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仕出し弁当調製施設で発生した毒素原性大腸菌食中毒事例について

(IASR Vol. 42 p107: 2021年5月号)

 

 2020年8月に仕出し弁当を原因食品とする毒素原性大腸菌O25(LT産生)による大規模な食中毒が発生したので, その概要を報告する。

事例の概要

 2020年8月31日に, 2カ所の事業所から, 飲食店が調製した仕出し弁当を喫食した複数名が下痢・発熱等の症状を呈している旨の連絡が大田区保健所にあった。

 調査の結果, 当該弁当の当日の喫食者数は37,441名であり, 患者数は2,548名で, 全喫食者における発症率は6.8%だった。患者の発症期間は8月28日~9月9日であり, 8月28日~8月31日に集中していた()。患者の主な症状は下痢・腹痛・発熱で, 潜伏期間の平均は45時間だった。検査の結果, 喫食者の検便のうち, 104検体から毒素原性大腸菌O25(LT産生)が検出された。

 患者の共通食は, 当該飲食店が調製した仕出し弁当のみだった。患者の喫食状況から, 8月28日に調製した仕出し弁当のおかずを原因食品として特定した。

 患者の詳細な喫食メニューについて統計学的解析を行ったが, 原因食品を特定する情報は得られなかった。また, 8月28日の仕出し弁当の検食および施設のふきとりからは毒素原性大腸菌O25(LT産生)が検出されず, 原因となったおかずの内訳の特定に至らなかった。

 以上のことから, 本食中毒事例は, 病因物質は毒素原性大腸菌O25(LT産生), 原因食品は当該施設が8月28日に調製した仕出し弁当のおかずと断定した。

考 察

 施設調査の結果, 衛生管理マニュアル通りに行っていない点や, マニュアルと記録表の記載に不備な点があり, 以下のような複数の汚染要因が推測された。

 ①当該施設は弁当の具材として野菜を非加熱で使用していた。野菜の消毒に次亜塩素酸水を使用していたが, 消毒前に次亜塩素酸水の塩素濃度を測定していなかったこと, および野菜や器具の洗浄消毒に不備があったことから, 非加熱で提供した野菜の洗浄消毒が不十分だった可能性が考えられた。

 ②手指の消毒が適切に行われなかった可能性があり, 調理従事者の手指を介し食品を汚染したことも考えられた。

 ③一部の器具を床に近い位置に保管していたことから, 床からのはね水により食品を汚染した可能性があった。

 ④加熱調理品について, 中心温度の記録方法に不備があったことから, 加熱不足により毒素原性大腸菌O25が残存した可能性があった。

 以上により, 本食中毒事例は, 原因食品および汚染経路を特定することはできなかったが, 当該施設において衛生管理マニュアルの内容が遵守されていなかったこと, マニュアルおよび記録表の内容に不備があったこと等が要因となり, 衛生管理が不十分となり本食中毒が発生したと考えた。

 今回の事例を受けて, 当該施設は野菜の洗浄消毒について, 自主検査の実施により効果を検証し, 工程を改善した。また, 手指の洗浄消毒や器具の保管についてマニュアルの記載内容を遵守するよう改善した。マニュアルや記録表については順次修正を行っている。

 仕出し弁当調製施設においてHACCPの考え方に沿った衛生管理を確実に実施するには, 大量調理施設衛生管理マニュアルに準拠した適切な内容の衛生管理マニュアルを整備し, 各従事者がその内容を遵守することが不可欠である。当保健所管内における大量調理施設に対して, マニュアルの内容について妥当性を検証し, 確実に実施するよう指導を行っていく。


 
大田区保健所生活衛生課食品衛生担当
 園田瑞穂 岡本 大 中村和久 久保井仁美(現墨田区保健所) 前園沙織  

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