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福岡県・大分県からの新生児・早期乳児のパレコウイルスA3感染症の症例集積の報告

(IASR Vol. 43 p234-235: 2022年10月号)

 

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行下において, 小児の多くの感染症の疫学が変化した。新生児, 早期乳児の敗血症・髄膜脳炎の原因となるパレコウイルスA3(PeV-A3)も例外ではなく, この2年間, その報告は極めて限られていた。

 新潟大学医学部小児科では, これまで, 県内外の大学の関連医療機関を中心に, PeV-A3の症例の集積を報告してきた1)。さらに, 2019年からは, 北海道から沖縄県まで全国12カ所の小児医療施設を中心にPeV-A3流行把握のためのネットワークを形成し, 敗血症・髄膜炎疑いで入院した新生児と早期乳児を対象にPeV-A3感染の鑑別を含めた前方視的疫学調査を行ってきた2)。2019年は34症例のPeV-A3感染が明らかとなったが, COVID-19流行が始まった2020年は7症例, 2021年は1症例に減少していた。

 今回, 福岡県と大分県から, 2022年5月に3症例, 6月に14症例, 7月(7月15日時点)に5症例のPeV-A3症例の集積を確認した。

 計22症例は, すべて生後3か月未満(新生児12症例, 生後1か月7症例, 生後2か月3症例)であった。臨床診断名は敗血症/敗血症様症候群で, 全例に発熱をともない, 特にPeV-A3の臨床的特徴として知られている, 主症状である末梢冷感19例(86%), 網状チアノーゼ19例(86%), 腹部膨満17例(77%), 臍突出15例(68%), 発疹6例(27%), 掌蹠の紅斑3例(14%)を認めた。髄液検査を実施した20例では, 細胞数増多を認めず, 髄膜脳炎の症例はなかった。全例, 症状は軽快, 退院し, 経過は良好であった。

 ウイルス解析については, 血清と髄液を用いて5´末端非翻訳領域を標的としたreal-time PCR法を行い, PeV-Aが陽性の場合にはconventional RT-PCRでVP1遺伝子領域を増幅し, VP1遺伝子全領域をサンガー法でシーケンスして遺伝子型を判定した。22症例のうち解析の終了した15症例はすべてPeV-A3であった。なお, PeV-A3と類似の症状を来すエンテロウイルスに対するPCR検査も同時に行ったが, 2020年以降は新生児・早期乳児の敗血症・髄膜炎疑い例でエンテロウイルス陽性例は確認されていない2)

 これまでに診断した22例は, すべて福岡県(19例)と大分県(3例)からの報告である。全国の主に小児科定点の一部を含む感染症発生動向調査病原体検出情報(IASS)のPeV-A3検出数をみると, 2019年は計317例であるが, COVID-19流行開始後の2020年は計2例, 2021年は計17例, 2022年は7月15日時点で1例のみで, 我々の調査のように2022年での検出数増加を認めていない3)。PeV-A3感染症は夏~秋にかけて流行のピークを迎えること, IASSでは2022年7月15日時点では神奈川県から1例報告されていること4), 我々の調査では2022年は福岡県と大分県のみで検出されていることから, 2022年はPeV-A3感染症が今後さらに国内で流行する可能性がある。米国でも2022年5月からPeV-A3感染症の新生児, 早期乳児の症例発生が複数の州から報告されており, 米国疾病対策予防センター(CDC)からの注意喚起が2022年7月12日に発出され5), それを引用して同日米国小児科学会が注意喚起を出している6)

 COVID-19流行以降, 小児のウイルス感染症の疫学は大きく変化し, 2021年シーズンのRSウイルス感染症のように, 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)流行前よりもより大きな流行を起こす感染症の報告もある。新生児, 早期乳児の敗血症/敗血症様症候群において, 特に2022年の残りの期間はこの2年間ほとんどみられなかったPeV-A3感染症も鑑別にあげて診療する必要がある。

 

参考文献
  1. Aizawa Y, et el., J Infect 72(2): 223-232, 2016
  2. 相澤悠太, 小児のパレコウイルス感染症(科学研究費助成事業 若手研究「国内におけるパレコウイルスA3の前方視的疫学調査」)
    https://www.med.niigata-u.ac.jp/ped/parechovirus/
  3. 国立感染症研究所, IASR, 年別ウイルス検出状況, エンテロウイルス(2), 2018~2022年(2022年7月15日時点)
    https://kansen-levelmap.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data60j.pdf(2022年7月17日アクセス)
  4. 国立感染症研究所, IASR, 都道府県別診断名別Parechovirus 3分離・検出状況, 2022年(2022年7月15日時点)
    https://kansen-levelmap.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data85j.pdf(2022年7月17日アクセス)
  5. Centers for Disease Control and Prevention, Recent Reports of Human Parechovirus (PeV) in the United States-2022
    https://emergency.cdc.gov/han/2022/han00469.asp(2022年7月15日アクセス)
  6. Jenco M, AAP News, CDC issues advisory on parechovirus infections in infants
    https://publications.aap.org/aapnews/news/20733?autologincheck=redirected(2022年7月14日アクセス)

新潟大学大学院医歯学総合研究科小児科学分野
 相澤悠太 太刀川 潤 幾瀨 樹 羽深理恵 齋藤昭彦      
新潟大学大学院保健学研究科検査技術科学分野        
 渡邉香奈子          
福岡市立こども病院
 総合診療科          
  諸岡雄也 古野憲司     
 小児感染免疫科        
  朴 崇娟 水野由美     
大分県立病院小児科       
 川口直樹 原 卓也      
国立感染症研究所実地疫学研究センター      
 砂川富正

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