国立感染症研究所

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ヒトパレコウイルス3型が原因と考えられた感染性胃腸炎集団事例, 2018年―大阪市

(IASR Vol. 39 p203-204: 2018年11月号)

ヒトパレコウイルス(HPeV)は主に小児の感染性胃腸炎や呼吸器疾患患者から検出されるウイルスである。19の型1)が確認されているが, わが国では1型(HPeV-1)と3型(HPeV-3)の検出が多い2)。HPeV-1と比較すると, HPeV-3は感染性胃腸炎患者の占める割合が低いことが観察されているが3,4), 一方で新生児や早期乳児における敗血症様疾患, 髄膜炎, 脳炎などの重症感染症との関連が多数報告されている。わが国においては, 2年あるいは3年ごとの夏季を中心にHPeV-3の流行がみられる。2018年7月, 大阪市の保育施設でHPeV-3によると考えられた感染性胃腸炎集団事例が発生したため, 本稿ではその概要を報告する。

大阪市内にある保育施設(園児92名, 職員30名程度, 合計120名程度)において, 2018年7月上旬にヒト-ヒト感染が疑われる感染性胃腸炎集団事例が発生した。検査に供した糞便5検体すべてはノロウイルスに対するリアルタイムRT-PCRにおいて陰性であった。そこで, サポウイルス・アストロウイルス・HPeVを標的としたマルチプレックスリアルタイムRT-PCR4)を実施したところ, 4検体がHPeV陽性となり, サポウイルスならびにアストロウイルスはすべて陰性であった。続けてロタウイルスAおよびC, 腸管アデノウイルス, エンテロウイルスを抗原検査あるいは遺伝子検査にて探索したところ, 1検体でコクサッキーウイルスB5型(CV-B5)陽性(HPeVとの二重陽性)となったものを除き, すべて陰性であった。検出されたHPeVは, VP1領域を標的としたRT-PCRならびにダイレクトシークエンス解析5)によりすべてHPeV-3に分類され, それらの塩基配列(703塩基)は互いに100%一致した。次に, 5検体すべてについてRD-18S細胞, Vero細胞, ならびにLLC-MK2細胞を用いたウイルス分離を試みた。先の抗原/遺伝子検査でHPeV-3単独陽性であった3検体中2検体よりHPeV-3が分離された(LLC-MK2細胞)。一方, HPeV-3およびCV-B5の二重陽性であった1検体からはCV-B5のみが分離された(Vero細胞およびLLC-MK2細胞)。抗原/遺伝子検査にて陰性だった1検体はウイルス分離検査も陰性であった。結果として, ウイルス検査に供した5検体中4検体(0歳児クラス2名, 1歳児クラス2名)がHPeV-3陽性であり, うち1検体(0歳児クラス)はCV-B5との二重陽性であった()。ウイルス検査陰性となったのは職員の検体であった。以上をもって, 当該保育施設における胃腸炎集団事例はHPeV-3感染による可能性が高いと結論付けた。

7月上旬に発生した本感染性胃腸炎集団事例は7月21日の発症者を最後に終息し, 最終的な有症者は15名(0歳児2名, 1歳児6名, 2歳児2名, 3歳児2名, 5歳児2名, 職員1名), 発症率は低年齢のクラスほど高かった()。有症者15名全員が下痢(水様4名, 軟便11名)の症状を呈し, うち2名(13%)は嘔気あるいは嘔吐を伴った。

小児の感染性胃腸炎患者からHPeV-3を検出することはそれほど珍しくはないが, それらは散発的な症例であり, 調べ得る限りHPeV-3が一施設の感染性胃腸炎集団事例の原因であったとする報告はない。HPeV-3感染が引き金となるのは発熱, 呼吸器症状, 胃腸炎, 発疹, 筋痛症/筋炎, 神経症状など多岐にわたることから, 本事例のような下痢・嘔吐のみを呈する集団感染は極めて稀であると考えられるが, 感染性胃腸炎集団事例の原因究明の際にはHPeV-3も考慮すべきウイルスであることが示された。今回検出されたHPeV-3株が特に胃腸炎と関連しているか否かを検討するにはさらなる症例の蓄積ならびに解析を要する。2018年はHPeV-3の流行年にあたると考えられ, 新生児や乳児の重症例の発生にも注意が必要である。また, ちょうど10年前にHPeV-3関連筋痛症/筋炎の流行が初めて山形県において確認されて以降6,7), この重症疾患に成人が罹患した複数の症例では, それに先んじてその子供が発熱や呼吸器症状, 胃腸炎等を呈していたことが報告されていたことも含め4,8,9), 新生児から小児のHPeV-3感染を疑う際には保護者への情報提供および注意喚起も合わせて行うべきであろう。

本事例に関して疫学調査等の情報収集にご協力いただいた関係保健福祉センター各位, LLC-MK2細胞を分与くださった新潟県保健環境科学研究所ウイルス科・ 田村 務先生ならびに五十嵐智里先生に深謝いたします。

 

参考文献
  1. http://www.picornaviridae.com/parechovirus/parechovirus_a/parechovirus_a.htm
  2. 伊藤 雅ら, モダンメディア 53: 329-336, 2007
  3. Ito M, et al., J Clin Microbiol 48: 2683-2688, 2010
  4. Yamamoto SP, et al., J Med Microbiol 64: 1415-1424, 2015
  5. Pham NT, et al., J Clin Microbiol 48: 115-119, 2010
  6. Mizuta K, et al., Emerg Infect Dis 18: 1787-1793, 2012
  7. 栗村正之ら, 神経内科 86: 307-314, 2017
  8. Mizuta K, et al., J Clin Virol 58: 188-193, 2013
  9. Tanaka S, et al., Infect Dis(Lond) 49: 772-774, 2017

 

大阪健康安全基盤研究所微生物課
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