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東京都, 新潟県, 沖縄県におけるUSA300株による侵襲性MRSA感染症の乳児例

(IASR Vol. 39 p124-125: 2018年7月号)

耐性菌感染症でmethicillin resistant Staphylococcus aureus(MRSA)は, 分離頻度も高く, 疾病負荷が高い1)。米国では毒素のPanton Valentine Leukocidin(PVL)を産生するUSA300株の感染が多く問題となっているが, 国内での分離報告は稀である2-5)。国内での最初のUSA300株の検出は, 2007年に米国出生の乳児からの例が報告されている6)

今回, 東京都, 新潟県, 沖縄県と地理的に異なる地域で, 乳児に重篤な侵襲性感染症をきたしたUSA300株のMRSAを検出したので報告する。

症例1 壊死性肺炎 東京都

生来健康な7か月女児。海外渡航歴はなし。RSウイルス感染症に細菌性肺炎, 気胸を合併し, 高流量経鼻酸素療法を行った。気道分泌物培養よりMRSAを検出した。クリンダマイシンは感性であった。胸部CTでは, 両側侵潤影と二次性の多発嚢胞性病変の合併を認め, 気胸を繰り返し, 胸腔ドレナージを要した。クリンダマイシン静注3週間のち1週間内服し退院し, ST合剤2週間内服した。

症例2 化膿性骨髄炎, 膿胸 新潟県

生来健康な6か月男児。海外渡航歴なし。肋骨骨髄炎に膿胸を合併し, 胸腔ドレーン挿入と高流量経鼻酸素療法を行った。海外渡航歴はなし。血液, 胸水, 肋骨周囲の膿培養からMRSAが検出された。クリンダマイシンは感性であった。バンコマイシン静注で3週間治療し, その後, クリンダマイシンに変更して合計8週間治療した。

症例3 壊死性肺炎 沖縄県

生来健康な7か月女児。海外渡航歴なし。細菌性肺炎による二次性の嚢胞性病変, 肺膿瘍, 敗血症性ショックを合併, 侵襲的陽圧換気による人工呼吸管理, 胸腔ドレーンを留置した。胸水および喀痰よりMRSAが検出され, 抗菌薬はバンコマイシンを8週間投与した。クリンダマイシン耐性であった。

菌株の解析

3症例から分離されたMRSA 3株からDNAを抽出しPCRを施行した。シカジーニアス®分子疫学解析POTキット(黄色ブドウ球菌用)(関東化学株式会社)ではPOT値106-77-113であり, USA300株が強く示唆された。PCR法においてもUSA300株で検出されるPVL遺伝子(lukS-PVおよび-lukF-PV)とACME(arginine catabolic mobile element)を検出した。さらに全ゲノム塩基配列結果を用いたタイピングでは, Sequence type 8, spa type t008, SCCmec ⅣaとUSA300株の特徴を備え, パルスフィールド・ゲル電気泳動でも米国疾病管理予防センター (CDC) 保有のUSA300-0114株のバンドパターンと一致した()。以上から, これら3株のMRSAはUSA300株と確認された。

考 察

USA300株は, 主に皮膚軟部組織感染を生じるが, 中には壊死性肺炎, 化膿性骨髄炎などの重篤な侵襲性感染を起こす7)。USA300株は米国を中心に報告されているが, 欧州でも検出が増加しているという報告もある8)。2008年に沖縄県で患者から3名の医療従事者への最初のUSA300株の院内伝播が報告されている9)。2008年に埼玉県で小児の蜂窩織炎, 2015年に東京都で繰り返す膿痂疹の家族間の感染からUSA300株の分離が報告されている10,11)。2016年に大学病院と地域病院で全国調査されたMRSA感染症のうち1.1%(2/178)からUSA300株が検出された12)。2011~2015年に東京都の複数の病院でMRSA菌株の1.2%(42/3,433)でUSA300株が検出された報告がある13)

今回の3症例はいずれも乳児で重篤な侵襲性MRSA感染症を生じた。国内で異なる3地域からの症例で, いずれも海外渡航歴はなかった。今後の国内の流行状況に注意が必要である。

 

参考文献
  1. 院内感染対策サーベイランス検査部門, 公開情報 2016年1月~12月 年報(全集計対象医療機関)
    https://janis.mhlw.go.jp/report/open_report/2016/3/1/ken_Open_Report_201600.pdf(2018 March 22)
  2. Chuang YY, et al., Lancet Infect Dis 13: 698-708, 2013
  3. 廣瀧慎太郎ら, 小児感染免疫 27: 305-309, 2016
  4. Kawaguchiya M, et al., J Med Microbiol 62: 1852-1863, 2013
  5. Aung MS, et al., Microb Drug Resist 23: 616-625, 2017
  6. Shibuya Y, et al., J Infect Chemother 14: 439-441, 2008
  7. Nimmo GR, Clin Microbiol Infect 18: 725-734, 2012
  8. Otter JA, et al., Lancet Infect Dis 10: 227-239, 2010
  9. Mine Y, et al., J Dermatol 38: 1167-1171, 2011
  10. Higuchi W, et al., J Infect Chemother 16: 292-297, 2010
  11. Uehara Y, et al., J Infect Chemother 21: 700-702, 2015
  12. Osaka S, et al., J Med Microbiol 67: 392-399, 2018
  13. Takadama S, et al., Clin Microbiol Infect, 2018(Epub ahead of print)

 

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