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2017/18シーズンの季節性インフルエンザのワクチン効果の中間評価:欧州における5研究のまとめ

(IASR Vol. 39 p105-106: 2018年6月号)

欧州では, 2017年9月~2018年2月までの2017/18シーズンに, A(H1N1)pdm09, A(H3N2), Bの3つのインフルエンザが, 国ごとに異なるパターンで同時流行した。2017/18シーズンは, 3価ワクチンにはA/Michigan/45/2015(H1N1)pdm09, A/Hong Kong/ 4801/2014(H3N2), B/Brisbane/60/2008(ビクトリア系統)が, 4価ワクチンには加えてB/Phuket/3073/ 2013が含まれていた。今回, 欧州の5研究による今シーズンの季節性インフルエンザワクチンのワクチン効果(vaccine effectiveness: VE)についての中間評価をまとめた。

5研究のうち3つはスペイン, 英国, デンマークの単一国型で, 2つ(EU-PC, EU-H)は複数国参加型(前者10カ国, 後者6カ国)であった。スペイン, 英国, EU- PCの研究はプライマリーケア施設を対象とし, EU-Hは病院, デンマークの研究は両者を対象としていた。5研究では, いずれもtest negative designが用いられ, 65歳以上を対象としたEU-H以外は全年齢が対象であった。

分離されたウイルス株(6,979株)は, 英国を除く4研究では, Bが2/3以上(9割以上が山形系統)を占め, 英国ではA(H1N1)pdm09とA(H3N2)が半々であった。A型では, デンマークとEU-PCではA(H1N1)pdm09が, スペイン, 英国, UK-HではA(H3N2)が優位であった。A(H1N1)pdm09はすべてClade 6B.1(ミシガン系統), A(H3N2)は63%がClade 3C.2a(香港系統), 35%が3C2a1(シンガポール系統)に属していた。全インフルエンザに対するVEは25%〔95%信頼区間(CI): -10~48〕~52% (同29~67)と推定され, 65歳以上を対象としたEU-PCでは, VEは36%(95%CI: 13~53)と算出された。A(H1N1)pdm09に対するVEは, 55%(95%CI: 23~74)~68%(同42~83)であった。A(H3N2)に対するVEは, いずれの研究でも8%以下と低かった。Bに対するVEは, 36%(95%CI: 27~44)~54%(同24~72)であり, 65歳以上の高齢者で低く(各研究におけるVE 15~54%), 小児で高かった(同58~83%)。

A(H1N1)pdm09に対するVEは過去の他の報告同様良好であり, 流行株であったClade 6B.1がワクチン株に含まれていたことがその理由と考えられた。A(H3N2)に対するVEは低く, これは2016/17シーズンのEU-Hや2017シーズンの豪州からの報告と同様であった。A(H3N2)は2018シーズンの南半球, 2018/19シーズンの北半球のワクチン株が今シーズン3割を占めていたシンガポール系統になったが, 罹患者の多くが高齢者であることと低いVEから, 高齢者へのより効果的な介入が必要である。Bに対するVEは, 流行した山形系統はワクチンに含まれていなかったものの例年並みの値であり, Bに対してはcross-lineage protectionがあることを示唆している。4価インフルエンザワクチンのVEは, 小児の多くが4価ワクチンを使用している英国のみが推計し, 53%(95%CI: -56~86)であった。これは小児のほとんどが3価ワクチンを接種していたEU-PCのVE 59%とほぼ同等であったが, VEは流行株によって異なるため, 4価ワクチンと3価ワクチンのVEの比較は困難である。

今後の最終評価では, より大きなサンプルサイズから結果が正確に得られることが期待される。また, 前シーズンのワクチン接種状況別のVE解析が望まれる。

 

(Euro Surveill. 2018; 23(9): pii=18-00086)
(抄訳担当:感染研感染症疫学センター・川上千晶 山岸拓也 砂川富正)

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