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集団食中毒事例で分離された腸管出血性大腸菌O157: H7(VT1&2)について―岡山県

(IASR Vol. 39 p177-178: 2018年10月号)

2017 (平成29) 年8月, 同一系列焼肉店2施設を原因施設とした腸管出血性大腸菌(EHEC)O157:H7(VT1&2)による集団食中毒が発生した。本事例は, 当該2施設に対し食品衛生法に基づく営業停止処分が行われ, 本県では実に20年ぶりとなるEHEC O157による集団食中毒事例となった。

ここでは, 本事例の概要を紹介するとともに, IS-Printing法(IS法), パルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE法) および反復配列多型解析法(MLVA法)による遺伝子型別結果を中心とする分離株の検査結果について解説する。本稿が今後発生しうる類似菌株による感染事例等の参考になれば幸いである。

事例の概要

平成29年8月19日, 感染症法に基づくEHEC O157: H7(VT1&2)感染症発生届が, 患者住所地を所管する保健所へ提出された。これが本事例の初発に係る報告であった。

その後, 同様の届出が県下複数の保健所へ提出された。そこで, 当該焼肉店2施設を管轄する保健所(以下, 「管轄保健所」と呼称する)を始めとする担当保健所が関連調査を実施したところ, 患者を含む複数のグループが当該2施設を共通して利用していたことが判明し, 本事例の探知に至った。

感染者(無症状病原体保有者を含む)の報告が相次ぐ中, 利用者に共通する飲食物は当該2施設で提供された食事のみであったこと, 先行して4名分の患者分離株についてIS法による遺伝子型別を実施した結果, バンドパターンが完全一致したこと(図1), グループ間で共通喫食歴のない野菜を除く食材の仕入れ先が一致していたことなどから, 当該2施設で提供された食事による集団食中毒事例と断定し, 同年8月29日付で管轄保健所が各施設に対し5日間の営業停止処分を行った。さらに, 施設営業者に対する衛生指導, 感染者の就業制限指導などを実施し, 再発防止対策が講じられた。菌検出については, 同年9月29日の無症状病原体保有者からの分離が最後となった。

最終的に, 平成29年8月8日~24日の期間に, 当該2施設を利用した11グループ49名のうち16名が発症し(自己申告を含む), 13名(うち, 無症状病原体保有者3名)からEHEC O157が検出された事例となった。なお, 食材検査および施設の拭き取り検査ならびに従事者検便も実施したが菌は検出されず, 感染源の特定には至らなかった。

分離株の検査結果

感染者から分離された13株の生化学的性状を確認したところ, 典型的なEHEC O157の性状であった。Vero毒素遺伝子(vt/stx)を確認したところ, すべての菌株がstx1およびstx2を保有しており, その亜型もstx1aおよびstx2aで同一であった。さらに, すべての菌株が腸管粘膜への付着因子であるインチミン遺伝子(eae)を保有していた。また, ディスク拡散法による15種類の薬剤(アンピシリン, セファゾリン, セフメタゾール, セフォタキシム, セフェピム, イミペネム, メロペネム, カナマイシン, テトラサイクリン, クロラムフェニコール, ホスホマイシン, ナリジクス酸, ノルフロキサシン, レボフロキサシン, ST合剤)についての薬剤感受性試験を実施したところ, すべての薬剤に対して感受性を示した。

遺伝子学的検査では, IS法による遺伝子型別を実施したところ, すべての菌株でバンドパターンが完全一致し, 同一の遺伝子型を示した。前述した図1は, 先行して実施した4株のみのバンドパターンであるが, 残る9株についても同一の遺伝子型を示した。同様に, PFGE法でも遺伝子型別を実施したところ, 1株のみ1バンドの相違が確認されたが, それ以外の菌株ではすべてのバンドパターンが完全一致し, 概ね同一の遺伝子型を示した(図2)。さらに, 国立感染症研究所(感染研)へ菌株を送付し, MLVA法による型別を依頼したところ, そのMLVA型はいずれも感染研Type「17m0174」であった。参考としてMLVA法における各プライマー領域のリピート数をに示す。

これらの3手法による遺伝子型別の結果からも, 本事例は同一菌株の感染に由来する集団感染事例であったことが明確に示された。

最後に

2018(平成30)年3月時点で感染研Type「17m0174」のEHEC O157は岡山県外の2自治体からそれぞれ1例ずつ報告されたのみであった。

食肉等の食材は特定の地域に限らず, 全国規模で広域に流通している。本事例では感染源の特定には至らなかったが, 同一菌株による汚染を受けた食材が広域に流通している可能性は否定できない。今後, 類似菌株による感染事例等が発生した際は, 本稿を検査対応の参考にしていただきたい。

 

岡山県環境保健センター
保健科学部細菌科
 仲 敦史 河合央博 中嶋 洋 狩屋英明

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