国立感染症研究所

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インフルエンザ抗体保有状況 -2023年度速報第2報- (2024年1月23日現在)
 

はじめに
 感染症流行予測調査事業における「インフルエンザ感受性調査」は、毎年、当該シーズンのワクチン接種開始前、流行前の抗体保有状況(免疫状況)を把握し、抗体保有率が低い年齢層に対する注意喚起等を目的として実施している。
  わが国におけるインフルエンザワクチンは、2015/16シーズンからA(H1N1)亜型、A(H3N2)亜型、B型(ビクトリア系統と山形系統)の4つのインフルエンザウイルスをワクチン株とした4価ワクチンが用いられている。本稿では今シーズン(2023/24シーズン)のワクチン株に用いられた4つのインフルエンザウイルスに関する抗体保有状況のまとめと検討を行った。
 

1. 調査対象および方法
 2023年度の調査は、16都道府県から各198名、合計3,168名を対象として実施されており、2024年1月23日までに入手できた15道県の速報データについて報告する。インフルエンザウイルスに対する抗体価の測定は、健常者から採取された血液(血清)を用いて、調査を担当した都道府県衛生研究所において赤血球凝集抑制試験(HI法)により行われた。HI法に用いたインフルエンザウイルス(調査株)は以下の4つであり、各ウイルスの卵増殖株を由来としたHA抗原を測定抗原とした。また、採血時期は原則として2023年7~9月(インフルエンザの流行シーズン前かつ当該シーズンのワクチン接種前)とした。

a)A/Victoria(ビクトリア) /4897/2022 [A(H1N1)亜型]
b)A/Darwin (ダーウィン) /9/2021 [A(H3N2)亜型]
c)B/Phuket(プーケット)/3073/2013 [B型(山形系統)]
d)B/Austria(オーストリア)/1359417/2021 [B型(ビクトリア系統)]

 なお、本速報では抗体保有率として、感染リスクを50%に抑える目安と考えられているHI抗体価1:40以上について示している。
 

2. 調査結果
 2024年1月23日現在、北海道、茨城県、栃木県、群馬県、神奈川県、新潟県、福井県、山梨県、長野県、静岡県、愛知県、三重県、愛媛県、高知県、沖縄県の15道県から合計3,592名の結果が報告された。5歳ごとの年齢群別対象者数は、0-4歳群:318名、5-9歳群:240名、10-14歳群:245名、15-19歳群:303名、20-24歳群:270名、25-29歳群:342名、30-34歳群:369名、35-39歳群:274名、40-44歳群:206名、45-49歳群:216名、50-54歳群:237名、55-59歳群:223名、60-64歳群:187名、65-69歳群:94名、70歳以上群:68名であった。
 

【年齢群別抗体保有状況】
A/Victoria(ビクトリア) /4897/2022 [A(H1N1)pdm09亜型]:
図1上段
 今シーズンのA(H1N1)亜型のワクチン株は2022/23シーズンのA/ビクトリア/1/2020から変更された。本調査株に対する1:40 以上のHI抗体保有率は、全年齢群で2022/23シーズン前の結果と比べ非常に低く、全ての年齢群で15%以下となり、特に30歳以上の各年齢群で、65-69歳群を除き10%を下回っていた。

A/Darwin (ダーウィン) /9/2021 [A(H3N2)亜型]:図1下段
  今シーズンのA(H3N2)亜型のワクチン株は昨シーズンから変更されておらず、2年連続同じ株となっている。1:40以上のHI抗体保有率は5-9歳群から65-69歳群では20%~35%あった。0-4歳群の抗体保有率は10%と2022/23シーズン前の結果とほぼ変わらず低かった。

B/Phuket(プーケット)/3073/2013 [B型(山形系統)]:図2上段
  B型(山形系統)のワクチン株は2015/16シーズンから変更されていない。1:40以上のHI抗体保有率は30-34歳群の72%をピークになだらかな一峰性を示し、10-14歳群以降の年齢群で30%以上であったが、0-4歳群と5-9歳群では30%を下回っていた。

B/Austria(オーストリア) /1359417/2021[B型(ビクトリア系統)]:図2下段
 B型(ビクトリア系統)のワクチン株は2022/23シーズンから変更されていない。1:40以上のHI抗体保有率は、40-44歳群以降の年齢群では20%から45%となったが、0-4歳群から35-39歳群の年齢群では20%を下回り10%未満となった年齢群も見られた。
 


図1


図2

コメント
 今シーズンはA(H1N1)pdm09亜型のワクチン株が変更となり、A(H3N2)亜型、B型山形系統、B型ビクトリア系統では変更がなかった。本調査では、これら4つのワクチン株抗原に対するHI抗体保有状況を調査している。抗体保有率の低かった2022/23シーズン前よりA(H1N1)pdm09亜型のワクチン株に対する抗体保有率が低く、際立っていた。A(H3N2)亜型とB(ビクトリア系統と山形系統)は2022/23シーズン前と同様の傾向が見られた。
   2023/24シーズン(2023年36週以降)におけるインフルエンザウイルス分離・検出報告は、今シーズンに入る前からインフルエンザの分離・検出がされており、今シーズンに入った36週以降も報告が続いている。分離・検出の報告はA(H3)が多く、次いでA(H1)pdm09が多く報告されている。(週別インフルエンザウイルス分離・検出報告数、2019/20~2023/24シーズン(2024年1月23日アクセス時点):https://kansen-levelmap.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data2j.pdf )
 また、感染症発生動向調査(https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr.html)において、2024年第1週の定点当たりのインフルエンザ報告数は12.66(患者報告数61,918)、2023年第52週の定点当たりのインフルエンザ報告数は21.65(患者報告数104,612)となり、2023年49週の定点当たりの報告数33.73(患者報告数166,776)以降は減少に転じている。今後の推移については不確定であるが、例年の傾向として今後も感染の流行が継続する可能性示唆される。抗体保有率の低い年齢層においては注意が必要である。特に0-4歳群での抗体保有率の低値が懸念される。
  今回の結果は2023年度速報第2報で2024年1月23日時点の暫定値であることに注意が必要である。


国立感染症研究所 感染症疫学センター/インフルエンザ・呼吸器系ウイルス研究センター

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