国立感染症研究所

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インフルエンザ抗体保有状況 -2021年度速報第1報- (2021年11月19日現在)
 

はじめに
 感染症流行予測調査事業における「インフルエンザ感受性調査」は、毎年、当該シーズンのワクチン接種前・流行前の抗体保有状況(免疫状況)を把握し、抗体保有率が低い年齢層に対する注意喚起等を目的として実施している。
 わが国におけるインフルエンザワクチンは、従来、A(H1N1)亜型、A(H3N2)亜型、B型(ビクトリア系統あるいは山形系統)の3つのインフルエンザウイルスをワクチン株とした3価ワクチンが用いられてきた。しかし、近年はB型の二系統が同シーズンに流行する傾向が世界的にみられており、わが国においては2015/16シーズンからB型の二系統を含む4価ワクチンの使用が開始された。本感受性調査では今シーズン(2021/22シーズン)のワクチン株に用いられた4つのインフルエンザウイルスについて抗体保有状況の検討を行った。
 

1. 調査対象および方法
 2021年度の調査は、16都道府県から各198名、合計3,168名を対象として実施されている。インフルエンザウイルスに対する抗体価の測定は、健常者から採取された血液(血清)を用いて、調査を担当した都道府県衛生研究所において赤血球凝集抑制試験(HI法)により行われた。HI法に用いたインフルエンザウイルス(調査株)は以下の4つであり、各ウイルスの卵増殖株を由来としたHA抗原を測定抗原とした。また、採血時期は原則として2021年7~9月(インフルエンザの流行シーズン前かつ当該シーズンのワクチン接種前)とした。

a)A/Victoria(ビクトリア) /1/2020 [A(H1N1)亜型]
b)A/Tasmania (タスマニア) /503/2020 [A(H3N2)亜型]
c)B/Phuket(プーケット)/3073/2013 [B型(山形系統)]
d)B/Victoria(ビクトリア)/705/2018 [B型(ビクトリア系統)]

 なお、本速報では抗体保有率として、感染リスクを50%に抑える目安と考えられているHI抗体価1:40以上について示した。
 

2. 調査結果
 2021年11月19日現在、北海道、神奈川県、新潟県、長野県、三重県、愛媛県の6道県から合計1,383名の結果が報告された。5歳ごとの年齢群別対象者数は、0-4歳群:133名、5-9歳群:82名、10-14歳群:92名、15-19歳群:97名、20-24歳群:101名、25-29歳群:138名、30-34歳群:120名、35-39歳群:105名、40-44歳群:91名、45-49歳群:114名、50-54歳群:104名、55-59歳群:75名、60-64歳群:78名、65-69歳群:32名、70歳以上群:21名であった。
 

【年齢群別抗体保有状況】
A/Victoria(ビクトリア) /1/2020 [A(H1N1)pdm09亜型]:
図1上段
 本調査株に対する1:40 以上のHI抗体保有率は、10-14歳と65-69歳にピークのある二峰性を示し、10-29歳および65-69歳群の各年齢群は30%以上の抗体保有率であったが、0-4歳群、30-59歳、70歳以上群で20%未満の低い抗体保有率であった。

A/Tasmania (タスマニア) /503/2020 [A(H3N2)亜型]:図1下段
  本調査株に対する1:40以上のHI抗体保有率は5-34歳の各年齢群で35%以上の抗体保有率を示し、その他の年齢群と比較して高かった。0-4歳群、35₋54歳群の各年齢群、および60歳以上群においては30%未満の抗体保有率を示した。

B/Phuket(プーケット)/3073/2013 [B型(山形系統)]:図2上段
本調査株に対する1:40以上のHI抗体保有率は10-64歳の各年齢群で35%以上の抗体保有率を示し、その他の年齢群と比較して高かった。また、5-9歳群および65歳以上の各年齢群は30%未満の抗体保有率であった。

B/Victoria(ビクトリア)/705/2018 [B型(ビクトリア系統)]:図2下段
 本調査株に対する1:40以上のHI抗体保有率は40~54歳の各年齢群で30%以上の陽性率であった。その他の年齢群はすべて25%未満であった。
 


図1


図2

コメント
 今シーズンはA(H1N1)亜型、A(H3N2)亜型のA型のワクチン株が変更となった。B型はビクトリア系統及び山形系統のいずれも昨シーズンと同じワクチン株が用いられている。本調査では、これら4つの抗原に対するHI抗体保有状況が調査している。今シーズンの最初の報告であるため、解析に用いた自治体が6道県と少ない。今後、報告自治体が増加することで全国的な傾向が明らかになってくることが期待される。
  病原微生物検出情報におけるインフルエンザウイルス分離・検出状況によると、今シーズン(2021/22シーズン)の報告はまだ無い。また、感染症発生動向調査において、第36週(9月6日~9月12日)~第43週(10月25日~10月31日)のインフルエンザ定点あたり報告数は報告なし~0.00(総報告数20例/week)と低い水準である(新型コロナウイルス流行前の2019/20シーズンの第36週~第43週の定点あたり報告数は0.72~1.17)。ただし、今後の推移については不明であるため、抗体保有率が低かった年齢層においては注意が必要である。


国立感染症研究所 感染症疫学センター/インフルエンザ・呼吸器系ウイルス研究センター

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