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インフルエンザ抗体保有状況 -2011年速報第1報- (2011年11月17日現在)

はじめに
 感染症流行予測調査事業における「インフルエンザ感受性調査」は,毎年,インフルエンザの本格的な流行が始まる前に,インフルエンザに対する国民の抗体保有状況(免疫状況)を把握し,感受性者に対するワクチン接種の注意喚起などを行うことを目的として実施している。
 インフルエンザワクチンの製造に用いられるウイルスは,前シーズンの流行状況,南半球の流行状況,分離されたウイルスの抗原性や遺伝子解析の成績,国民の抗体保有状況調査の成績などに加え,ワクチン候補株の発育鶏卵での増殖効率・抗原的安定性・免疫原性・エーテル処理効果など製造株としての適格性に基づき,国立感染症研究所において数回にわたる検討会議を経て選定されている。1998/99~2011/12シーズンまでは,毎シーズンA(H1N1)亜型,A(H3N2)亜型,B型(ビクトリア系統あるいは山形系統)の3つのインフルエンザウイルスがワクチン株として用いられているが,インフルエンザ感受性調査では,これら3つのワクチン株に加え,ワクチンに用いられなかった別系統のB型インフルエンザウイルスについて抗体保有状況の検討を行っている。
 本速報では,2011年度の調査によるインフルエンザに対する年齢群別抗体保有状況および前年度調査との比較(第2報以降)について掲載する。

1. 調査対象および方法
 2011年度の調査は,25都道府県から各198名,合計4,950名を対象として実施された。
 インフルエンザウイルスに対する抗体の有無および抗体価の測定は,対象者から採取された血液(血清)を用いて,調査を担当した都道府県衛生研究所において赤血球凝集抑制試験(HI法)により実施された。採血時期は原則として2011年7~9月(例年のインフルエンザの流行シーズン前かつワクチン接種前)とした。また,HI法に用いたインフルエンザウイルス(抗原)は以下の4つであり,このうちa)~c)は2011/12シーズンのインフルエンザワクチンに用いられているウイルス,d)はワクチン株とは異なる系統のB型インフルエンザウイルスであるが,抗体保有状況の把握が必要と考えられるウイルスである。
a) A/California(カリフォルニア)/7/2009 [A(H1N1)pdm09亜型]
b) A/Victoria(ビクトリア)/210/2009 [A(H3N2)亜型]
c) B/Brisbane(ブリスベン)/60/2008 [B型(ビクトリア系統)]
d) B/Wisconsin(ウィスコンシン)/1/2010 [B型(山形系統)]

2. 調査結果
 2011年11月17日現在,北海道,栃木県,東京都,新潟県,富山県,石川県,福井県,長野県,静岡県,三重県,京都府,山口県,佐賀県,宮崎県の14都道府県から合計3,679名の対象者についての結果が報告された。5歳ごとの年齢群別対象者数は,0-4歳群:547名,5-9歳群:322名,10-14歳群:305名,15-19歳群:304名,20-24歳群:252名,25-29歳群:330名,30-34歳群:297名,35-39歳群:293名,40-44歳群:236名,45-49歳群:195名,50-54歳群:177名,55-59歳群:145名,60-64歳群:167名,65-69歳群:55名,70歳以上群:54名であった(※調査を行った抗原の種類により対象者数は若干異なる)。
 なお,本速報における抗体保有率とは,感染リスクを50%に抑える目安と考えられているHI抗体価1:40以上の抗体保有率を示し,抗体保有率が60%以上を「高い」,40%以上60%未満を「比較的高い」,25%以上40%未満を「中程度」,10%以上25%未満を「比較的低い」,5%以上10%未満を「低い」,5%未満を「きわめて低い」と表す。

1)年齢群別抗体保有状況
A/California(カリフォルニア)/7/2009 [A(H1N1)pdm09亜型]
:図1上段
 本ウイルスは2009年に世界的大流行(パンデミック)を起こしたインフルエンザウイルスである。2009/10シーズンは本ウイルスを用いた単価ワクチンが製造され,従来の季節性インフルエンザワクチン(3価ワクチン)とは別に接種が行われたが,2010/11シーズンは季節性インフルエンザワクチン株の1つとして用いられ,2011/12シーズンにもワクチン株として選定されたウイルスである。
 このウイルスに対する抗体保有率は,5~24歳の各年齢群で60%以上と高く,特に15-19歳群では80%以上を示した。また,25-29歳群,30-34歳群および40代の年齢群では比較的高い抗体保有率であったが,その他の年齢群は中程度の抗体保有率であった。

A/Victoria(ビクトリア)/210/2009 [A(H3N2)亜型]:図1下段
 本ウイルスは2010/11シーズンの季節性インフルエンザワクチン株に用いられたウイルスであり,2011/12シーズンにも引き続きワクチン株として選定された。
 このウイルスに対する抗体保有率は,0-4歳群のみ40%台であったが,その他の年齢群はすべて54%以上であった。年齢群による抗体保有率の差は少なかったが,その中でも15-19歳群と20-24歳群は約75%の高い抗体保有率を示した。

B/Brisbane(ブリスベン)/60/2008 [B型(ビクトリア系統)]:図2上段
 本ウイルスは2009/10シーズン以降,2011/12シーズンまで3シーズン連続して季節性インフルエンザワクチン株に選ばれたウイルスである。
 このウイルスに対する抗体保有率は,35-39歳群および40-44歳群で約65%と高く,その他の年齢群では,0-4歳群で25%未満と比較的低い抗体保有率であった以外は,ほとんどが比較的高い抗体保有率を示した。

B/Wisconsin(ウィスコンシン)/1/2010 [B型(山形系統)]:図2下段
 本ウイルスは2011/12シーズンのワクチン株とは異なる系統のB型インフルエンザウイルスである。2010年に分離されたウイルスであり,山形系統の代表として調査に用いた。
 このウイルスに対する抗体保有率は,すべての年齢群で40%未満であり,15~29歳の各年齢群以外では25%未満であった。特に0-4歳群および60-64歳群は10%未満の低い抗体保有率であった。

図1


図2

2)年齢群別抗体保有状況の前年度調査との比較 ※第2報以降に掲載予定

コメント
 今シーズンは2011年11月17日現在ですでに,山口県,横浜市,茨城県,三重県,兵庫県の幼稚園や小学校などにおいてA(H3)亜型あるいはB型インフルエンザウイルスによる集団発生の報告があり1)~5),インフルエンザ様疾患発生報告(2011年9月5日~11月6日の累計)では,学級閉鎖を実施した学校数は23校,学年閉鎖を実施した学校数は13校と報告されている6)。また,病原微生物検出情報による今シーズンのインフルエンザウイルス分離・検出速報では,第36~44週(9月5日~11月6日)の期間にA(H1N1)pdm亜型:1件,A(H3)亜型:53件,B型:14件(山形系統:8件,系統不明:6件)の報告があり7),現時点ではA(H3)亜型が優位となっている。感染症発生動向調査によるインフルエンザ患者の定点あたり報告数は第43週(10月24日~30日)現在で0.1であるが8),本調査において抗体保有率が低かった年齢群の者は,本格的な流行シーズンが始まる前にワクチン接種等の予防対策を行うことが望まれる。

1)戸田昌一,岡本玲子,渡邊宜朗,濱岡修二,冨田正章,調 恒明
 <速報>2011/12シーズンにおけるインフルエンザ集団発生初発事例-山口県
 IASR速報

2)川上千春,百木智子,七種美和子,宇宿秀三,森田昌弘,田代好子,飛田ゆうこ,上原早苗,船山和志,水野哲宏,椎葉桂子,末永麻由美,岩田真美,川瀬早貴,政木辰仁,豊澤隆弘
 <速報>横浜市内で発生したAH3亜型インフルエンザによる2011/12シーズンの集団かぜ初発事例
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3)土井育子,渡邉美樹,笠井 潔,増子京子,原 孝,杉山昌秀,常井和美,高野直美,藤島和則,緒方 剛
 <速報>今季初のB型インフルエンザの集団発生-茨城県
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4)矢野拓弥,楠原 一,赤地重宏,松野由香里,山寺基子,大久保和洋,永井佑樹,岩出義人,片山正彦,福田美和,中川由美子,高橋裕明,平岡 稔,山内昭則,天野秀臣,山口哲夫,三原武彦,松田 正
 <速報>三重県における集団発生事例から分離されたAH3亜型インフルエンザウイルス
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5)押部智宏,榎本美貴,髙井伝仕,近平雅嗣,松本竜徳,樋口しげこ,柳 尚夫,田中一宏
 <速報>小学校集団発生からのAH3亜型インフルエンザウイルスの分離-兵庫県
 IASR速報

6)厚生労働省健康局結核感染症課
 インフルエンザ様疾患発生報告(第9報)

7)国立感染症研究所感染症情報センター
 インフルエンザウイルス分離・検出速報 2011/12シーズン
 IASR

8)厚生労働省/国立感染症研究所
 第43号ダイジェスト 発生動向総覧
 IDWR

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