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HUS患者から分離されたstx2f陽性のEscherichia albertiiについて

(IASR Vol. 37 p.255: 2016年12月号)

Escherichia albertiiは2003年に新種として承認された下痢症起因菌の1つである。病原性遺伝子としてeaeを保有するが,その一部には志賀毒素遺伝子(サブタイプstx2fの場合が多い)を保有する菌株が存在することから,これまで腸管病原性大腸菌または腸管出血性大腸菌(EHEC)と同定されていた例も報告されている1)。2016年8月,我々は溶血性尿毒症症候群 (HUS) を発症した患者便からstx2f陽性のE. albertiiを分離したのでその詳細について報告する。

1.HUS患者の臨床症状

患者は1歳女児で,発熱により急性咽頭炎と診断された。解熱2日後に乏尿,尿蛋白,尿潜血陽性を経て,溶血性貧血,血小板減少,急性腎障害の3主徴からHUSと診断された。明らかな下痢症状はなく,血便もみられなかった。

2.E. albertiiの分離同定

患者便を非選択性増菌培地(トリプチケースソイブイヨン:TSB)に接種して37℃で1晩静置培養した後,genomic DNAを精製してPCRの鋳型とした。これを用いてEHEC one-shot PCR〔EHECの主要7血清群(O157,O26,O111,O103,O121,O145,O165)の抗原遺伝子,stx1(サブタイプstx1dを除く),stx2(サブタイプstx2fを除く),eaeが検出可能〕2)stx common PCR(現時点で定義されているすべてのstxが検出可能)3)を実施したところ,EHEC one-shot PCRではeaeのみが,stx common PCRではstx2のみがそれぞれ陽性となった。同じ鋳型DNAを用いてstx subtyping PCR(現時点で定義されているすべてのstxサブタイプが型別可能)3) を実施したところ,stx2f陽性であることが判明した。さらに,E. coli O-genotyping PCR 〔O14とO57を除くすべての大腸菌O群の抗原遺伝子型(Og)が検出可能〕4)を実施したところ,Og75陽性と判明した。以上の知見を基に,TSB増菌液をXM-G寒天培地「ニッスイ」上で拡げて得られたコロニーを調べたところ,大腸菌O75が分離されたが,本菌はstxeaeがいずれも陰性であった。一方,stx2feaeがともに陽性となるコロニーについて大腸菌O型別を実施したが,型別不能(OgUT/OUT)となった。そこで,stx2feaeが陽性となった分離株をE. albertii診断用PCR5,6)で調べたところ,E. albertiiであることが確認された。分離されたE. albertiiの主な生化学的性状は次の通り:インドール陽性,リジンデカルボキシラーゼ陽性,非運動性,ラクトース非発酵性,キシロース非発酵性,ソルビトール非発酵性,β-グルクロニダーゼ陰性であった。

3.HUS患者の血清診断

本HUS患者の血清について,分離されたE. albertii株とEHECの主要7血清群の全菌体成分に対する凝集抗体を調べたところ,E. albertii株に対してのみ凝集抗体が確認された。

以上の結果から,本事例はstx2f陽性のE. albertii感染によるHUS症例であると結論された。本症例では明らかな下痢症状や血便症状は観察されておらず,今後,HUS等の重症例におけるE. albertii分離例の推移について注視する必要があるものと考えられる。

  

参考文献
  1. 村上光一ら,IASR 37(5): 98-100,2016
  2. 井口 純ら,日本食品微生物学会雑誌 32 (4): 215-218,2015
  3. Scheutz F,et al.,J Clin Microbiol 50(9): 2951-2963,2012
  4. Iguchi A,et al.,J Clin Microbiol 53(8): 2427-2432,2015
  5. Hyma KE,et al.,J Bacteriol 187(2): 619-628,2005
  6. Oaks JL,et al.,Emerg Infect Dis 16(4): 638-646,2010

国立感染症研究所細菌第一部
 伊豫田 淳 石嶋 希 李 謙一 石原朋子 大西 真
埼玉医科大学総合医療センター小児科 漆原康子 櫻井淑男
宮崎大学農学部 井口 純
国立感染症研究所感染症疫学センター 齊藤剛仁 村上光一

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