logo40
 
国内インフルエンザ流行株の抗原性解析および薬剤耐性株の検出状況(途中経過)

(IASR Vol. 34 p. 141-142: 2013年5月号)

 

国内におけるインフルエンザウイルスの流行は、現時点 (2013年3月29日) ではまだ終息していないが、これまでに明らかになった流行株の抗原性および薬剤耐性株の検出状況について、途中経過を報告する。

1.流行の概要
 2012/13インフルエンザシーズンは、国内ではA(H3N2) ウイルスが流行の主流である。2013年3月29日時点の総分離・検出数4,533株における型/亜型分離・検出比は、AH1pdm09亜型が2%(93株)、AH3亜型が85%(3,861株)、B型が13%(579株)であった。B型はYamagata系統とVictoria系統の2系統があるが、今シーズンも両系統の混合流行で、その割合は3:2で、山形系統による流行がやや優位であった。

2.流行株の抗原性について
 1)インフルエンザワクチンは発育鶏卵で分離培養されたウイルス株を元に製造される。しかし、近年のA(H3N2)およびB型ウイルスは、発育鶏卵で分離培養すると抗原部位および糖鎖付加部位にアミノ酸置換が起こり、ヒトの臨床検体中に存在したウイルスとは顕著に抗原性が変化する傾向がある(IASR 33: 297-300, 2012参照)。それに対して、イヌ腎上皮細胞由来のMDCK細胞による分離培養では、ウイルスが抗原性の変化を起こす頻度は少なく、ヒトの臨床検体中のウイルスの抗原性を維持する。そこで、国立感染症研究所(感染研)では流行株の抗原性をより正確に評価するために、MDCK細胞分離株に対するフェレット感染血清を主に用いて抗原性解析を実施している。

 2)2012/13シーズンに全国の地方衛生研究所(地研)で分離されたウイルス株は、各地研において、感染研からシーズン前に配布された同定用キット[A/California/7/2009(H1N1)pdm09、A/Victoria/361/2011 (H3N2)、B/Wisconsin/1/2010(Yamagata系統)、B/Brisbane/60/2008(Victoria系統)]を用いた赤血球凝集抑制(HI)試験によって、型・亜型・B型の系統の同定が行われ、感染症サーベイランスシステム(NESID)にそれらの情報が登録された。感染研では、NESID経由でこれら国内分離株の情報を収集し、地研で分離・同定されたウイルスの中からAH1pdm09:100%(54株)、AH3:10%(225株)、B Yamagata系統:50%(126株)、B Victoria系統:50%(84株)について地研から分与を受けた。それら分離株の抗原性状をワクチン株に対するフェレット感染血清を用いたHI試験により解析した。

 現時点までに解析した流行株は、2012/13シーズンのワクチン株であるA/California/7/2009 (H1N1)pdm09、A/Victoria/361/2011 (H3N2)、B/Wisconsin/1/2010(Yamagata系統)に抗原性が類似した株が、それぞれ95%、98%、100%を占め、いずれの型・亜型においてもワクチン類似株が流行の主流であった(図1)。一方、B型Victoria系統については、解析した流行株の100%が2011/12シーズンに使われたワクチン株B/Brisbane/60/2008に抗原性が類似していた。

3.薬剤耐性株の検出状況
国内で分離されたA(H1N1)pdm09ウイルス44株、A(H3N2)ウイルス133株、B型ウイルス58株についてオセルタミビル(商品名タミフル)、ペラミビル(商品名ラピアクタ)、ザナミビル(商品名リレンザ)およびラニナミビル(商品名イナビル)に対する感受性試験を行った。その結果、オセルタミビルおよびペラミビルに対して交叉耐性を示すA(H1N1)pdm09ウイルスが2株検出された。これら2株は、ザナミビルおよびラニナミビルに対しては感受性を保持していた。また、薬剤耐性株の地域への拡がりは確認されていない。

以上の結果から、現時点 (2013年3月29日) では、感染研インフルエンザウイルス研究センターが解析した今シーズンの流行株の大半は、A型、B型ともワクチン株と抗原性がよく一致していたことが示された。

 

国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター第一室 ・WHOインフルエンザ協力センター
   岸田典子 徐 紅 高下恵美 藤崎誠一郎 今井正樹 伊東玲子 佐藤 彩 土井輝子 江島美穂 金 南希 菅原裕美 小田切孝人 田代眞人
地方衛生研究所インフルエンザ株サーベイランスグループ

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan