インフルエンザとは

(IDWR 2005年第8号掲載)  インフルエンザ(influenza)は、インフルエンザウイルスを病原とする気道感染症であるが、「一般のかぜ症候群」とは分けて考えるべき「重くなりやすい疾患」である。

続きを読む

【速報一覧へ戻る】
インフルエンザ抗体保有状況 -2016年度速報第1報- (2016年12月2日現在)
 

はじめに
 感染症流行予測調査事業における「インフルエンザ感受性調査」は、毎年、インフルエンザの本格的な流行が始まる前に、インフルエンザに対する国民の抗体保有状況(免疫状況)を把握し、抗体保有率が低い年齢層に対する注意喚起等を目的として実施している。
 わが国におけるインフルエンザワクチンは、従来、A(H1N1)亜型、A(H3N2)亜型、B型(ビクトリア系統あるいは山形系統)の3つのインフルエンザウイルスをワクチン株とした3価ワクチンが用いられてきた。しかし、近年はB型の二系統が同シーズンに流行する傾向が世界的にみられており、わが国においては前シーズン(2015/16シーズン)より4価ワクチンが使用開始となった。本調査では今シーズン(2016/17シーズン)のワクチン株に用いられた4つのインフルエンザウイルスについて抗体保有状況の検討を行った。
 

1. 調査対象および方法
 2016年度の調査は、22都道府県から各198名、合計4,356名を対象として実施された。インフルエンザウイルスに対する抗体価の測定は、健常者から採取された血液(血清)を用いて、調査を担当した都道府県衛生研究所において赤血球凝集抑制試験(HI法)により行われた。HI法に用いたインフルエンザウイルス(調査株)は以下の4つであり、各ウイルスの卵増殖株を由来としたHA抗原を測定抗原とした。また、採血時期は原則として2016年7~9月(例年のインフルエンザの流行シーズン前かつワクチン接種前)とした。
a)A/California(カリフォルニア)/7/2009 [A(H1N1)pdm09亜型]
b)A/Hong Kong(香港)/4801/2014 [A(H3N2)亜型]
c)B/Phuket(プーケット)/3073/2013 [B型(山形系統)]
d)B/Texas(テキサス)/2/2013 [B型(ビクトリア系統)]
 なお、本速報では抗体保有率として、感染リスクを50%に抑える目安と考えられているHI抗体価1:40以上について示した。
 

2. 調査結果
 2016年12月2日現在、北海道、山形県、福島県、栃木県、群馬県、千葉県、神奈川県、新潟県、富山県、福井県、山梨県、長野県、静岡県、三重県、佐賀県の15道県から合計3,823名の結果が報告された。5歳ごとの年齢群別対象者数は、0-4歳群:420名、5-9歳群:299名、10-14歳群:362名、15-19歳群:346名、20-24歳群:260名、25-29歳群:327名、30-34歳群:351名、35-39歳群:286名、40-44歳群:260名、45-49歳群:274名、50-54歳群:256名、55-59歳群:160名、60-64歳群:136名、65-69歳群:61名、70歳以上群:25名であった。
 

【年齢群別抗体保有状況】
A/California/7/2009 [A(H1N1)pdm09亜型]
:図1上段
 本調査株に対する抗体保有率は10代後半から20代前半をピークとし、5歳から20代の各年齢群の抗体保有率(74~88%)は、その他の年齢群と比較して高かった。また、30代から60代前半の各年齢群は概ね40~60%の抗体保有率(41~67%)を示したが、0-4歳群および60代後半以上の年齢群は約30%の抗体保有率(28~33%)であった。

A/Hong Kong/4801/2014 [A(H3N2)亜型]:図1下段
 本調査株に対する抗体保有率は10代前半をピークとし、5歳から10代の各年齢群の抗体保有率(63~71%)は、その他の年齢群と比較して高かった。また、20~30代および60代後半の各年齢群の抗体保有率(35~44%)は概ね40%であったが、それ以外の各年齢群は約20~30%の抗体保有率(20~32%)であった。

B/Phuket/3073/2013 [B型(山形系統)]:図2上段
 本調査株に対する10代から30代前半の各年齢群の抗体保有率(47~59%)は、その他の年齢群と比較して高く、20代後半でピークがみられた。それ以外の多くの年齢群は20~30%台の抗体保有率(28~36%)であり、とくに0-4歳群および60代では20%未満の抗体保有率(11~19%)、70歳以上群では10%未満の抗体保有率(4%)であった。

B/Texas/2/2013 [B型(ビクトリア系統)]:図2下段
 本調査株に対する抗体保有率はほとんどの年齢群で30%未満であり、その多くが20%未満の抗体保有率であった。とくに60代以上の各年齢群では10%未満の抗体保有率であった。
 


図1


図2

コメント
 病原微生物検出情報におけるインフルエンザウイルス分離・検出状況(2016年12月1日現在報告数)によると、今シーズンは2016年第36~48週(9月5日~12月4日)にAH1pdm09亜型40例、AH3亜型295例、B型9例(山形系統5例、ビクトリア系統4例)の報告があり、現時点ではAH3亜型の分離・検出報告数が多い。また、感染症発生動向調査によるインフルエンザの定点あたり患者報告数(2016年11月24日現在速報値)は、2016年第46週(11月14~20日)で1.38と全国的な流行の指標となる1.0を超えており、本調査で抗体保有率が低かった年齢層においては注意が必要である。


国立感染症研究所 感染症疫学センター/インフルエンザウイルス研究センター

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan