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老人ホームで発生した腸管出血性大腸菌O157による食中毒事例―千葉市

(IASR Vol. 33 p. 121-122: 2012年5月号)

 

千葉市内の老人ホームにて腸管出血性大腸菌O157(以下EHEC O157)を原因とする食中毒事例が発生したので、その概要を報告する。

2011(平成23)年8月10日、千葉市保健所に老人ホームの入所者45名中4名および介護職員30名中1名が消化器症状を呈しており、うち入所者1名からEHEC O157が検出されたとの報告があった。

保健所が調査したところ、入所者4名が食中毒症状を呈しており、共通する食事は当該施設内で調理、提供された給食であった。また、これら入所者4名および給食施設の調理従事者1名の検便からEHEC O157(VT1&2 )が検出されたことから、千葉市保健所は食品衛生法第6条第3号違反として3日間の食品営業停止処分とした。

患者の発生状況は、8月1日に1名(初発患者)、8月5~6日をピークに8月16日まで14名が発症しており(図1)、症状は下痢が9名、腹痛が7名、軟便が4名、嘔吐が1名で、8日に発症した入所者1名が死亡した。

入所者、調理従事者、介護職員、合計63検体の検便を実施した結果、入所者12名、調理従事者1名、介護職員4名の合計17名からEHEC O157(VT1&2 )が検出された(表1)。なお、発症者2名(入所者1名および介護職員1名)からは当該菌は検出されなかった。次いで、7月26日~8月3日までに提供された保存検食 240検体を検査したところ、7月31日の夕食に提供された「卵サンドの具」からEHEC O157(VT1&2 )が検出された。この「卵サンドの具」は、給食施設にて、卵を鍋で茹でた後、速やかに冷却、フードプロセッサーでマヨネーズと混ぜ合わせるという工程で調理され、その後ロールパンにはさみ卵サンドとして提供されていた。

食材から検出された菌株を含めた合計18株についてパルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE)を実施したところ、17株のパターンは完全に一致した。介護職員由来1株のPFGEパターンは2バンド異なってはいたものの、他の17株と同じ由来の株であると考えられ(図2)、分離された18株は同一感染源由来であると考えられた。

このことから卵サンドが原因食品であることが濃厚に疑われ、調理従事者から菌が検出されていることを考慮すると、調理従事者が食材を汚染したことによる食中毒が疑われたが、この調理従事者は洗い場専任で調理には携わっていなかった。また、卵サンドも喫食しておらず、この調理従事者と食材を結び付けることはできないものと思われたが、さらに疫学調査を進めていくと以下のことが明らかとなった。

卵サンドが提供された7月31日は施設の納涼祭が開催されており、メニューの1つにローストビーフがあった。このローストビーフは、給食施設にて和牛もも肉全体に食塩をすり込み冷蔵庫で3時間ねかせた後、オーブンで加熱後提供されていた。さらに、このローストビーフを当該調理従事者が試食していたことも判明した。しかしながら、このローストビーフは検食として保存されておらず、検査した240検体には含まれていなかった。EHEC O157は牛の腸管に存在すること、および納涼祭当日はローストビーフ以外に牛由来の食品が提供されなかったことを考慮すると、卵サンドだけでなくローストビーフも原因食品であった可能性が示唆された。

以上のことから、ローストビーフ原材料の牛肉に付着していたEHEC O157が加熱不足により生存し、調理従事者の手指または調理器具を介して、卵サンドの具を二次汚染した可能性も推察された。

千葉市環境保健研究所健康科学課
北橋智子 吉原純子 奥島祥美 木原顕子 都竹豊茂 三井良雄
千葉市保健所食品安全課
加曽利東子 落合弘章(現健康部健康企画課) 清田智子(現環境衛生課) 大山照雄
西村正樹(現健康部生活衛生課) 山本一重 三井良雄 池上 宏


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