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国立感染症研究所

インフルエンザウイルス研究センター 第1室

全国地方衛生研究所

流行株抗原性解析

 国立感染症研究所(感染研)では、国内で流行するインフルエンザウイルスの性状を把握し、インフルエンザ対策およびワクチン株選定に役立てるため、全国地方衛生研究所(地研)で分離・同定されたウイルス株総数の約10%を無作為に抽出し、解析を行っている。

 流行株とワクチン株の抗原性を比較する目的で、フェレット感染血清を用いた赤血球凝集阻止(HI)試験または中和試験による抗原性解析を実施した。

 現行の季節性インフルエンザワクチンは、ワクチン原株として選ばれたウイルスを鶏卵で継代して製造している。そのため、継代の間に、ウイルスが鶏卵に馴化することでアミノ酸置換が起こり、抗原性が変化(抗原変異)することがある。その結果、流行株とワクチン製造株の抗原性が一致しなくなる場合があり、世界的に問題となっている。

 抗原性解析試験:結果の見方

2019/2020シーズン抗原性解析結果 (データ更新日:2020年2月20日)

A(H1N1)pdm09

2019年9月以降に分離された国内および近隣諸国の流行株について抗原性  解析を実施したところ、解析した全ての株が、WHOのワクチン推奨株であるA/ブリスベン/02/2018(細胞分離株および国内のワクチン製造株)に対するフェレット感染血清とよく反応した(図1)。

 

A(H3N2)

2019年9月以降に分離された国内および近隣諸国の流行株について抗原性解析を    実施したところ、解析したほぼ全ての株において、WHOのワクチン推奨株であるA/カンザス/ 14/2017 (細胞分離株および鶏卵分離株)に対するフェレット感染血清と反応性の低下が認められた。これはA/カンザス/14/2017は遺伝子サブクレード3C.3aに属しているが、今シーズンの流行株はサブクレード3C.2a1b内の3C.2a1b+135K 群または3C.2a1b+131K群に属したことに起因している。したがって、ワクチン抗原と流行株の抗原性相違が推定される(図2)。

 

B(ビクトリア系統)

2019年9月以降に分離された国内および近隣諸国の流行株について抗原性解析を実施したところ、解析した流行株の約8割が、WHOのワクチン推奨株であるB/コロラド/06/2017の細胞分離株に対するフェレット感染血清とよく反応した(図3)。一方で、国内ワクチン製造株であるB/メリーランド/15/2016 (BX-69A)に対するフェレット感染血清では、8割以上の株において   反応性の低下が認められた(図3)。これは、B/メリーランド/15/ 2016 (BX-69A)株の卵での  増殖過程における変異の獲得の影響だと思われる。

 

B(山形系統)

2019年9月以降、B型山形系統のウイルスの流行が非常に小さかったため、  解析なし。

 

遺伝子系統樹
 国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター第一室が解析した季節性インフルエンザウイルスの遺伝子配列を用いて、HA遺伝子系統樹を作成した。国内外で流行しているウイルスと比較するため、各地方衛生研究所にて分離された株の遺伝子配列だけではなく、海外で分離された株の遺伝子配列も解析に加えている。なお、海外の研究機関で解析された遺伝子配列はインフルエンザウイルス遺伝子データベースGISAID(Global Initiative on Sharing All Influenza Data:http://platform.gisaid.org/epi3/frontend)から入手している。 
2019/2020シーズン系統樹(データ更新日:2020年6月25日)NEW

A(H1N1)pdm09

HA遺伝子系統樹ではクレード6B.1(共通アミノ酸置換:S84N, S162N, I216T)内に6B.1AS74R, I164T, I295V)が派生し、さらにS183Pを含む7つの群[183P-1N451T/R45G, P282A, I298V, (代表株: A/Brisbane/02/2018)183P-2L233I183P-3: T120A183P-4N129D+A141E183P-5N260D183P-6T120A183P-7K302T+I404M]が形成されている。また183P-5内には183P-5AN129D, T185I, N260D)、183P-5B(K130N, K160M, T216K, E235D, H296N, V520A)が集団を形成している。解析した2019/20シーズン株のほとんど(99%)183P-5A内のD187A, Q189E集団(代表株: A/Guangdong-Maonan/SWL1536/2019)に属した。また183P-5A内で一部(3%)の株は抗原性の変異に関わるN156Kを持つ集団(N156K, K130N, L161I, V250A, E506D)に属した。NAタンパク質にH275Y置換を有するオセルタミビル耐性株は散発的に検出されているが、耐性株の流行は確認されていない図1)。

 

A(H3N2)

最近の流行株は、HA遺伝子系統樹上のクレード3C.2aL3I+N144S+F159Y+K160T+Q311H+D489N)あるいは3C.3aに属している。国内株は全て、3C.2a内のサブクレード3C.2a1N171K+I406V+G484E)に派生した3C.2a1b内の3C.2a1b+135K(3C.2a1b+E62G+T135K+R142G, 71%)または3C.2a1b+131K (E62G+T131K+V529I, 29%)に属した。さらに派生が進み、3C.2a1b+131K群には3C.2a1b+131K+197R (V347M+S219F+Q197R+E484G, 14%)および3C.2a1b+131K+83E (K83E+Y94N+I522M, 10%)が、3C.2a1b+135K群には 3C.2a1b+135K+137F (T128A+S137F+A138F+F193S, 56%、代表株: A/Hong Kong/2671/2019)および3C.2a1b+135K+198P (T128A+A138F+F193S+G186D+D190N+S198P, 15%)が形成された。なお、欧米では3C.2aとは抗原性が異なる3C.3a(代表株: A/Kansas/14/2017)に属するウイルスが検出されているが、国内では検出されていない図2)。

 

B (ビクトリア系統)

海外を含めて今シーズンの流行株はHA遺伝子系統樹上のクレード1A(共通アミノ酸置換N75L, N165K, S172P、代表株:B/Brisbane/60/2008B/Texas/02/2013)内の、N129D+I117V+V146Iを有する集団に属していた。クレード1A内には、サブクレード1A.1[共通アミノ酸置換I180V+R498K+2アミノ酸欠損(162, 163番目のアミノ酸)、代表株:B/Maryland/15/2016, B/Colorado/06/2017]、サブクレード1A.2[共通アミノ酸置換I180T+K209N+3アミノ酸欠損(162164番目のアミノ酸)]および、サブクレード1A.3 [K136E+3アミノ酸欠損(162164番目のアミノ酸)、代表株: B/Washington/02/2019, B/Victoria/705/2018] が検出されている。解析した国内株は全て、1A.3に属した図3)。

 

B (山形系統)

今シーズンはほとんど検出されなかった。世界的にも流行規模は小さいが、検出株のほとんどはHA遺伝子系統樹上のクレード3(共通アミノ酸置換S150I, N165Y, N202S, S229D)内でB/Phuket/3073/2013株を代表とする群(共通アミノ酸置換N116K, K298E, E312K)内のL172Q+M251V群に属した図4)。

 

 

 

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan