国立感染症研究所

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国立感染症研究所

インフルエンザウイルス研究センター 第1室

全国地方衛生研究所

流行株抗原性解析

 国立感染症研究所(感染研)では、国内で流行するインフルエンザウイルスの性状を把握し、インフルエンザ対策およびワクチン株選定に役立てるため、全国地方衛生研究所(地研)で分離・同定されたウイルス株総数の約10%を無作為に抽出し、解析を行っている。

 流行株とワクチン株の抗原性を比較する目的で、フェレット感染血清を用いた赤血球凝集阻止(HI)試験または中和試験による抗原性解析を実施した。

 現行の季節性インフルエンザワクチンは、ワクチン原株として選ばれたウイルスを鶏卵で継代して製造している。そのため、継代の間に、ウイルスが鶏卵に馴化することでアミノ酸置換が起こり、抗原性が変化(抗原変異)することがある。その結果、流行株とワクチン製造株の抗原性が一致しなくなる場合があり、世界的に問題となっている。

 抗原性解析試験:結果の見方

2022/2023シーズン抗原性解析結果 (データ更新日:2023年 3月30日)

A(H1N1)pdm09 図1

20229月以降に分離された国内および近隣諸国の流行株について抗原性解析を実施したところ、解析したすべての株が、2022/23シーズンのWHOのワクチン推奨株である細胞分離A/ウィスコンシン/588/2019株と抗原性が類似している細胞分離A/神奈川/IC1920/2019株および卵分離A/ビクトリア/2570/2019株に対するフェレット感染血清とよく反応した。

 

A(H3N2)図2

20229月以降に分離された国内および近隣諸国の流行株について抗原性解析を実施したところ、解析した多くの株において、2022/23シーズンのWHOのワクチン推奨株である細胞分離A/ダーウィン/6/2021株に対するフェレット感染血清と良く反応した。一方、卵分離A/ダーウィン/9/2021株に対するフェレット感染血清との反応性は若干低下する株が認められた。これはワクチン推奨株の卵での分離・増殖による卵馴化の変異の影響と思われる。

 

B(ビクトリア系統)図3

20229月以降に分離された国内および近隣諸国の流行株について抗原性解析を実施したところ、解析したすべての流行株が、2022/23シーズンのWHOのワクチン推奨株であるB/オーストリア/1359417/2021(細胞および卵分離株)に対するフェレット感染血清とよく反応した。

 

B(山形系統)

2020年3月以降、自然界で流行している山形系統の株は検出されておらず、解析されていない。

 

遺伝子系統樹
 国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター第一室が解析した季節性インフルエンザウイルスの遺伝子配列を用いて、HA遺伝子系統樹を作成した。国内外で流行しているウイルスと比較するため、各地方衛生研究所にて分離された株の遺伝子配列だけではなく、海外で分離された株の遺伝子配列も解析に加えている。なお、海外の研究機関で解析された遺伝子配列はインフルエンザウイルス遺伝子データベースGISAID(Global Initiative on Sharing All Influenza Data:http://platform.gisaid.org/epi3/frontend)から入手している。 
2022/2023シーズン系統樹(データ更新日:2023年6月29日)NEW

A(H1N1)pdm09図1

近年の流行株はHA遺伝子系統樹内の6B.1A.5a (アミノ酸置換N129D, T185I)に属し、6B.1A.5aは更に6B.1A.5a.1 (D187A, Q189E)と6B.1A.5a.2 (K130N, N156K, L161I, V250A, E506D)(代表株A/Victoria/1/2020, A/Victoria/2570/2019)に分岐している。また6B.1A.5a.2内では、6B.1A.5a.2a(省略名: 5a.2a)(K54Q, A186T, Q189E, R259K, K308R)が、そして更に6B.1A.5a.2a.1(省略名: 5a.2a.1)(P137S, K142R, E224A, D260E, T277A, E356D, I418V, N451H)(代表株A/Wisconsin/67/2022, A/Victoria/4897/2022)のサブクレードが派生し、これらが流行の中心となっている。解析した株のほとんどは5a.2aに属したが、共通アミノ酸置換として 1. D94N (代表株A/Sydney/5/2021)、2. A48P、3. I418Vを持つグループに分かれており、HA遺伝子の多様化が示された。なお解析された国内株のうち、5a.2a.1に属するウイルスは1株のみ確認されている。NAタンパク質にH275Y置換を有するオセルタミビル耐性株の流行は確認されていない

 

A(H3N2)図2

最近の流行株は、HA遺伝子系統樹上のクレード3C.2a1b.2a(K83E, Y94N, T131K, I522M, V529I)内に属している。3C.2a1b.2a 内には3C.2a1b.2a.1(F193S, Y195F, G186S, S198P)および3C.2a1b.2a.2(F193S, Y195F, Y159N, T160I, L164Q, G186D, D190N)が派生している。流行の中心である3C.2a1b.2a.2内では更に、3C.2a1b.2a.2a (H156S)(省略名: 2a、代表株A/Darwin/9/2021)、3C.2a1b.2a.2b (E50K, F79V, I140K) (省略名: 2b)、3C.2a1b.2a.2c (S205F, A212T) (省略名: 2c)、3C.2a1b.2a.2d (G62R, H156Q, S199) (省略名: 2d)(系統樹での表示なし)が分岐している。また2a 内には2a.1 (D53G, D104G, K276R), 2a.1a (2a.1 + L157I, S262N), 2a.1b (2a.1 + I140K, R299K), 2a.2 (2a + I25V, D53G, R201K, S219Y), 2a.3 (2a + D53N, N96S, I192F, N378S) , 2a.3a (2a.3 + E50K), 2a.3a.1 (2a.3a + I140K, I223V), 2a.3b (2a.3 + I140M)が出現しており遺伝子的に多様化が進んでいる。国内流行株では、2022年7〜8月は2a内でD53N, P289S, R307Kを持つウイルスが主流であったが、2022年9月以降は2a.3a (37.5%)、2b (32.1%)、2a.3a.1 (13.1%)に属するウイルスが主流となっている。

 

B (ビクトリア系統)図3

HA遺伝子系統樹上のクレードV1A.3[K136E+3アミノ酸欠損(162〜164番目のアミノ酸)、代表株: B/Washington/02/2019, B/Victoria/705/2018]内にV1A.3a (G184E、N197D、R279K)が派生し、さらにV1A.3a.1 (V220M、 P241Q)およびV1A.3a.2 (A127T、P144L、K203R、代表株:B/Austria/1359417/2021)が分岐している。解析株は全てV1A.3a.2に属し、D197EまたはA202Vを有するグループに属した。

 

B (山形系統)

2020年3月以降、自然界で流行している山形系統の株は検出されておらず、解析されていない。

 

 

 

 

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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