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2015/16シーズン初めに保育園集団かぜから分離された
AH1pdm09亜型インフルエンザウイルス―愛知県

(掲載日 2015/10/20)  (IASR Vol. 36 p. 224-225: 2015年11月号)

2015年9月に岡崎市内の保育園においてA型インフルエンザの集団感染が発生し、AH1pdm09亜型インフルエンザウイルスが分離されたので報告する。

愛知県岡崎市内の保育園で9月2日にインフルエンザ患者が10名認められ、同市より報道発表がなされた1)。患者は全員が園児で医療機関において迅速診断キット等でA型インフルエンザと診断された。上記を含む同保育園の園児9名(男5、女4)から9月2~3日に採取された検体(うがい液)が搬入された。MDCK細胞にてウイルス分離を実施したところ、9名中4名の検体接種細胞において細胞変性効果(CPE)が観察された。このウイルス培養上清液に対して0.5%ガチョウ赤血球を用いた赤血球凝集(HA)試験を行ったところ、HA価は16倍を示したため、国立感染症研究所より配布されている2014/15シーズンインフルエンザウイルス同定キットにて赤血球凝集抑制(HI)試験による型別同定を行った結果、分離された4株は抗A/California/7/2009pdm血清(ホモ価640)に対してHI価320を示した。一方、抗A/New York/39/2012血清(同1,280)、抗B/Massachusetts/2/2012血清(同1,280)、抗B/Brisbane/60/2008血清(同2,560)に対してはすべての分離株がそれぞれHI価10未満を示し、分離された4株はすべてAH1pdm09亜型インフルエンザウイルスと判定された。にウイルスを検出した患者の情報を示した。

分離株についてHA遺伝子の塩基配列を決定し、GISAIDデータベースからBLAST検索を行ったところ、100%の相同性を示す株は報告されていなかった。相同性の高い株を含め系統樹解析を実施したところ()、分離株は2013/14シーズン国内流行2)と同じクレード6B(K163Q、A256T)に分類され、2014/15シーズンにインド、ネパール等から報告されている株に存在するS84N変異を持っていた。加えて、S162NとI216T変異も有していた。

分離株4株のNA遺伝子の薬剤耐性マーカー(H275Y)の検索を行ったところ、すべて感受性(275H)の配列であった。また、M遺伝子解析からM2タンパク質にはS31N置換があり、アマンタジン耐性変異が認められた。

2015/16シーズンの岡崎市におけるインフルエンザ定点医療機関からの患者報告数をみると、2015年第36週に1.00、第37週には同1.55まで上昇したが、第39週には同0.09に減少しており3)、一時的、地域的に感染が広がったと考えられた。今回の集団かぜは2009年のパンデミックを経験していない年代(3~5歳)で起こっており、低年齢層に感受性者が蓄積している可能性も考えられた。2014/15シーズンには愛知県ではAH1pdm09亜型ウイルスは検出されなかったが、2015/16シーズン初期において同亜型が既に検出されたことから、今後本格的に同亜型ウイルスが流行するか注視する必要がある。

 
参考文献
  1. 岡崎市報道機関発表資料(2015年9月2日発表)
    http://www.city.okazaki.aichi.jp/1100/1107/1146/p015463_d/fil/20150902influsyuudann.pdf
  2. IASR 35: 254-258, 2014
  3. 岡崎市「インフルエンザ、集団かぜの発生状況」(2015年10月1日現在)
    http://www.city.okazaki.lg.jp/1100/1107/1146/p015469.html
 
愛知県衛生研究所
  安井善宏 尾内彩乃 小林慎一 山下照夫 皆川洋子
岡崎市保健所
  土屋啓三 深瀬文昭 有賀みはる 片岡 泉 糟谷慶一 片岡博喜
 

 

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