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腸管出血性大腸菌O186:H–の集団感染事例―佐賀県

(IASR Vol. 33 p. 272-273: 2012年10月号)

 

2012年6月に県内の教育施設を中心とした腸管出血性大腸菌(EHEC)(VT1陽性)による集団感染事例が発生した。

調査の結果、原因菌は2011年に大腸菌O血清群として新たに追加されたO186であることが判明したため、その概要を報告する。

事例概要:2012年6月18日、医療機関より高校生男子からO血清群不明(OUT)のEHEC(VT1陽性)が検出された旨の届出が佐賀中部保健福祉事務所にあった。

患者は6月11~13日まで他県の研修所にて、同学年280名および引率教員12名で合宿研修に参加しており、6月14日から下痢・腹痛等の体調不良を有していた。

保健福祉事務所の調査の結果、同学年に有症状者がいることが判明した。このことから初発患者家族、同学年有症者およびその家族等の検体が当所に搬入された。

検査方法:クロモカルト、DHL、TSB(増菌)に培養し、クロモカルト、DHLに発育したコロニーについてVero毒素確認のPCR1) を行った。PCRにてVT1遺伝子を検出したコロニーに対し、生化学的性状検査を実施した。

結 果:検査対象者のべ49名のうち、同学年6名からVT1陽性のEHECが検出された(表1表2)。当所で行ったデンカ生研の血清セットを用いたO血清群の解析から、5株はOUTであり、1株はO25であった。

OUTの6株は、クロモカルトで紫色、DHLでピンク色のコロニーを示した。生化学性状では、CLIG培地で蛍光(+)、斜面/高層(-/+)、LIM培地でリジン(+)、インドール(+)、運動性(-)、TSI培地で斜面/高層(+/+)を示した。

O25の1株は、クロモカルトで紫色、DHLでピンク色のコロニーを示した。生化学性状では、CLIG培地で蛍光(+)、斜面/高層(-/+)、LIM培地でリジン(-)、インドール(+)、運動性(+)、TSI培地で斜面/高層(+/+)を示した。また、H型は12であった。

当所の血清型別検査でOUTであった本人株および陽性株を国立感染症研究所(感染研)・細菌第一部に送付し、血清型別を依頼した。

感染研・細菌第一部での解析から、OUT:H–の初発患者を含む6株はいずれもO186:H–と判明した。これらの6株はパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)による解析パターンが一致し、同一由来の菌であると考えられた。

考 察:本事例では、型不明のEHECとして検査を進め、O186の判明に至った。O186のVT保有株が有症状者より検出された例は、全国的にもこれまでになく、興味深い事例であった。なお、本事例の感染原因・感染経路は不明である。

謝 辞:疫学的調査を担当された、佐賀中部保健福祉事務所の職員の皆様に深謝致します。

 

参考文献
1) Pollard, et al., J Clin Microbiol 28: 540-545, 1990

 

佐賀県衛生薬業センター
成瀬佳菜子 南 亮仁 小松京子 甘利祐実子 眞子純孝 吉原琢哉 増本久人 北島淳二 古川義朗
国立感染症研究所細菌第一部
伊豫田 淳 寺嶋 淳 石原朋子 大西 真

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