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インフルエンザ抗体保有状況 -2020年度速報第2報- (2021年1月5日現在)
 

はじめに
 感染症流行予測調査事業における「インフルエンザ感受性調査」は、毎年、当該シーズンのワクチン接種前・流行前の抗体保有状況(免疫状況)を把握し、抗体保有率が低い年齢層に対する注意喚起等を目的として実施している。
 わが国におけるインフルエンザワクチンは、従来、A(H1N1)亜型、A(H3N2)亜型、B型(ビクトリア系統あるいは山形系統)の3つのインフルエンザウイルスをワクチン株とした3価ワクチンが用いられてきた。しかし、近年はB型の二系統が同シーズンに流行する傾向が世界的にみられており、わが国においては2015/16シーズンからB型の二系統を含む4価ワクチンの使用が開始された。本感受性調査では今シーズン(2020/21シーズン)のワクチン株に用いられた4つのインフルエンザウイルスについて抗体保有状況の検討を行った。
 

1. 調査対象および方法
 2020年度の調査は、21都道府県から各198名、合計4,158名を対象として実施された。インフルエンザウイルスに対する抗体価の測定は、健常者から採取された血液(血清)を用いて、調査を担当した都道府県衛生研究所において赤血球凝集抑制試験(HI法)により行われた。HI法に用いたインフルエンザウイルス(調査株)は以下の4つであり、各ウイルスの卵増殖株を由来としたHA抗原を測定抗原とした。また、採血時期は原則として2020年7~9月(例年のインフルエンザの流行シーズン前かつワクチン接種前)とした。

a)A/Guangdong-Maonan(広東-茂南)/SWL1536/2019 [A(H1N1)pdm09亜型]
b)A/Hong Kong(香港)/2671/2019 [A(H3N2)亜型]
c)B/Phuket(プーケット)/3073/2013 [B型(山形系統)]
d)B/Victoria(ビクトリア)/705/2018 [B型(ビクトリア系統)]

 なお、本速報では抗体保有率として、感染リスクを50%に抑える目安と考えられているHI抗体価1:40以上について示した。
 

2. 調査結果
 2021年1月5日現在、山形県、福島県、栃木県、群馬県、新潟県、富山県、山梨県、長野県、三重県、愛媛県、高知県の11県から合計2,659名の結果が報告された。5歳ごとの年齢群別対象者数は、0-4歳群:179名、5-9歳群:111名、10-14歳群:133名、15-19歳群:180名、20-24歳群:204名、25-29歳群:319名、30-34歳群:328名、35-39歳群:223名、40-44歳群:163名、45-49歳群:254名、50-54歳群:214名、55-59歳群:156名、60-64歳群:125名、65-69歳群:32名、70歳以上群:38名であった。
 

【年齢群別抗体保有状況】
A/Guangdong-Maonan/SWL1536/2019 [A(H1N1)pdm09亜型]:
図1上段
 本調査株に対する抗体保有率は全ての年齢群で50%以下であった。5~24歳の各年齢群、および30-34歳群は概ね40%前後の抗体保有率であったが、40~64歳の各年齢群ならびに70歳以上群では概ね10~20%、さらに0-4歳群は10%以下の低い抗体保有率であった。 なお、25-29歳群、35-39歳群、65-69歳群は概ね30%であった。

A/Hong Kong/2671/2019 [A(H3N2)亜型]:図1下段
 本調査株に対する抗体保有率は15~34歳の各年齢群で概ね70~85%の抗体保有率を示し、その他の年齢群と比較して高かった。5~14歳の各年齢群、および35~70歳以上の各年齢群においても概ね40~60%の抗体保有率を示した。一方、0-4歳群は20%以下の低い抗体保有率であった。

B/Phuket/3073/2013 [B型(山形系統)]:図2上段
 本調査株に対する抗体保有率は15~39歳の各年齢群で概ね60~70%の抗体保有率を示し、その他の年齢群と比較して高かった。また、5~14歳の各年齢群、40~59歳の各年齢群、ならびに70歳以上群は40~50%前後の抗体保有率であった。60~69歳の各年齢群は30%以下、0-4歳群については、10%以下の低い抗体保有率であった。

B/Victoria/705/2018 [B型(ビクトリア系統)]:図2下段
 本調査株に対する抗体保有率は全ての年齢群で50%以下であった。40~59歳の各年齢群ならびに70歳以上群で概ね20~40%の抗体保有率であったが、それ以外の年齢群は20%以下で、とくに0~9歳群は5%以下の低い抗体保有率であった。
 


図1


図2

コメント
 今シーズンはA(H1N1)亜型、A(H3N2)亜型、B型(ビクトリア系統)のワクチン株が変更となった。B型(山形系統)は昨シーズンと同じワクチン株が用いられている。本調査では、これら4つの抗原に対するHI抗体保有状況が調査された。
  0-4歳群においては、全ての調査株において、抗体保有率が20%未満、もしくは10%未満の低い抗体保有率であった。また、各調査株に対する抗体保有率に関して、A/Guangdong-Maonan/SWL1536/2019 [A(H1N1)pdm09亜型]は40歳以上の多くの年齢群で、B/Victoria/705/2018 [B型(ビクトリア系統)]については、40歳未満の年齢群において20%以下の低い抗体保有率であった。
  病原微生物検出情報におけるインフルエンザウイルス分離・検出状況によると、今シーズン(2020/21シーズン)はこれまでにAH1pdm09亜型2件の検出報告があり、現時点では、AH3亜型、B型(山形系統ならびにビクトリア系)の検出報告は見られていない(2021年1月5日現在報告数)。また、感染症発生動向調査において、第36週(9月6日~9月12日)~第51週(12月14日~12月20日)のインフルエンザ定点あたり報告数は0.00~0.01と低い水準である(2020年12月23日現在,前シーズン(2019/20シーズン)の第36週~第51週の定点あたり報告数は0.72~21.23)。ただし、今後の推移については不明であるため、抗体保有率が低かった年齢層においては注意が必要である。


国立感染症研究所 感染症疫学センター/インフルエンザウイルス研究センター
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