-76321VIR7050-39/2021(H5N1)およびA/Astrakhan/3212/2020(H5N8)と抗原類似性を有している。また近年、ヒト感染が確認されたClade 2.3.2.1cのH5ウイルスについては、同じClade 2.3.2.1cのワクチン候補株としてA/duck/Vietnam/NCVD-1584/2012(H5N1)がある。
 HPAIV(H5N1)を含むA型インフルエンザウイルスの検出に関しては、呼吸器検体を用いたコンベンショナルRT-PCRもしくはリアルタイムRT-PCR法によるウイルス遺伝子検出検査の実施が推奨されている。検査に使用する検体は鼻腔スワブ(鼻の奥)、口腔咽頭スワブ(喉)、鼻咽頭スワブ(鼻咽頭)に加え、鼻咽頭吸引液や気管支吸引液などが有用とされている(WHO. 2021)。

 

ウイルス学的所見

 Clade 2.3.4.4bのHPAIV(H5N1)は、2020年後半に欧州北部で同定された後、渡り鳥により世界各地へと運ばれ、様々な国・地域で遺伝子再集合(他のA型インフルエンザウイルスとの遺伝子分節の交換)した多様な遺伝子型のHPAIV(H5N1)が分離されている(Leguia M. et al.. 2023、Alkie TN. et al.. 2023、ECDC. 2023)。ただし、遺伝子型の違いによるウイルス性状の違いはよく分かっていない。
 鳥類から分離されたClade 2.3.4.4bのHPAIV(H5N1)からは、哺乳類での病原性や増殖能力の獲得に寄与するPB2タンパク質のE627K変異を持つウイルスや、HAタンパク質の受容体結合部位にヒト型受容体(α2,6結合したシアル酸)への結合能力の増強の可能性が示唆されるアミノ酸変異を持つウイルス(例えば、S137A, T160Aなど)等がまれに報告されている(ECDC. 2023)。
 2022年10月にスペインのミンク農場のミンクから分離されたClade 2.3.4.4bのHPAIV(H5N1)には、哺乳類由来細胞内でのポリメラーゼ活性の上昇に関与するPB2のT271A変異が認められた(Agüero M. et al.. 2023)。また、2022年4月から7月にかけてカナダの野生のアカギツネ、スカンク、ミンクから分離されたClade 2.3.4.4bのHPAIV(H5N1)の40株全てのウイルスのHAタンパク質にS137A及びT160A変異が認められ、そのうちの17%は、哺乳類への適応に関与するPB2のE627K、E627V、D701Nのいずれかのアミノ酸変異が認められた(Alkie TN. et al.. 2023)。
 上述した鳥類や哺乳類から分離されたClade 2.3.4.4bのHPAIV(H5N1)に認められる、哺乳類適応やヒト型受容体への結合能に関与する可能性のあるアミノ酸変異によるヒト感染への直接的な影響についてはよく分かっていない。現在までのところ、Clade 2.3.4.4bのHPAIV(H5N1)の効率的なヒトーヒト感染は報告されておらず、これらのウイルスがヒトからヒトに持続的に感染する可能性は低いと考えられる。
 2023年2月にカンボジアで2例のHPAIV(H5N1)の感染が報告された(内、1名は死亡)。遺伝子解析の結果、本起因ウイルスのHA遺伝子は、Clade 2.3.2.1cに属していた(WHO. 2023c)。Clade 2.3.2.1cのHPAIV(H5N1)は、2020年以降アジアの家きんで限局的に報告されている(GISAID. 2023)。Clade 2.3.2.1cのHPAIV(H5N1)についても持続的なヒトーヒト感染は報告されていない。

 

日本国内の対応

1. 国内における鳥インフルエンザウイルスのヒト感染事例の探知と対応について

 鳥インフルエンザA(H5N1)は、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)で定める二類感染症の「特定鳥インフルエンザ」の一つとして政令で指定されており、医師は鳥インフルエンザA(H5N1)の患者又は無症状病原体保有者を診断したときは、感染症法第12条に基づき症例を届け出ることとなっている。届出を受けた都道府県知事等は感染症法第15条に基づき積極的疫学調査を実施する。調査については「鳥インフルエンザ(H5N1)に係る積極的疫学調査の実施等について」(健感発第1122001号通知)に基づき対応する。

 

2. 国内における鳥インフルエンザウイルスの動物感染事例の探知と対応について

 獣医師又は感染鳥類の所有者は、鳥インフルエンザ(H5N1)に感染、又は感染した疑いのある鳥類を認めた場合は、感染症法第13条に基づき届け出ることとなっている。届出を受けた都道府県知事等は、感染症法第15条に基づく調査及び法第29条に基づく措置等を行う。この際の対応については「国内の鳥類における鳥インフルエンザ(H5N1)発生時の調査等について」(健感発第1227003号通知)に基づき実施する(厚生労働省. 2006)。
 2023年3月24日現在、国内複数地域での鳥類における感染事例の発生を受け、環境省ではレベル3(国内複数個所や近隣諸国での発生時)の対応として、鳥類生息状況等調査の監視強化、死亡野鳥等ウイルス保有状況調査の強化等を継続している(環境省. 2022b、環境省. 2023)。
 また、2022/2023シーズンは鳥類におけるHPAIV(H5N1)感染事例が継続して発生しており、かつ例年以上の頻度で確認されたことから、専門家から「全国的に環境中のウイルス濃度が非常に高まっている」と指摘されている。これを受け、農林水産省では、2023年1月に、全国の畜産に携わる関係者及び都道府県等の行政関係者に対して、最大限の緊急警戒を呼びかけ、家きんでの高病原性鳥インフルエンザが発生した道県において、家きん農場の緊急消毒が実施されている(農林水産省. 2023)。
 2023年3月現在、農林水産省では全都道府県に対し、鳥インフルエンザの早期発見、早期通報と飼育衛生管理の徹底について通知し、家きん農場における監視体制の強化や、関係省庁と連携し都道府県が実施する防疫措置(鳥インフルエンザ発生農場の飼育家きんの殺処分、焼埋却、移動制限区域・搬出制限区域の設定、消毒ポイントの設置等)について支援等を実施している。

 

リスクアセスメント 

 2020年以降のClade 2.3.4.4b のHPAIV(H5N1)によるヒト感染事例と鳥類及び哺乳類の感染事例の報告が増加したことにより、 WHO、欧州疾病予防対策センター(ECDC)、英国健康管理庁(UKHSA)は以下の通りリスクアセスメントを発出している(表2.)。一方、Clade 2.3.2.1cのHPAIV(H5N1)は2020年以降についてはアジアで限局的に循環をしており、世界的な感染拡大はみられていない。

 

表2. WHO、ECDC、UKHSAにおけるHPAIV(H5N1)に関する状況のまとめとリスク評価

  WHO ECDC CDC UKHSA
状況のまとめ

・2020年以降、多くの動物でHPAIV(H5N1)感染事例が発生しており、ヒトがウイルスに曝露する機会が多い一方でヒト感染例が少ない

 

・哺乳類や人への適応に関連するアミノ酸変異の報告は限定的である

・過去3年の家きんや野鳥でのHPAIV(H5N1)感染事例の発生の増加にも関わらず、EU/EEA諸国から症候性のヒト感染例の報告はない

 

・世界的にも感染例の報告は散発例のみで、ヒトへの感染はまれである

 

・持続的なヒトーヒト感染は報告されていない

・全世界的に野鳥、家きんでのHPAIV(H5N1)の有病率が高いことから、哺乳類や鳥に接触したヒトが感染する可能性がある

 

・Clade2.3.4.4bのHPAIV(H5N1)は全世界的に循環しているが、ヒトーヒト感染を起こす能力は持たない

 

・野鳥や家きんでの感染拡大にもかかわらず、ヒト感染例は少数である

・英国における家きんでのHPAIV(H5N1)感染事例は平年より少ないが、野鳥、哺乳類での事例発生は持続している

 

・PB2のE627K変異は確認されているが、それ以外の哺乳類への感染リスクを増加させる変異は見られていない

リスク評価 ・ヒトへの感染リスクは低い

・一般市民でのリスクは低い

 

・HPAIV(H5N1)に感染した鳥類や哺乳類に職業的理由等で曝露した人々で低~中リスク

・Clade2.3.4.4bのHPAIV(H5N1)の潜在的な出現リスクと公衆衛生的な影響を及ぼすリスクはいずれも中程度以下である ・ヒトを除く哺乳類における限定的な感染がおこる

(WHO. 2022、ECDC. 2023、CDC. 2023a、UKHSA. 2023)

 

 また、CDCは動物で循環しているA型インフルエンザに対するパンデミックポテンシャルのリスク評価を行い、パンデミックに備えるべきウイルスの優先順位を決定するためにInfluenza Risk Assessment Tool (IRAT)を提唱している。これには、ヒトーヒト感染持続の可能性(emergence)とヒトーヒト感染が持続した際の公衆衛生へのインパクト(public health impact)という2つの評価分野があり、それぞれについてリスク評価が行われる。H5N1ウイルスは主要なClade、株ごとに評価されており、Clade 2.3.4.4bのHPAIV(H5N1)は、中レベルのリスクに分類されている(CDC. 2023c)。

 

 【海外渡航者が感染するリスク】

  • 海外でのヒト感染例の多くは感染した家きん類等との接触による散発的な感染であり、ヒトーヒト感染を示唆する情報はないことから、鳥類への曝露機会がない海外渡航者が感染する可能性は低い。
  • 海外渡航者は、家きん市場や生きた鳥類、鳥類や哺乳類の死骸に不用意に近づかないように注意すべきである。
  • 発生地域において鳥類との接触があり、渡航後に発熱を認めるなどの体調の変化があった場合には、医療機関の受診時に渡航歴及び鳥類との接触歴を伝えることの啓発が必要である。

 

 【国内で鳥類への接触者が感染するリスク】

  • これまで国内で明らかなヒト感染例の報告はなく、ヒトへの感染性が高くなったという証拠は無いことから、鳥類への曝露機会がない人々への感染リスクは低い。一方、国内でも鳥類でのHPAIV(H5N1)検出事例の報告が過去最多となっていることから、生きた鳥類や鳥類の死骸に不用意に近づかないように注意すべきである。また、国内でも限定的ながら哺乳類での検出事例の報告があることから、哺乳類の死骸にも不用意に近づかないように注意すべきである。

 

 【ヒトへの感染性を獲得するリスク】

  • HPAIV(H5N1)について、哺乳類への適応やヒトへの感染性が高くなるウイルス学的性質の獲得に関する証拠は限定的であり、疫学的にも効率的なヒトーヒト感染の証拠はない。ただし、動物で感染が拡大する中でアミノ酸変異が蓄積して、ヒトへの感染性がより高くなったウイルスが今後出現する可能性は否定できないことから、引き続き動物での発生動向を監視する必要がある。

 

 【HPAIV(H5N1)がヒトでパンデミックを引き起こすリスク】

  • HPAIV(H5N1)は効率的にヒトからヒトへ感染する能力を獲得しておらず、現時点ではヒトでのパンデミックに至る可能性は低いが、世界的に鳥類での感染拡大が認められ、哺乳類の感染例も多数報告されていることから、HPAIV(H5N1)へのヒトの曝露機会が増加しており、今後も散発的なヒト感染例が報告される可能性は高い。鳥類や哺乳類からのヒトの接触頻度や感染リスク、そこからウイルスが効率的にヒトからヒトに感染する能力を獲得するリスクを定量的に見積もるには十分な知見がないが、今後も感染動物とヒトとの接触機会を極力避けつつ、継続して発生動向を監視し、適時にリスク評価を行う必要がある。

 

【参考文献】

 

作成
感染症危機管理研究センター 太田雅之、竹前喜洋、影山努、嶋田聡、小林望、山本朋範、加藤美生、吉見逸郎、横田栄一、齋藤智也
実地疫学研究センター 池上千晶、島田智恵
FETP 24期 大沼恵、越湖允也
インフルエンザ・呼吸器系ウイルスセンター 渡邉真治、浅沼秀樹、長谷川秀樹

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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