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同定にMALDI-TOFMSの使用が有効であった患者由来Escherichia albertii 2株の細菌学的概要―北海道

(IASR Vol. 39 p84: 2018年5月号)

Escherichia albertiiEscherichia coliに性状が類似するため, その同定が困難である。今回, Matrix assisted laser desorption/ionization-time of flight mass spectrometry(MALDI-TOFMS)により, 臨床現場で比較的容易に本菌と同定可能であったE. albertii 2株(2名の下痢症患者由来)の概要について報告する。

患者の糞便をドリガルスキー寒天培地, DHL寒天培地, クロモアガーSTEC/SS V分画培地に培養したところ原因菌と思われる菌株が分離された。MALDI-TOFMS(バイオタイパー, Bruker社, library version 5989)を使用して, これらを同定したところ, 最初の症例由来株では結果は第1候補がEscherichia coli(スコア値:2.19)で, 第10候補まで9候補をE. coliが占める中, E. albertiiが第4候補としてコールされた(スコア値:2.11)。次の症例由来株では, 同様に第1候補がE. coli(スコア値:2.353)で第10候補まで9候補をE. coliが占める中, E. albertiiが第2候補としてコールされた(スコア値:2.22)。さらにE. albertiiの代表的性状とされるeaeがPCR法にて陽性となり, 本菌株はE. albertiiであると想定した。E. albertii同定用プライマーを用いた診断的マルチプレックスPCR1)を行ったところ, lysP陽性, mdh陽性およびclpX陽性であった。そのため当該分離株をE. albertiiと同定した。

これとは別に追加実験として, Bruker社(library version 5989)のMALDI-TOFMSを用いて既知のE. albertii 37菌株を試験同定すると, 第1候補にE. albertiiとコールされず, 完全に同定できない場合(多くの場合第1候補がE. coliとなる)であっても, 同定候補10位以内にE. albertiiがコールされることがわかった。当該機器のlibraryに含まれるE. albertii菌株は現在1株であるが, これを増やすことで, より正確な同定が本法で可能となることが予想される。今後メーカーに働きかけていく必要がある。

臨床で高頻度に使用されているMALDI-TOFMSであるが, このようにlibraryにE. albertiiが含まれる機器で病原細菌を同定する場合, 10位以内に候補菌種としてE. albertiiがコールされた場合には, 本菌である可能性を視野に入れ, 検査を進める必要があると考えられる。ただし, libraryに本菌が含まれない場合は無効であるので注意が必要である。

 

参考文献

 

社会福祉法人北海道社会事業協会 富良野病院
 臨床検査科 杵渕貴洋
 小児科 角谷不二雄
 消化器内科 西川浩司
栃木県保健環境センター  水越文徳
国立感染症研究所
 薬剤耐性研究センター 松井真理 鈴木里和
 細菌第一部 大西 真
 感染症疫学センター 村上光一 齊藤剛仁 大石和徳

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan