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2016/17シーズン初めのインフルエンザの動向—茨城県

(掲載日 2016/10/25)(IASR Vol. 37 p.231-233: 2016年11月号)

2016/17シーズン第36週〜第40週にかけて、県内ではインフルエンザの集団感染が相次いで発生したので、それらの状況について報告する。

2016年9月2日〜6日に、県南地域の幼稚園で風邪症状の集団感染があり、3歳児クラス17名中11名がインフルエンザAと診断されたため、9月8日および9日(第36週)に今シーズン県内で初となる学級閉鎖措置が取られた。その後幼稚園全体で計15名の発症が報告された。入院者および重症者はおらず、16日には終息した(事例1)。シーズン初発事例であったため管轄保健所により検体が採取された。

搬入された鼻かみ液5検体(8日採取)について国立感染症研究所(感染研)「インフルエンザ診断マニュアル」に基づきリアルタイムRT-PCRを行ったところ、5検体すべてからA/H3ウイルス遺伝子が検出された。また、MDCK細胞を用いたウイルス分離の結果、4検体でCPEが確認された。感染研より配布された2015/16シーズンインフルエンザウイルス同定キットを用いてHI試験を行ったところ、4検体はA(H3N2):A/Switzerland/9715293/2013ウサギ免疫血清に対しHI価80(ホモ価640)であった。また、A(H1N1)pdm09、B/山形系統およびVictoria系統抗血清に対してはHI価10未満であったため、A/H3ウイルス分離株と同定された。この4株のA/H3ウイルスのHA遺伝子領域の塩基配列を決定したところ、配列は完全に一致した。さらに感染研インフルエンザセンターの系統樹解析1)を参考に解析を行った結果、サブクレード3C.2aに分類された()。

次いで第37週、県南地域の幼稚園4歳児クラス34名中10名がインフルエンザを発症し、15、16日に学級閉鎖措置がとられた。この幼稚園全体では計26名のインフルエンザによる欠席が報告された(事例2)。衛生研究所には14日に採取された鼻かみ液8検体、うがい液6検体(10名分)が搬入された。事例1と同様に検査を行ったところ、鼻かみ液7検体、うがい液1検体(8名分)からA/H1pdm09ウイルス遺伝子が検出された。ウイルス分離の結果、CPEが確認されたのは鼻かみ液1検体のみであった。HI試験を行ったところ、A(H1N1)pdm09:A/California/07/2009ウサギ免疫血清に対するHI価は1,280(ホモ価1,280)、その他の抗血清に対しては10未満であったことからA/H1pdm09ウイルス分離株と同定された。また、抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランスに基づき分離株のNA上のH275Y耐性マーカーを検索したところ、マーカーは認められなかった。さらに、HA遺伝子領域系統樹解析ではサブクレード6B.1に分類された。昨シーズンは全国および県内の流行の主流はA/H1pdm09ウイルス2)であり、系統樹解析では県内検出株はすべてクレード6B、そのうち7割程度がサブクレード6B.1に分類されており、今回の検出株は昨シーズンの流行株の類似株と推察された。

また、第38週には鹿行地域の小学校でも集団感染による学級閉鎖があり、A/H3ウイルスが検出された(事例3)。事例1と発生市町村は隣接しており、また疫学的リンクがあること、分離された株の塩基配列が一致したことから、この2つの事例は同一ウイルスによるものであった可能性が示唆された。

茨城県ではインフルエンザの流行状況の把握のため、各保健所管内で学校等における集団初発事例の検体を採取し検査をしている。従来は検体としてうがい液を用いてきたが検出率が低く、3シーズン前より鼻かみ液を導入している(鼻汁が出ないもしくは鼻をかめない場合はうがい液で対応)。鼻かみ液は今回の3事例から計19検体の提出があり、そのうちRT-PCRによりウイルスが検出されたのは17検体(89.4%)であった。また、自覚症状として鼻汁が出ると答えた人は全22名中12名おり、この12名の鼻かみ液からはすべてRT-PCRでウイルスが検出された。鼻かみ液からのウイルス分離率は鼻腔ぬぐい液と比較すると低いが3)、集団初発例等の検査に用いるには有効な検体であると考える。今回事例1〜3で採取された検体についてはのとおりである。

その後、第40週に県央地域の病院で、第41週に同地区の中学校で集団感染(ともにA/H3検出)が発生した。さらに第40週には散発事例のインフルエンザ脳症(A/H1pdm09検出)が発生するなど、県内では現在流行期前であるが、A/H1pdm09およびA/H3ウイルスが混在しながらも感染が拡大していく兆しがある。これらの状況をふまえ、今後発生の動向には注視していく必要があるものと考える。

 

参考文献
  1. NESID感染症サーベイランスシステム
  2. 今冬のインフルエンザについて(2015/16シーズン)
    http://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-m/2066-idsc/related/6715-fludoko-2015.html
  3. 茨城県衛生研究所年報第53号
    http://www.pref.ibaraki.jp/hokenfukushi/eiken/kikaku/annualreport/2015.html


茨城県衛生研究所 
 土井育子 黒澤美穂 梅澤昌弘 後藤慶子 本谷 匠 永田紀子 小林雅枝
茨城県竜ヶ崎保健所
 松本綾香 宮崎彩子 塚野 孝 緒方 剛
茨城県つくば保健所
 児玉麻里 黒江悦子 本多めぐみ
茨城県潮来保健所
 益子真衣 大森葉子 石田久美子

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