印刷
IASR-logo
 

腸管凝集付着性大腸菌耐熱性毒素遺伝子(astA)単独保有大腸菌O166:H15が原因と考えられた食中毒事例について―姫路市

(IASR Vol. 40 p220-221:2019年12月号)

事例概要

平成28(2016)年9月28日, 市内医療機関より「9月22日に同じ職場のグループが仕出し弁当等を喫食した後, 複数名が下痢および腹痛等の症状を呈している。」 と本市保健所衛生課に連絡があり, 探知した。

喫食者数は69名, 有症者数は28名であった。共通喫食物は9月22日に提供された仕出し弁当で, メニューは煮物(高野豆腐, 南瓜, 蒟蒻, 人参, 筍および, おくら), 揚げ物(エビフライおよび唐揚げ), 刺身三種, 切り干し大根の酢の物、焼き鮭、中華和え, ししゃも子の和え物, オレンジおよび, ご飯であった。主な症状は下痢, 腹痛および発熱等であり, 発症までの時間は5.5~79.5時間(平均31.3時間)であった。

材料, 方法および結果

当所へは有症者16名および従業員3名の合計19検体の便が搬入された。検査依頼項目は, 黄色ブドウ球菌, セレウス菌, ウェルシュ菌, サルモネラ属菌, カンピロバクター, 腸炎ビブリオ, 下痢原性大腸菌, ノロウイルス, エルシニアおよび緑膿菌の合計10項目であった。原因食品と推定される仕出し弁当については保存食がなかったため、当所への検査依頼はなかった。

下痢原性大腸菌検査は, DHL寒天培地上に発育したコロニーをsweepし, アルカリ熱抽出法にてDNAを抽出後, LT, STpST1a), SThST1b), stx1, stx2, stx2f, eae, invE, afaD, aggRおよびastAの11種類の病原遺伝子についてマルチプレックスPCR法を用いて探索し, 何らかの病原遺伝子が検出された検体については, DHL寒天培地上から菌を単離し, 生化学的性状試験, 当該病原遺伝子検査および血清型別試験を実施した。

検査の結果, 黄色ブドウ球菌, セレウス菌、ウェルシュ菌, カンピロバクター, 腸炎ビブリオ, ノロウイルス, エルシニアおよび緑膿菌は19名すべてにおいて検出されなかった。サルモネラ属菌は19名中有症者1名から検出され, その血清型はO7:e, h:kであった。下痢原性大腸菌は19名中有症者8名および従業員1名の合計9名からastAを保有した大腸菌を検出した。それら9名中有症者7名から分離した当該菌の血清型はO166:H15であったが, 残りの有症者1名および従業員1名についてはOUT:HUT(O抗原:H型別不能)であった。なお, 他の10種類の病原遺伝子については, 19名すべてにおいて検出されなかった。

分離したastA単独保有大腸菌O166:H15 (7株) およびastA単独保有大腸菌OUT:HUT (2株) について, 制限酵素XbaⅠを使用したPFGE解析および16薬剤 (ABPC, TC, SM, KM, NA, NFLX, CPFX, CP, CET, CPZ, CTX, CAZ, CEZ, CFX, STおよびFOM)を用いた薬剤感受性試験を実施した結果, 当該菌O166: H15(7株)は, ほぼ同一のPFGE泳動パターン() および感受性結果(ABPC, TC, SM, KM, NA, CPFX, CET, CEZおよびSTに耐性または中間耐性)を示した。

まとめ

本事例について, 有症者に共通する食事は当該施設が調製した弁当以外にないこと, 有症者便からノロウイルスが検出されず感染症を疑わせるエピソードの報告がなかったことおよび有症者7名からastA単独保有大腸菌O166:H15が検出されたことより, 当該仕出し弁当を調製した施設を原因とする食中毒と断定した。

astA単独保有大腸菌の下痢の発症機序等については知見が少なく不明な部分が多いが, 他の自治体でも当該菌による食中毒事例が発生し1-6), それらの有症者の91~100%が下痢を呈したと報告されている。本事例においても, 有症者の100%が下痢を呈した。検便を実施した7名からastA単独保有大腸菌O166: H15が検出され, この血清型は過去の2事例5,6)と同一であった。その後の解析で, 当該菌のPFGE解析および薬剤感受性試験の結果がほぼ一致していたため, これらは同一由来株である可能性が高く, 当該菌が本事例と深く関与していることを裏付けることができた。

謝辞

本事例で分離したastA単独保有大腸菌O166:H15の検査を実施するにあたり, H型別の検査方法について御指導および御協力いただいた国立感染症研究所細菌第一部の伊豫田淳先生および宮崎大学の井口純先生に深く感謝申し上げます。

 

参考文献
  1. Zhou Z, et al., Epidemiol. Infect 128: 363-371, 2002
  2. 石村勝之ら, IASR 23: 229-230, 2002
  3. 緒方喜久代ら, IASR 25: 101-102, 2004
  4. 石畝 忠ら, IASR 25: 262-263, 2004
  5. 杉谷和加奈ら:astA保有大腸菌が原因と考えられた食中毒事例. 熊本市ホームページ
    https://www.city.kumamoto.jp/common/UploadFileDsp.aspx?c_id=5&id=1240&sub_id=1&flid=5400 (2019年10月29日確認)
  6. 中村寛海ら, IASR 36: 89-90, 2015
 
 
姫路市環境衛生研究所
 新免香織 横田隼一郎 黒田久美子 小西和子 熊谷幸江
姫路市保健所衛生課
 友永裕輔(現 食肉衛生検査センター)
 今井真司(現 食肉衛生検査センター)
Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan