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平成28年度ポリオ環境水サーベイランス(感染症流行予測調査事業および調査研究)にて検出されたエンテロウイルスについて

(IASR Vol. 39 p67-69: 2018年4月号)

わが国で平成25(2013)年度より開始したポリオ環境水サーベイランスは4年目を迎えた。この間, 世界ポリオ根絶計画は順調に推移し, 2016年には3価生ワクチン(tOPV)から2価生ワクチン(bOPV:1型, 3型)への切り替えが世界中で一斉に行われた1)。これにより2型ポリオウイルスの封じ込め強化が求められると同時に, 根絶計画の最終段階におけるポリオウイルス監視の重要性が高まっている。

わが国では平成24(2012)年9月より不活化ポリオワクチン(IPV)導入に伴い, 翌年度より感染症流行予測調査事業, および各地方衛生研究所(地衛研)による調査研究として環境水サーベイランスを実施することとなった。

環境水サーベイランスではポリオウイルスを検出することを目的としているが, ①同時に検出される他のエンテロウイルスの動向, ②事業対象期間外(事業は通知発出後6カ月を想定)の調査, に関しては各地衛研独自の調査研究である。今般, 調査期間中に検出されたエンテロウイルスについて取りまとめを行ったので概要を報告する。

方 法

本調査では2016年1月~2017年3月の間, 月1回の頻度で流入下水を採取した。調査期間は各地衛研で異なっており, 調査結果とともにに示している。なお事業として16箇所, 調査研究として2箇所, 計18箇所の地衛研の協力を得ており, 調査対象地域の下水道利用人口は合計約600万人である。なお, 本年度より1箇所調査地点が変更されたが, 総数は同じである。平成28(2016)年度感染症流行予測調査事業実施要領2) に基づき, 流入下水を陰電荷膜法等にて濃縮(50~100倍)し, ウイルス分離・同定を行った。

結果と考察

平成28年度は1箇所の調査地点において3型ポリオウイルスが7月に検出された。実施要領に基づき国立感染症研究所にて行政検査を実施し, ワクチン株であることを確認している。その後, 同地点にて検出されていないことから, 輸入による一過性の検出と考えられた。なおポリオウイルス検出は本調査開始から, 平成26(2014)年10月に3型ポリオウイルスワクチン株が検出されて以後3), 2回目の検出である。

平成28年度の調査結果をおよびに示す。EV-A群に属するウイルスはコクサッキーウイルスA4(CA4) が3箇所, CA10, CA2が各1箇所で検出された。環境水から分離されたエンテロウイルスの大部分はEV-B群であり, 主な内訳はエコーウイルス6(E6)が18地点のうち16箇所, コクサッキーウイルスB5(CB5)が15箇所で検出され, 広範囲に流行していた可能性を示唆している。また, 平成27(2015)年度と比較すると, CB5は前年同様15箇所, E6は6箇所から16箇所, CB3は7箇所から11箇所に検出箇所が増加した。なお2カ月以上検出された血清型は地域内流行の可能性が考えられた(図では灰色で示す)。

平成28年度調査においてE13, E19, E21は, 感染症発生動向調査では報告されず, 環境水サーベイランスでのみ検出された。なおE13は2009年, E21は2013年, E19は2013年が直近の患者由来の検出報告である。興味深いことにE19は2013年以降, 毎年環境水から, 異なる調査地点で一過性に検出されている。このことはE19に限らず, エンテロウイルスは絶えず, 輸入により国内のどこにでも入り込むことを示唆する。このように国外では野生株/ワクチン由来ポリオウイルス(VDPV)によるポリオ患者は依然として報告例があること, 多くの国がbOPVを用いている現状では1), 常にポリオウイルスの輸入の可能性がある。

環境水サーベイランスは不顕性感染者の存在を検出できる高感度なウイルス監視方法であるが, 対象人口は下水道利用地域に限定され, かつ感染源の特定は困難である。他方, 感染症発生動向調査は自治体内の広域を報告対象としている。このように両者のシステムには一長一短があるが, 両方を組み合わせ, 質の高いポリオウイルスの監視を継続することが必要である。

謝辞:調査にあたり関係自治体, 保健所, 下水処理場より多大なるご協力をいただいた。厚くお礼申し上げる。本報告は, AMEDの課題番号JP17fk0108302による支援を受けた。

 

参 考
  1. Status updates on country planning for IPV introduction
  2. 平成28年度感染症流行予測調査事業実施要領  
    https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/yosoku/AnnReport/2016-99.pdf
  3. IASR 37: 27-29, 2016

 

北海道立衛生研究所 後藤明子
青森県環境保健センター 筒井理華
岩手県環境保健研究センター 高橋雅輝
福島県衛生研究所 北川和寛
千葉県衛生研究所 堀田千恵美
横浜市衛生研究所 小澤広規
富山県衛生研究所 板持雅恵
山梨県衛生環境研究所 大沼正行
長野県環境保全研究所 西澤佳奈子
岐阜県保健環境研究所 葛口 剛
愛知県衛生研究所 伊藤 雅
大阪健康安全基盤研究所 中田恵子
堺市衛生研究所 三好龍也
奈良県保健研究センター 中野 守
和歌山県環境衛生研究センター 濱島洋介
岡山県環境保健センター 磯田美穂子
福岡県保健環境研究所 吉冨秀亮
佐賀県衛生薬業センター 諸石早苗
国立感染症研究所 吉田 弘

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