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IASR 457(3), 2024【特集】メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症 1999年4月~2022年12月

  メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症 1999年4月~2022年12月 (IASR Vol. 45 p33-34: 2024年3月号) (2024年3月27日黄色部分加筆、横線部分削除)   黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は, ヒトや動物の皮膚, 粘膜...

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海外より来日した患者から検出されたNDM-1 メタロ- β- ラクタマーゼとOXA-181 カルバペネマーゼ等を同時に産生する広範囲抗菌薬耐性肺炎桿菌

(IASR Vol. 34 p. 237-238: 2013年8月号)

 

NDM型メタロ- β-ラクタマーゼ(MBL)を産生する多剤耐性菌は、2010年以降インド/パキスタン地域から世界各地に拡散している1,2)。MBLは、セフェム系やカルバペネム系を含む広範囲のβ-ラクタム薬を分解する。NDM型MBL産生株は、同時に各種の基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(CTX-M型などのESBL)やセファロスポリナーゼ(CMY型等)の遺伝子、さらに、アミノ配糖体系抗菌薬への高度耐性に関わるArmA、RmtC、RmtBなどの16S rRNAメチルトランスフェラーゼの遺伝子も保持していることが多い。加えて、キノロン薬の標的分子でありDNAの複製に関与するDNAジャイレースやトポイソメラーゼIVのキノロン決定領域(QRDR)に特定のアミノ酸置換も獲得していることが多い。つまり、NDM型MBL産生株の多くは、臨床的に用いられるほとんどの薬剤に耐性を獲得している点が特徴であり、この種の多剤耐性株による感染症は予後不良なことが多いため、国際的に大きな懸念事項となっている。

2013年6月、アジア地域の医療機関で治療を受けたアジア系の70代の男性患者が、6月中旬に日本での治療継続のため、東日本地域の医療機関に入院した。患者の喀痰などから、コリスチン以外のグラム陰性菌感染症に有効とされているセフェム系、カルバペネム系、モノバクタム、アミノ配糖体系、フルオロキノロン系、ホスホマイシン、ミノサイクリンなどの多くの抗菌薬に対し汎耐性を示す肺炎桿菌が分離された。メロペネム(MEPM)とメルカプト酢酸ナトリウム(SMA)のdiskを用いた「modified SMA-disk method」(https://www.nih-janis.jp/material/material/modified%20SMA-disk%20method.pdf)によるMBL 検出法では、明瞭な結果が得られなかったが、modified Hodge test (MHT)3)を実施したところ、「陽性」の結果が得られたため、カルバペネマーゼ産生株であることが強く示唆された。PCRによりカルバペネマーゼおよびその他のβ-ラクタマーゼの遺伝子などの検出とともにPCR産物の塩基配列を解析した。その結果、この菌株からは、NDM-1、セリン型のカルバペネマーゼOXA-181(OXA-48のvariant)、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼCTX-M-15、プラスミド媒介性のCMY-4(AmpC型セファロスポリナーゼ)などの産生に関与する各種の遺伝子、さらに、広範囲アミノ配糖体高度耐性に関与するArmAの遺伝子も検出され、薬剤感受性試験結果のデータとから、広範囲抗菌薬耐性(extensively drug-resistant, XDR)株4)であると判定された。

今回、この医療機関では初期の段階でこの菌株を検出し、適切な感染対策が取られたことから、院内での患者間伝播は発生しなかった。

最近、カナダや米国内では、NDM-1 産生株による院内感染が散発的に発生している5,6)。米国では、近年KPC型カルバペネマーゼを産生する腸内細菌科の細菌が広く蔓延してきたため、2013年3月にCDC が警告を発している(http://www.niid.go.jp/niid/ja/drug-resistance-bacteria-m/3305-carbapenem.html)。日本国内では2010年以降、輸入例を中心に数例のNDM-1 等産生株の分離の報告があるが(http://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/34/395/graph/kt39521.gif)が、幸いにも院内感染は発生していない。OXA-48型カルバペネマーゼ産生菌は、ヨーロパなどで院内感染を引き起こす主要な原因菌の一つとして警戒されているが、日本国内においては数例の輸入例が報告されているのみである。OXA-181 カルバペネマーゼはOXA-48型カルバペネマーゼのvariant(変種)であり、カルバペネムの分解活性がより高いと報告されている。OXA-181 産生株は、インドから近隣の国々やオセアニア、北欧、北米などに拡散しつつあることから、OXA-48産生株とともに今後も国内への流入が続くと予想される。流入初期の段階でそれらを見逃すと、気がつかれないまま入院患者間で伝播拡散する恐れもある。わが国と同様に、NDM-1 型やOXA-48型カルバペネマーゼ産生株がまだendemic になっていない米国やカナダでは、近年、海外からの患者の入院時検査が推奨されている6,7)。国内の医療機関においても、海外の医療機関で診療を受けた経歴を有する患者についてはこれらの多剤耐性菌の存在を念頭においた検査や感染対策の実施を検討する必要がある。

なお、今回分離された株のように、複数のカルバペネマーゼを産生する菌に関しては、チュニジアでNDM-1とOXA-48を同時に産生する多剤耐性肺炎桿菌の分離が報告されている8)。ノルウェーでもNDM-1とOXA-181を同時に産生する株が分離されている9)。今後、わが国でも、NDM型などのMBLのみならずKPC、OXA-48、OXA-181などの多様なカルバペネマーゼを同時に産生する株が出現する可能性もある。

カルバペネム耐性株や、多剤耐性株が分離された場合、遺伝子などの詳しい解析については、以下の厚生労働省事務連絡を参考に、国立感染症研究所細菌第二部(taiseikin[アットマーク]nih.go.jp )に相談いただきたい。

*[アットマーク]は@に置き換えて送信してください。

厚生労働省 事務連絡(平成25年3月22日)
 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/dl/130322.pdf

 

参考文献
1) Kumarasamy KK, et al., Lancet Infect Dis 10:  597-602, 2010
2) Nordmann P, et al., Trends Microbiol 19: 588-595, 2011
3) Girlich D., et al., J Clin Microbiol 50: 477-479, 2012
4) Magiorakos AP, et al., Clin Microbiol Infect 18: 268-281, 2012
5) CDC, MMWR 61: 446-448, 2012
6) Borgia S, et al., Clin Infect Dis 55: e109-117, 2012
7) Ahmed-Bentley J, et al., Antimicrob Agents Chemother 57: 3085-3091, 2013
8) Ben Nasr A, et al., Antimicrob Agents Chemother (Epub ahead of print), 2013
9) Samuelsen O, et al., J Antimicrob Chemother 68: 1682-1685, 2013

 

<解説>
NDM 型カルバペネマーゼ:メタロ- β-ラクタマーゼの一種で、2013年7月2日時点で、NDM-1 からNDM-10までのvariant (変種)がデータベースに登録されている。variant の同定には塩基配列を決定する必要がある。

OXA-48型カルバペネマーゼ:セリン型のカルバペネマーゼの一種で、OXA-48およびそのvariant であるOXA-181などのカルバペネマーゼが含まれる。variant の同定には塩基配列を決定する必要がある。

 

国立感染症研究所細菌第二部
    外山雅美(協力研究員) 長野由紀子(協力研究員) 柴山恵吾
名古屋大学大学院医学系研究科分子病原細菌学/耐性菌制御学分野
  長野則之(客員研究員) 荒川宜親

 

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