国立感染症研究所

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インフルエンザ抗体保有状況 -2024年度速報第2報- (2025年1月6日現在)
 

はじめに

 感染症流行予測調査事業における「インフルエンザ感受性調査」は、毎年、当該シーズンのワクチン接種前・流行前の抗体保有状況(免疫状況)を把握し、抗体保有率が低い年齢層に対する注意喚起等を目的として実施している。

 わが国におけるインフルエンザワクチンは、2015/16シーズンからB型の二系統を含む4価ワクチンの使用が開始されている。本感受性調査では今シーズン(2024/25シーズン)のワクチン株に用いられた4つのインフルエンザウイルスについて抗体保有状況の検討を行った。 

1. 調査対象および方法
 2024年度の調査は、15都道県から各198名、合計2,970名を対象として実施されている。インフルエンザウイルスに対する抗体価の測定は、健常者から採取された血液(血清)を用いて、調査を担当した都道府県衛生研究所において赤血球凝集抑制試験(HI法)により行われた。HI法に用いたインフルエンザウイルス(調査株)は以下の4つであり、各ウイルスの卵増殖株を由来としたHA抗原を測定抗原とした。また、採血時期は原則として2024年7~9月(インフルエンザの流行シーズン前かつ当該シーズンのワクチン接種前)とした。

a)A/Victoria(ビクトリア) /4897/2022 [A(H1N1)亜型]
d)A/California(カリフォルニア) /122/2022 [A(H3N2)亜型]
d)B/Phuket(プーケット)/3073/2013 [B型(山形系統)]
d)B/Austria(オーストリア)/1359417/2021 [B型(ビクトリア系統)]

 なお、本速報では抗体保有率として、感染リスクを50%に抑える目安と考えられているHI抗体価1:40以上について示した。
 

2. 調査結果
 2025年1月6日現在、北海道、茨城県、栃木県、群馬県、神奈川県、新潟県、福井県、山梨県、長野県、静岡県、愛知県、三重県、愛媛県、高知県の14道県から合計3,401名の結果が報告された。5歳ごとの年齢群別対象者数は、0-4歳群:279名、5-9歳群:182名、10-14歳群:292名、15-19歳群:286名、20-24歳群:236名、25-29歳群:328名、30-34歳群:361名、35-39歳群:288名、40-44歳群:194名、45-49歳群:203名、50-54歳群:232名、55-59歳群:183名、60-64歳群:170名、65-69歳群:94名、70歳以上群:73名であった。 

【年齢群別抗体保有状況】
A/Victoria(ビクトリア) /4897/2022 [A(H1N1)pdm09亜型]:
図1上段
 今シーズンのA(H1N1)亜型のワクチン株は、昨シーズンから変更されておらず、2年連続で同じ株となった。本調査株に対する1:40 以上のHI抗体保有率は、5-9歳群から25-29歳群の若年層と65-69歳群において20%以上(20-26%)となったが、その他の年齢群は10%前後(8-12%)にとどまった。昨シーズン前に比べ、抗体保有率は0-4歳群を除いた年齢群で増加し、10-14歳群から25-29歳群で10ポイント以上の増加が見られたが、全体的に30%未満と低い傾向であった。

A/California(カリフォルニア) /122/2022[A(H3N2)亜型]図1下段
  今シーズンのA(H3N2)亜型のワクチン株は昨シーズンから変更された。1:40以上のHI抗体保有率は、10-14歳群(60%)をピークに20%以上(23-60%)であった。5-9歳から10-14歳群の抗体保有率は約60%と他の年齢群と比較し高い傾向が認められ、一方、0-4歳群および20歳以上の成人では40%未満と低い傾向であった。

B/Phuket(プーケット)/3073/2013 [B型(山形系統)]:図2上段
  B型(山形系統)のワクチン株は2015/16シーズンから変更されていない。1:40以上のHI抗体保有率は、0-4歳群で6%と最も低い割合を示した。35-39歳群(77%)と55-59歳群(44%)をピークに二峰性を示し、これまでの結果と同様の傾向を示した。

B/Austria(オーストリア) /1359417/2021[B型(ビクトリア系統)]:図2下段
 B型(ビクトリア系統)のワクチン株は2022/23シーズンから変更されていない。1:40以上のHI抗体保有率は、全年齢群で40%未満であった。55-59歳群から65-69歳群で他の年齢群と比較し高い傾向(32-37%)が示され、50-54歳群以下で30%未満の低い保有率であった。全体的に昨シーズン前と同様の傾向であった。


図1


図2

コメント
 今シーズンはA(H3N2)亜型のワクチン株が変更となり、A(H1N1)pdm09亜型、B型山形系統およびB型ビクトリア系統では変更がなかった。本調査では、インフルエンザ流行前のこれら4つのワクチン株抗原に対するHI抗体保有状況を調査している。0-4歳群では、A(H1N1)pdm09亜型、B型山形系統およびB型ビクトリア系統で10%前後の低い抗体保有率であった。A(H1N1)pdm09亜型では、65-69歳群を除く30歳以上で10%前後の低い抗体保有率であった。A(H3N2)亜型では60歳から69歳の群を除き50歳以降で、また、B型ビクトリア系統では0歳から54歳で20%前後の低い抗体保有率であった。

 病原微生物検出情報によると、2024/25シーズン(2024年36週以降)における2024年12月27日時点での週別インフルエンザウイルス分離・検出報告数は、シーズン開始の36週からA(H1)pdm09とA(H3)が分離・検出され、52週までにA(H1)pdm09が644件、A(H3)が53件、B(ビクトリア系統)が13件、B(系統不明)が1件分離・検出された。https://kansen-levelmap.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data2j.pdf (2025年1月6日確認)
 また、2024年第51週の感染症発生動向調査のインフルエンザ流行レベルマップによると、2024年第51週の定点当たりのインフルエンザ報告数は42.66(患者報告数211,0499)となり、前週の定点当たり報告数19.06よりも増加した。全国の保健所管轄区域のうち362か所が警報レベルを超えており、44都道府県に分布していた。(https://kansen-levelmap.mhlw.go.jp/Hasseidoko/Levelmap/flu/new_jmap.html :2024年第51週) 今後の推移については不確定であるが、例年の傾向として今後さらに患者数が増加する可能性が示唆される。抗体保有率の低い年齢層においては注意が必要である。特に0-4歳群での抗体保有率の低値が懸念される。


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