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流行性角結膜炎患者からのアデノウイルス54型の検出, 2016年-大阪市

(IASR Vol. 39 p125-126: 2018年7月号)

流行性角結膜炎(EKC)は主にアデノウイルス(AdV)の感染により引き起こされる伝播力の強い眼疾患である。8~14日間の潜伏期間を経て, 眼脂や流涙, 眼瞼浮腫, 濾胞形成, 耳前リンパ節の腫脹などの症状を生じ, 角膜に炎症が及ぶと透明度が低下し, 混濁は数年に及ぶことがある1)。AdVはA~G種に分類され, 主にB種, D種, E種がEKCを引き起こす。B種では3型が, E種では4型が検出されており, D種は従来8型, 19/64型, 37型が検出されていたが, 近年は53型, 54型, 56型などの新しい型の検出が増加している2)。患者報告数は例年5~8月に増加するが, 2015~2016年は全国的に秋以降も報告数の増加がみられた2)。2016年の大阪市においても9~12月に患者の報告数が増加し, この時期としては2008~2016年の9年間で最多となった()。今回, 大阪市でEKCの患者が増加した原因を調べるためにEKC患者から検出されたAdVの遺伝子型別を行った結果, AdV陽性例のうち, 54型が最多(70.4%)であったことから, 54型陽性例に焦点をあて, 報告する。

材料・方法

2016年9~12月に大阪市内の眼科定点医療機関でEKCと診断された患者の結膜ぬぐい液31検体を対象とした。

臨床検体よりQIAamp Viral RNA mini kit(QIAGEN)によりウイルス核酸を抽出し, QuantiTect multiplex PCR kit(QIAGEN)を用いたリアルタイムPCR法でAdVのスクリーニングを行った3)。陽性検体についてhexonのloop 1領域をPCRにより増幅し, 増幅領域に関してダイレクトシークエンス法で塩基配列を決定し, BLAST解析により型別を行った4)。また, Vero細胞とRD-18S細胞を用いてウイルスの分離も試みた。

結 果

遺伝子検査で27検体(87.1%) がAdV陽性となり, hexon領域の遺伝子型別の結果, 19検体(70.4%)が54型であった。ウイルス分離検査はすべて陰性であった。54型陽性患者の年齢は, 0~5歳が8人, 6~19歳が2人, 20代が2人, 30代が6人, 40代が1人であった。また, 患者発生状況は家庭内発生が57.9%(n=11), 保育所での発生が31.6%(n=6), 不明が10.5%(n=2)であった。

考 察

2016年9~12月に大阪市でEKCと診断された患者からAdVが最も多く検出され, 54型が最多であった。全国的にも2015~2016年は54型が多く検出されており, 2016年の同時期には大阪市と同様に54型が最多であった5)。また, EKCの患者は乳幼児と30~40代の成人に多くみられた。全国的にも2016年のEKCの患者は0~4歳を中心とする小児と, 成人では30代を中心とした幅広い年齢層にみられ2), 大阪市と同様の傾向を示した。発生状況では, 家庭内や保育所内など濃厚接触する機会が多い場所で感染が起こっており, 中には保育所から家庭内へと感染が広がったと疑われる例もあった。EKCの起因病原体のAdVは伝播力が強いため, 二次感染により感染が拡大する可能性がある。ウイルスを含む眼脂や涙液などが感染源となり手指等を介して感染するため, 感染拡大防止に手洗いの励行, タオルの共用を避けることなどを啓発する必要がある。

大阪市のEKC患者数の増加の原因は54型による可能性が高いと考えられるが, 54型流行の要因を明らかにするためにはさらなる解析が必要である。また, 現在, 54型は日本で主要なEKCの原因の一つとなっているが, 54型についての疫学情報はまだ少ない。そのためEKCの原因となるAdVの型別を行い, 54型に関する情報を継続して蓄積していくことが重要である。

 

参考文献
  1. 国立感染所研究所HP 『流行性角結膜炎とは』
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/528-ekc.html
  2. IASR 38: 133-135, 2017
  3. Kaida A, et al., Jpn J Infect Dis 67: 469-475, 2014
  4. 咽頭結膜熱・流行性角結膜炎検査, 診断マニュアル(第3版)
    https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/adeno_v3.pdf
  5. 週別流行性角結膜炎患者からのアデノウイルス等分離・検出報告数, 2014~2018年
    https://kansen-levelmap.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data29j.pdf

 

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