IASR-logo
 

2019/20シーズン初め(2019年9月上旬)に分離されたA(H1N1)pdm09ウイルス、AH3亜型インフルエンザウイルスおよびB型インフルエンザウイルス(ビクトリア系統)の性状―三重県

(IASR Vol. 40 p216-220:2019年12月号)

(速報掲載日 2019/11/12)

2019年9月上旬(第36週以降)に三重県北勢地域、中勢地域および伊勢志摩地域でA型インフルエンザウイルスの集団発生事例やB型インフルエンザの地域流行(北勢地域)が県内医療機関より情報提供され早期流行の兆しがみられた。すなわち、第40週に一旦は患者報告数が1.08人となったが、その後、減少した。1,2)。2019年9月上旬に三重県感染症発生動向調査事業においてインフルエンザ集団発生事例および散発例の患者から分離・検出された季節性インフルエンザウイルス株〔A(H1N1)pdm09ウイルス、AH3亜型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス(ビクトリア系統)〕について以下の性状を調査したので報告する。

1.  インフルエンザウイルス分離および赤血球凝集(HA)試験

2019年9月(第36週~第38週)に採取された9検体を用いてMDCK細胞によるウイルス分離を試みたところ、9検体中8検体において初代から2代培養までに細胞変性が認められた。これらのウイルス培養上清液に対して0.75%モルモット赤血球を用いた赤血球凝集(Hemagglutination:HA)試験を行ったところ、すべてからHA活性が認められた。

2. 赤血球凝集抑制(HI)試験およびHA遺伝子系統樹解析

HA活性が認められたウイルス培養上清液について国立感染症研究所より配布された2019/20シーズンの同定試験用抗インフルエンザウイルス血清と、0.75%モルモット赤血球を用いて赤血球凝集抑制(Hemagglutination inhibition :HI)試験を行ったところ、今回分離されたインフルエンザウイルスの亜型は、A(H1N1)pdm09ウイルス3株、AH3亜型インフルエンザウイルス3株、B型インフルエンザウイルス(ビクトリア系統)2株であった。

これらの分離株についてHA遺伝子のアミノ酸配列を決定し、HA遺伝子系統樹解析を実施した。なお、国内外のA(H1N1)pdm09ウイルス株、AH3亜型インフルエンザウイルス株およびB型インフルエンザウイルス株(ビクトリア系統)はGlobal Initiative on Sharing All Influenza Data (GISAID) EpiFlu database (http://platform.gisaid.org)からHA遺伝子の配列情報を入手した。

1) A(H1N1)pdm09ウイルス

HA試験によりHA価(16~64)を示した3株(2019-734-MIE 、2019-745-MIE、2019-746-MIE)の分離株は、2019/20シーズンのワクチンの親株であるA(H1N1)pdm09ウイルスの抗血清(A/Brisbane/02/2018)に対してHI価1280(ホモ価2,560)を示し、A(H1N1)pdm09ウイルスと亜型同定した。

なお、A/Kansas/14/2017(H3N2) の抗血清(ホモ価2,560)、B/Phuket/3073/2013(山形系統)の抗血清(同80)、B/Maryland/15/2016(Victoria系統)の抗血清(同80)に対するHI価は10未満であった。

HI試験に用いた上記のA(H1N1)pdm09ウイルス3株についてHA遺伝子系統樹解析を実施した結果、A/Brisbane/02/2018(IVR-190)(H1N1)pdm09(ワクチン株)と同じHA遺伝子系統樹上のクレード6B.1A(HAアミノ酸置換;S74R、I164T、I295V)に属していた。さらに6B.1A内は、近年、HAアミノ酸置換(S183P)を含む複数の群(183P-1~183P-7)に分類され多様化がみられる。今回、解析した3株は183P-5(N260D)に属し、さらに同群のアミノ酸置換(N64D、N129D、T185I、D187A)を有する183P-5Aに分類された(図1)。

2) AH3亜型インフルエンザウイルス

HA価(8~16)を示した3株(2019-731-MIE、2019-732-MIE、2019-743-MIE)の分離株は、2019/20シーズンのワクチン親株の抗血清(A/Kansas/14/2017)に対してHI価80(ホモ価2,560)を示し、AH3亜型インフルエンザウイルスと同定した。

なお、A/Brisbane/02/2018(A (H1N1)pdm09)の抗血清(ホモ価2,560)、B/Phuket/3073/2013(山形系統)の抗血清(同80)、B/Maryland/15/2016(Victoria系統)の抗血清(同80)に対するHI価は10未満であった。

これらのAH3亜型インフルエンザウイルス(3株)は、今シーズンのワクチン株のA/Kansas/14/2017(X-327)(H3N2)が属するサブクレード3C.3aとは異なる3C.2a1(HAアミノ酸置換;N121K、N171K、I406V、G484E)に分類された。このサブクレード3C.2a1は、3C.2a1aおよび3C.2a1bに細分化されるが、今回、解析に用いた3株は、サブクレード3C.2a1b(K92R、H311Q)に属し、さらにT135Kのアミノ酸置換を有する群(E62G、R142G、T135K)に分類された(図2)。

3) B型インフルエンザウイルス(ビクトリア系統)

2株(2019-757-MIE、2019-758-MIE)の分離株(HA価8~16)は今シーズンのワクチン親株の抗血清(B/Maryland/15/2016(Victoria系統))に対してHI価40(ホモ価80)を示し、B型インフルエンザウイルス(ビクトリア系統)と同定された。なおA/Brisbane/02/2018(A (H1N1)pdm09)の抗血清(ホモ価2,560)、A/Kansas/14/2017(H3N2) の抗血清(同2,560)、B/Phuket/3073/2013(山形系統)の抗血清(同80)に対するHI価は10未満であった。

B型インフルエンザウイルス(ビクトリア系統)のB/Maryland/15/2016(NYMC BX-69A)(ワクチン株)はクレード1A(HAアミノ酸置換;N75L、N165K、S172P)に属する。さらに、分岐したHAアミノ酸置換(I117V、D129G、I180V、V146I、R498K)を有し、2つのHAアミノ酸(162~163番目)の欠損がみられる群に属している。今回、分離された上記の2株はクレード1Aに属し、HAアミノ酸置換(K136E)を有し、3つのHAアミノ酸(162〜164番目)の欠損を有するウイルスであった(図3)。

3. オセルタミビルおよびバロキサビル薬剤耐性変異の検出結果

A(H1N1)pdm09ウイルス(2019-734-MIE 、2019-745-MIE、2019-746-MIE)についてオセルタミビル耐性マーカーであるNeuraminidase(NA)遺伝子内のH275Y耐性変異を調べたところ、H275Y耐性変異は検出されなかった。

Polymerase acidic subunit (PA)遺伝子内のバロキサビル耐性変異(I38T、I38M、I38F)の検索ではH275Y耐性変異を調べた上記のA(H1N1)pdm09ウイルスに加え、AH3亜型インフルエンザウイルス(2019-731-MIE、2019-732-MIE、2019-743-MIE)について調べたところ、バロキサビル耐性変異を有するウイルスは確認されなかった。

現在のところ、国内ではA(H1N1)pdm09ウイルスが流行の主流3)であるが、近年、本ウイルスはHA遺伝子の多様化傾向がみられており、早期流行との関連性や抗原性の変化に関心がもたれる。今回、インフルエンザシーズン初期に分離・検出された季節性インフルエンザウイルスと今後の国内における流行ウイルス株との相同性や薬剤耐性株の動向に注視し、今後のインフルエンザ感染予防対策のためにも、迅速な情報提供を行うことが重要であり動向監視の強化が必要であると思われる。

謝辞:本報告を行うにあたり、貴重なご意見をいただきました国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センターの藤崎誠一郎先生、中村一哉先生、岸田典子先生にお礼申し上げます。

 

参 考
  1. インフルエンザの発生状況について(インフルエンザ定点当たり報告数・都道府県別)(2019/20シーズン 第36週)
    https://www.mhlw.go.jp/content/000549785.pdf
  2. 三重県のインフルエンザ定点あたりの患者届出数(2019/20シーズン)
    http://www.kenkou.pref.mie.jp/topic3/influ2.htm
  3. 週別インフルエンザウイルス分離・検出報告数、2019年第35~2019年第41週(全国)
    https://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/rapid/inf3/2019_36w/sinin1_191020.gif
 
 
三重県保健環境研究所
 矢野拓弥 赤地重宏 松村義晴
さかとく小児科 酒徳浩之
ふじさとこどもクリニック 梨田裕志
まつだ小児科クリニック 松田 正
落合小児科医院 落合 仁
伊勢保健所
 平松 茜 上桐幸子 前田弓子 水谷加奈子 出口理惠 中村昌司 鈴木まき
桑名保健所
 井ノ口裕子 稲垣美香 野口昌靖 加藤ひろみ 喜田明美 升田加奈
 淺井隆治 長坂祐二
鈴鹿保健所 
 宇佐美真由 西岡美晴 井上恵理 宮下哲雄 水野正宏 土屋英俊
独立行政法人国立病院機構 三重病院 
 谷口清州 菅 秀

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan