国立感染症研究所

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鳥インフルエンザA(H7N9) による重症疾患の出現、2013年2~4月―中国

(IASR Vol. 34 p. 172: 2013年6月号)

 

2013年3月29日に中国CDCは3例の鳥インフルエンザA(H7N9) のヒトへの感染例を初めて確認し、3月31日に国際保健規則(IHR)に基づき世界保健機関(WHO)へ通告した。いずれも重症肺炎から急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を起こし死亡した。これらの症例に疫学的なリンクはなく、調査の結果ヒト-ヒト感染はみられず、中国域外での感染も認められなかった。関連する曝露歴を伴う急性呼吸器症状の症例をみた医師は検体採取と検査に関して保健当局に連絡を取る必要がある。

疫学的調査:2013年4月29日の時点で中国は 126の症例を報告し、うち24例(19%)は死亡例だった。これらの症例は中国東部の8省と2市、およびこれら以外に台湾から1例が報告されていた。感染源は調査中ではあるが、ほとんどの症例は突発的なもので疫学的に他のヒト症例と関係はなかった。曝露歴の分かった82症例のうち、77%にあたる63症例は動物への曝露歴あり(76%は鶏、20%はアヒル)。しかし家族内感染が3例報告されており、ヒト-ヒト感染があったかもしれない。

症例の年齢の中央値は61歳(四分位範囲は48~74歳)、17例(21%)が75歳以上で、58例(71%)が男性、小児は4例のみ。リアルタイム逆転写PCR (rRT-PCR)で無症候の小児が1例陽性だった。情報が得られた71例のうち、54例(76%)は基礎疾患を有していた。82症例中81例(99%)は入院を要し、入院例のうち17例(21%)が死亡した。

症例である82人と接触歴のある 1,689人の調査では、医療従事者を含めて接触歴による症例は検出されなかった。中国のインフルエンザサーベイランスも症例の集積を認めす、インフルエンザ様疾患(ILI)の頻度は通年と同様だった。

米国では、中国渡航後10日以内のインフルエンザ様症状の症例をCDC に報告することとなっており、4月29日の時点で18州から37症例の届出があったが、いずれもA(H7N9) は検出されなかった。米国内でのインフルエンザの活動は減少傾向にある。

実験室調査:2013年4月30日に中国の研究者らはGlobal Initiative on Sharing All Influenza Data (GISAID)に19例のゲノム情報を共有した。12のヒト症例、5例のトリ、そして2例の環境サンプルであった。ユーラシアに分布する株によるもので、中国内のアヒルからのH7N3、野鳥からのH7N9、そして東アジアに広く分布するH9N3に近い遺伝系統であった。遺伝子配列上は、哺乳類の呼吸器への結合および増殖がしやすくなる適応的変異がみられた。

WHO協力センター経由で入手したサンプルを米国CDCで解析したところ、卵、培養細胞および動物モデルの呼吸器での増殖が確認され、106~104PFU ではBALB/cマウスでの死亡も確認された。

中国CDCで分離された安徽株はオセルタミビルとザナミビルに感受性であったが、公開された上海株の塩基配列はノイラミニダーゼ阻害薬への耐性として知られる変異(H275Y)を有していたため、散発的に薬剤耐性株が出現する危険を認識する必要がある。検査されたウイルスすべてからアマンタジンへの耐性が指摘されており、H7N9感染例に処方されるべきではない。

中国からのH7N9の報告をうけて、米国CDC は既存のrRT-PCR キットを用いてH7検査テストを開発した。これはユーラシアのH7を検出するもので、4月22日に米国食品医薬品局(FDA)のEUA(緊急時使用)においてin vitroの試験として認められ、米国内の公衆衛生および軍関係の実験室で使用可能である。

動物調査関連:4月26日現在中国農務省によると、68,060の鳥および環境検体を調査し、46(0.07%)がH7N9に培養陽性だったと報告された。上海および他の流行地域での家禽の市場は一時的に閉鎖され、サンプリングは流行地域で行われている。

米国農務省(USDA)および農業研究サービス(ARS)によると、米国内の家禽からは今のところ当該ウイルスは検出されておらず、鳥インフルエンザの流行地域から生きた鳥、家禽および卵の輸入は禁止されている。

MMWR編集部注:H7N9感染例は高齢(中央値61歳)、男性(71%)に多く、ほとんどは基礎疾患を有する症例にみられる。初期の調査では持続的なヒト-ヒト感染の証拠は認められないものの、家族内症例から限局的なヒト-ヒト感染は家族内症例から否定できない。

 

(CDC, MMWR, 62, No.18, 366-371, 2013)

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