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インフルエンザ抗体保有状況 -2019年度速報第1報- (2019年12月4日現在)
 

はじめに
 感染症流行予測調査事業における「インフルエンザ感受性調査」は、毎年、流行シーズン前の抗体保有状況(免疫状況)を把握し、流行シーズンに向けて抗体保有率が低い年齢層に対する注意喚起等を目的として実施している。
 わが国におけるインフルエンザワクチンは、従来、A(H1N1)亜型、A(H3N2)亜型、B型(ビクトリア系統あるいは山形系統)の3つのインフルエンザウイルスをワクチン株とした3価ワクチンが用いられてきた。しかし、近年はB型の二系統が同シーズンに流行する傾向が世界的にみられており、わが国においては2015/16シーズンからB型の二系統を含む4価ワクチンの使用が開始された。本感受性調査では今シーズン(2019/20シーズン)のワクチン株に用いられた4つのインフルエンザウイルスについて抗体保有状況の検討を行った。
 

1. 調査対象および方法
 2019年度の調査は、21都道府県から各198名、合計4,158名を対象として実施された。インフルエンザウイルスに対する抗体価の測定は、健常者から採取された血液(血清)を用いて、調査を担当した都道府県衛生研究所において赤血球凝集抑制試験(HI法)により行われた。HI法に用いたインフルエンザウイルス(調査株)は以下の4つであり、各ウイルスの卵増殖株を由来としたHA抗原を測定抗原とした。また、採血時期は原則として2019年7~9月(例年のインフルエンザの流行シーズン前かつワクチン接種前)とした。

a)A/Brisbane(ブリスベン)/02/2018 [A(H1N1)pdm09亜型]
b)A/Kansas(カンザス)/14/2017 [A(H3N2)亜型]
c)B/Phuket(プーケット)/3073/2013 [B型(山形系統)]
d)B/Maryland(メリーランド)/15/2016 [B型(ビクトリア系統)]

 なお、本速報では抗体保有率として、感染リスクを50%に抑える目安と考えられているHI抗体価1:40以上について示した。
 

2. 調査結果
 2019年12月4日現在、北海道、山形県、福島県、栃木県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、富山県、福井県、山梨県、長野県、愛媛県、佐賀県の14都道府県から合計3,396名の結果が報告された。A型インフルエンザに関しては3,396名の結果が得られ、B型インフルエンザでは3,195名の結果が得られた。5歳ごとの年齢群別対象者数は、0-4歳群:336名、5-9歳群:281名、10-14歳群:360名、15-19歳群:205名、20-24歳群:236名、25-29歳群:322名、30-34歳群:294名、35-39歳群:251名、40-44歳群:185名、45-49歳群:267名、50-54歳群:226名、55-59歳群:192名、60-64歳群:118名、65-69歳群:68名、70歳以上群:55名であった。
 

【年齢群別抗体保有状況】
A/Brisbane/02/2018 [A(H1N1)pdm09亜型]
:図1上段
 本調査株に対する抗体保有率は5~24歳の各年齢群で60%以上を示し、その他の年齢群と比較して高かった。また、25~34歳の各年齢群は概ね50%の抗体保有率であったが、それ以外の年齢群は40%未満であり、とくに70歳以上群は20%未満の低い抗体保有率であった。

A/Kansas/14/2017 [A(H3N2)亜型]:図1下段
 本調査株に対する抗体保有率は全ての年齢群で60%以下であった。5~24歳の各年齢群は概ね40~60%の抗体保有率を示し、その他の年齢群と比較して高かった。また、30~54歳および60-64歳の各年齢群は20%前後の低い抗体保有率であった。

B/Phuket/3073/2013 [B型(山形系統)]:図2上段
 本調査株に対する抗体保有率は10~39歳の各年齢群で概ね60~75%の抗体保有率を示し、その他の年齢群と比較して高かった。また、5-9歳群および40~64歳の各年齢群は概ね45~55%の抗体保有率であった。0-4歳群および65~69歳群で低い抗体保有率を示し、概ね30%であった。

B/Maryland/15/2016 [B型(ビクトリア系統)]:図2下段
 本調査株に対する抗体保有率は全ての年齢群で60%以下であった。10~24歳および35~59歳の各年齢群で40%以上を示したが、それ以外の年齢群は40%未満で、とくに0-4歳群および65歳以上の各年齢群は20%前後の低い抗体保有率であった。
 


図1


図2

コメント
 病原微生物検出情報におけるインフルエンザウイルス分離・検出状況によると、今シーズンはこれまでにAH1pdm09亜型494例、AH3亜型33例、B型24例(山形系統1例、ビクトリア系22例、系統不明1例)の検出報告があり、現時点ではAH1pdm09亜型の報告数が多い(2019年12月4日現在報告数)。また、感染症発生動向調査におけるインフルエンザ定点あたり報告数は第45週(11月4日~11月10日)に定点あたり報告数が1.03と全国的な流行開始の指標である1.00を超えて以降、第47週には3.11に増加し、多くの都道府県で1.00を超えてきていることから(2019年12月4日現在)、本格的なインフルエンザシーズンに突入したと判断される。抗体保有率が低かった年齢層においては注意が必要である。


国立感染症研究所 感染症疫学センター/インフルエンザウイルス研究センター
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