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イングランドとウェールズにおけるMSM間でのS. flexneri  3aの進行中のアウトブレイク、2009~2011年のデータ―英国

(IASR Vol. 33 p. 170-171: 2012年6月号)

 

イギリスにおけるShigella flexneri 症例は、通常インド亜大陸、北アフリカ、東アフリカ、南アメリカといった罹患率の高い地域(高リスク地域)への旅行や旅行者の接触者に由来する。検査室データの解析から、2010年11月、ロンドンで国内感染例の増加が探知された。続いて、2011年5月にマンチェスターにおいても国内感染例の増加が認められた。初期の報告患者群では血清型3aが多数を占め、大部分が30~50代のMSM(men who have sex with men)で、うち数名はHIV陽性であった。パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)解析により、分離株の一部が類似していることが分かった。初期の調査では共通の感染源は特定できなかった(IASR 33: 17&20, 2012参照)。

細菌性赤痢の性的接触伝播は1970年代に米国で初めて報告された。2006年のロンドンのMSM 間での赤痢のアウトブレイクは、ベルリンの類似アウトブレイクと同時に発生しており、旅行がリスク集団への赤痢の持ち込みに関与していることが示唆された。

2011年9月、アウトブレイクの調査と対応のためoutbreak control team(OCT)が設立され、強化サーベイランスが開始された。強化サーベイランスにおける確定例は、2011年9月1日~12月31日の間に、旅行歴がないか、低リスクの国々(ヨーロッパ、北米、オーストラリア)に最近の旅行歴があり、検査確定された患者と定義された。疑い例は、旅行歴が不明な検査確定患者とされた。高リスクの国々への旅行歴がある患者とその二次感染者は除外された。赤痢菌の分離株が収集され、血清型検査、PFGE解析、薬剤感受性試験が実施された。赤痢診断の報告があった全例について質問票を用いた調査が行われた。質問票には追加事項として旅行歴、喫食歴、有症者との接触、性的接触といった曝露に関する項目が含まれ、MSMであった場合には、感染の潜在的なリスクを特定するため、さらに詳細なインタビューが行われた。

強化サーベイランス期間中に145例のS. flexneri 感染患者が報告され、うち37例(25.5%)は旅行歴がなかった。37例のうち6例は高リスク地域への旅行者の接触者で、31例が国内感染例だった。86例(59.3%)が高リスク地域への旅行関連で、22例(15.2%)は旅行歴不明であった。低リスク地域への旅行者からは報告がなかった。国内感染例は男性優位(n=26)であったが、旅行関連症例に性差はなかった。31例中10例の血清型は3aで、MSMの感染者の半数以上が3aであった。7名のMSM症例に対する詳細なインタビューでは、全員が発病前一週間以内に不特定の人と性的関係を持っていた。さらに、赤痢や、非防御的なoral sex、oral-anal sexといった感染リスクに対する認識の欠如が明らかとなった。

OCTは、さらなる感染拡大防止のため、迅速で効率的な患者管理に焦点をあてた対策を開始した。その一環で、臨床医やMSMに対し早期診断と早期治療に関して啓発し、MSMの下痢患者への検査を進め、確定患者にシプロフロキサシンによる治療を促した。さらに、感染拡大防止に寄与しうる性行為や一般衛生に関する行動に関する勧奨も行った。

アウトブレイクはいまだ継続中である。性的な内容についての調査には抵抗がありうるが、今回、強化サーベイランスによって、S. flexneri 国内感染とMSMにおける感染が明らかになった。潜在的なリスク因子を特定し、公衆衛生活動に情報を還元するため、引き続きアウトブレイクの監視を継続する。

 

(Euro Surveill. 2012;17(13): pii=20137)

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan