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2019年8~9月の那覇市立病院におけるインフルエンザへの取り組み

(速報掲載日 2019/12/24) (IASR Vol. 41 p30-32: 2020年2月号)
当院の紹介

地方独立行政法人那覇市立病院は、昭和55(1980)年設立、病床数470床、職員数1100人以上の急性期病院である。特徴として、24時間365日小児科医常駐の急病センターを有し、毎月4~5千人程の受診者を受け入れている。那覇市以外や県外・海外旅行者の受診者も、年々増加傾向である。

はじめに

沖縄県は、冬季の流行期インフルエンザ以外にも、1年を通してインフルエンザの発生が認められ、夏季であっても外来、院内におけるインフルエンザへの対応に追われることも少なくなかった。しかし、2019年は、これまでにない規模での夏の流行を認め、院内においては、インフルエンザ予防投与のあり方や、呼吸器感染症を疑う受診者が増加した際の、診療体制の柔軟かつ迅速な変更を余儀なくされ、院内での感染の伝播を極力抑えることに注力せざるをえない状況が発生した。本稿においては、当院における発生状況のまとめ、および院内における感染拡大防止の取り組みの概要について紹介するものである。

これまでの予防投与の基準

当院の抗インフルエンザ薬予防投与の基準が作成されたのは、2012年夏のインフルエンザを経験したことがきっかけである。この季節外れの夏季流行当時、ある部署において院内のアウトブレイクが終息するまで、3週間以上を要した。このアウトブレイクを契機に、当院の基準作成時の経緯から2~5日前後の発症が続いたことにより、日本感染症学会提言2012基準の2~3日以内より長めに、5日間を観察期間として基準を設定し、5日以内に同一病棟、同一経路で患者2名または職員3名にインフルエンザの感染が認められた場合に、病棟内の集団予防投与開始の基準とした。

2019年8月の病棟内アウトブレイクを経て

2019年8月中旬、病棟Xで、入院患者と家族からの感染とみられる職員がインフルエンザ様症状を発症し、インフルエンザAと診断された(図1)。患者は、入院3日目で、その後の聞き取りから入院前の感染とみられた。この時点では、インフルエンザ確定患者の同室者と担当職員、ならびにその職員が担当した患者のみ抗インフルエンザ予防投与を行った。しかし、3日後、同病棟職員がインフルエンザ様症状を発症し、インフルエンザBと診断されるという新たな状況が発生した。続いて初発患者(インフルエンザA)の発症から7日目、入院患者1名、職員2名がインフルエンザAと診断されたという報告を受け(図1)、病棟内全員(関係職員および全入院患者)を対象とした集団予防投与を開始し、病棟入院の受け入れを制限した。この時点で、発症した入院患者の感染要因として、行動歴からリハビリ室での感染を疑った。

その頃、県内では、8月14日にインフルエンザ定点患者報告10.82人となり注意報が発令されており、発熱外来患者も増加していた。このことも含め、病棟Xの患者全員に対しては、リハビリ室への移動を中止し、ベッドサイドでの訓練に変更した。その後のインフルエンザ発症者については、インフルエンザ様症状から臨床診断をされた患者1名と職員4名の計11名となり、最後の発症者の感染防護が開始される日を終息とカウントした場合の終息に至るまで14日間を要した。また、この期間に病棟X以外に6部署(病棟以外も含む)でインフルエンザAの発症者の情報があったが、そのうち2病棟では、病棟Xと発生経路が同一だったため、病棟Xと同様に部署内集団投与を行った。6部署で同時発生のようにみえる状況が認められたが、調査により部署間の感染の関連はなく、いずれも単発の発生とみなされた。また、それぞれ長期化することはなかった。

以上の経験を踏まえ、2019年8月末より、患者を対象とした病棟内集団予防投与の開始基準を以下のように大きく2通りに変更した。

① 患者において、2名以上がインフルエンザ様症状を発症し、迅速キットで1例でも確定した場合、

② 患者に加えて、同一部署に勤務する職員あるいは(面会制限を行う前の段階で)入院患者の家族を含めて2名以上がインフルエンザ迅速検査により感染が確定した場合。

なお、②の入院患者の家族に対する対応は、非流行期(インフルエンザワクチンでカバーされない主に6~9月を想定)においても迅速に入院患者の感染を予防する目的で導入したものである。また、流行期と同様に観察期間は、5日以内とした。

2019年9月の大きな地域流行への対応と今後の課題

沖縄県内では、2019年第35週(8月26日~9月1日)にはインフルエンザの定点当たり患者報告数が20.31人、南部地域が多く特に那覇市内は27.50人となっていた。9月8日(日)に急病センター受診者が、急激に増加し、午後には、急病センター滞在時間(受付から帰宅)が5~6時間になっていた。9月9日より外来入り口2カ所で、面会者への検温とかぜ症状チェックと、来院者すべてにマスク着用(無料配布)をしてもらう対応をとった。また9月は、3連休が2回あり、急病センター受診者が、さらに殺到する恐れを踏まえ、発熱外来を設置した。沖縄県・那覇市いずれも9月11日からの週(第36週)からインフルエンザの流行は警報レベルに変わり、沖縄県全体では第38週(9月16~21日)の患者報告数が定点当たり52.22人となった。那覇市は、第38週の定点当たり83.25人をピークに第44週(10月28日~11月3日)に警報解除となった。

第36~39週の間に当院を受診しインフルエンザの診断を受けた患者は1,179人であったが、うちインフルエンザに関連して入院に至った患者(院内感染を除く)は23人でいずれも軽症であった。9月3日~9月25日の間に、入院患者26名、職員109名、計135名がインフルエンザ様症状を発症し、迅速検査にて陽性の所見が得られた(すべてA型)(図2)。これらの状況に対し、9月全体で、延べ総数963回(同居家族が罹患した場合への対応で投与した場合、同一職員で複数回投与した場合も含む)の予防内服を実施した。この期間、予防内服をしていた職員4名(5日目に2名、6日目に1名、7日目に1名)がインフルエンザ様症状を発症し、迅速検査にてインフルエンザA型と診断された。うち、症状が遷延していた経過もあり、那覇市保健所の指示により検体を採取した1名については、さらに沖縄県衛生環境研究所にて遺伝子検査を実施したところ、ノイラミニダーゼ阻害薬耐性遺伝子の検出があったとの報告を受けた。9月25日の患者1名の陽性確定を最後に患者における発症はなかった。聞き取りから、職員におけるインフルエンザ発症者の大半は、自宅にて家族(子供等)からの感染であったと考えられ、院内で感染防護策を徹底していても、季節外れの流行の際に、職員が家庭で感染予防を行うことが容易ではなかったことが示唆された。

10月より職員のインフルエンザワクチン接種が開始され、11月から抗インフルエンザ集団予防投与基準を緩和、部署内のワクチン接種が終了した時点で、病棟面会制限を解除した。また8月に入院患者の感染機会の場所と考えられ、9月の流行時には閉鎖していたリハビリ室での訓練について、マスク着用の条件のもとで再開した。

今回、8月のアウトブレイク後に定めた病棟内集団予防投与の開始基準により、9月の流行では、職員、患者ともに予防投与を2~3クール行うことになった部署もあった。予防内服を長期間継続することについて、効果および副作用への懸念もあったが、9月のインフルエンザ対策では、大半の入院患者への感染拡大防止については成功裏に実施出来たと考える。入院患者において1人もインフルエンザの発症が確認されなかった部署も複数あり、特に新生児特定集中治療室(NICU)に関しては、面会者入室時の手洗い・マスク着用が徹底されており、指導が習慣化されていたことも要因と考えた。改めて、各部署に対する情報提供と感染防護策の徹底が重要であると感じた。

沖縄県では2018年に観光客の持ち込みによる麻しんが流行し、当時、当院では麻疹ウイルスを院内に持ち込ませないことを中心に対策を行った。今回も、入館・入室制限など、インフルエンザウイルスを院内に新たに持ち込まない点を中心に、職員の迅速な協力が得られたことが、とても有効であったと考える。しかし、通常業務にかなりの負担が及ぶため、来院者、入院患者の動線を考えた配置等を含む、あらかじめの感染対策を視野に入れた準備・対応に今後取り組んでいきたい。

 
 
地方独立行政法人 那覇市立病院
 感染対策室CNIC 山城奈奈 
 総合内科ICD 知花なおみ
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