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食中毒疑い事例の検査で検出されたEscherichia albertii について―秋田県

(IASR Vol. 33 p. 133-134: 2012年5月号)

 

2011(平成23)年11月に秋田県内の1保健所管内における食中毒疑い事例発生に伴い、食中毒原因菌およびノロウイルスの検査を実施した。今回、そのうちの1名より新規の下痢原性病原菌とされるEscherichia albertii を分離したので、概要を報告する。

事例の概要
平成23年11月13日(日)Y市の飲食店においてスポーツ少年団の大会終了後の慰労会を開催した3校の児童および保護者等170名のうち、22名が13~15日にかけて嘔吐、下痢、腹痛、発熱等の食中毒様症状を呈した。

施設従業員便16検体、患者便19検体、施設内ふきとり10検体に関して食中毒原因菌およびノロウイルスを調査した。食中毒原因菌としては、病原大腸菌(腸管出血性大腸菌含む)、赤痢菌、サルモネラ属菌、ビブリオ属菌、エルシニア、カンピロバクター、黄色ブドウ球菌、セレウス菌、ウェルシュ菌が調査された。

その結果、患者便より腸管病原性大腸菌O抗原型別不能が1名、ノロウイルスが2名検出された。一方、従業員便および施設内のふきとり検体からはいずれも不検出であった。

E. albertii の検出
E. albertii (菌株No. EC15062)はノロウイルスが検出されたうちの1名から、病原大腸菌の検査に関連して検出された。病原大腸菌の検出のため、PCR法により各病原大腸菌の主要な病原因子、すなわち腸管出血性大腸菌のstx 、腸管病原性大腸菌のeae 、腸管侵入性大腸菌のinvE 、腸管毒素原性大腸菌のest およびelt 、腸管集合(凝集付着)性大腸菌aggR およびastA の有無を確認した。EC15062 はeae のみ(+)でstx を含むその他の病原大腸菌の主要な病原因子は(-)であった。そのため、当初、EC15062 は腸管病原性大腸菌であると予想された。しかしながら、性状試験の結果、インドール(+)、リシン(+)であるが、運動性(-)、乳糖(-)、キシロース(-)であり、大腸菌としては極めて非定型的性状であることが確認された。次に、EC15062の16S rRNA遺伝子の一部823 ntに関して、相同性解析を実施した。EC15062 の配列はE. albertii strain KWB09-600(accession no. HM194877)の配列と100%一致したものの、多くの大腸菌の配列とも高い相同性を示した。そこで、EC15062が腸管病原性大腸菌かE. albertii かを鑑別するため、腸管病原性大腸菌(E2348/69)を対照にして、PCR法によりstxeaeuidAlysPmdh 、およびcdtB の検出を行った()。その結果、EC15062は、腸管病原性大腸菌と同じくstx (-)、eae (+)である一方、腸管病原性大腸菌とは対照的に、大腸菌に特徴的なuidA が(-)、E. albertii 特異的に設計されたlysP およびmdh が(+)であり、また、E. albertii の病原因子の一つとして報告されているcdtB に関しても(+)であった。これらの結果から、EC15062はE. albertii と同定された。

考 察
今回の事例では、腸管病原性大腸菌、ノロウイルス、E. albertii といった複数の病因物質が検出されたが、詳細な疫学調査の結果、
 ・飲食店利用者 270名のうち有症者の報告があったのは、3校の利用者のみであったこと
 ・飲食店は利用していないが、対象の3校が出場した大会に同じく参加した他校の中にも有症者がいたこと
 ・飲食店の食事を原因とした場合、発症時間が早いこと
 ・いずれの病因物質も検出率が低く、他の要因との混合感染の可能性も考えられること
等の理由により、本事例は飲食店を原因施設とした食中毒ではなく、「ノロウイルス等を原因とした感染症」と考えられた。

対象の3校が出場した大会の会場で嘔吐等した患者はおらず、また、有症者の中には大会に来場していない者もいたことから、家庭内や練習等においても感染を広げた可能性があるため、対象の3校が出場した大会での集団感染とは特定しなかった。

E. albertii は、大腸菌の典型的な性状と異なるため、通常の病原大腸菌の検査では見過ごされたり、誤同定を招きかねない。一般に、非定型的な性状を示す菌の同定には、16S rRNA遺伝子の相同性解析が有用であることが知られているが、E. albertii と大腸菌は非常に近縁であり、E. albertii の同定においては16S rRNA遺伝子の相同性解析では不十分と思われた。今回、病原大腸菌の病原因子の探索に加えて、uidAlysP およびmdh といった菌種特異的もしくは菌種により多型性を持つ遺伝子のPCRを併用することでE. albertii の同定が可能であった。ただし、本事例においてE. albertii が検出された患者からはノロウイルスも検出されており、病原性や臨床症状に対する本菌の関与は不明であった。E. albertii の病原性や疫学、臨床症状との関連については知見が不足しており、その解明のためには今後もさらなる事例の集積が必要と考えられる。また、衛生研究所等においては、今後このような非典型的な下痢原性病原菌によって食中毒等が発生した場合であっても、原因不明となって衛生改善指導等に支障をきたすことのないよう確実に分離同定することが重要と考えられる。

秋田県健康環境センター保健衛生部
今野貴之 八柳 潤 高橋志保 熊谷優子 和田恵理子 千葉真知子 齊藤志保子
由利本荘保健所環境・食品衛生班 三浦聡子 小山真人 金 和浩

 

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