インフルエンザ 2023/24シーズン
(IASR Vol. 45 p179-181: 2024年11月号)2023/24シーズン(2023年第36週~2024年第35週)のインフルエンザは, 2022/23シーズン中に流行開始の指標である定点当たり報告数が1.00を下回る週がなかったため, シーズン最初から流行状態であった。
2023/24シーズン患者発生状況(2024年9月18日現在): 感染症発生動向調査では, 全国約5,000のインフルエンザ/COVID-19定点医療機関(小児科約3,000, 内科約2,000)から毎週, インフルエンザ患者数が報告される(届出基準はhttps://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-28.html)。全国の定点当たり報告数は, 2023年第36週(2023年9月4~10日)の時点で4.48(患者報告数22,148)であり, 前シーズンからの流行が続いた。その後流行は拡大し, 第49週(2023年12月4~10日)に33.73(患者報告数166,776)となりピークを迎えた。以降は年末に向かって減少したが, 2024年第1週以降再び増加し, 第6週(2024年2月5~11日)に2回目のピーク(定点当たり報告数23.93, 患者報告数118,254)となり, それ以降減少した。第18週(2024年4月29日~5月5日)に定点当たり報告数が1.00を下回った(図1)。
定点報告を基にした, 全国医療機関を受診したインフルエンザ患者数の推計では, 累積推計受診者数約1,824万人(2023年第36週~2024年第35週)となり, 2022/23シーズン(485万人)を大幅に上回った。
基幹定点医療機関(全国約500カ所の300床以上の病院)を対象としたインフルエンザ入院サーベイランスによる入院患者総数は19,389人であり, 2022/23シーズン(3,582人)を大幅に上回った。
全数把握5類感染症である急性脳炎(脳症を含む)にインフルエンザ脳症として届け出られたのは193例であった。
2023/24シーズンは, シーズン当初より2022/23シーズンからの流行が続いたため, 流行の終わりまでの期間が長く, 累積推計受診者数, 入院患者総数, インフルエンザ脳症患者数も新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行以前の水準と同様となった。
2023/24シーズンウイルス分離・検出状況(2024年9月26日現在): 全国の地方衛生研究所・保健所が分離・検出し, インフルエンザ病原体サーベイランスに報告したインフルエンザウイルス数は7,789(分離4,728, 検出のみ3,061)(表1), うちインフルエンザ定点で採取された検体からの分離・検出数は7,413, 定点以外の検体からの分離・検出数は376であった(表2)。型・亜型別ではA/H1pdm09亜型が2,090株, A/H3亜型が3,614株(A亜型不明は17株)で, B/Victoria系統が2,005株, B/山形系統の報告はなかった(B型系統不明は62株)。2024年初め頃まではA/H3亜型とA/H1pdm09亜型が流行していた(A/H3>A/H1pdm09)が, それ以降はB/Victoria系統の報告数が増えた(図1および図2)。
2023/24シーズン分離ウイルスの遺伝子および抗原性解析: 国立感染症研究所で国内・アジア地域分離株の遺伝子解析, およびフェレット感染血清を用いた抗原性解析を行った(本号4ページ)。A/H1pdm09亜型ウイルスのヘマグルチニン(HA)遺伝子解析の結果, 解析した株はクレード5a.2aあるいは5a.2a.1に属した。抗原性解析では, 2023/24シーズン世界保健機関(WHO)推奨ワクチン株A/Victoria/4897/2022の卵分離株に対するフェレット感染血清とよく反応した。また, ワクチン接種後のヒト血清を用いた解析でも, 解析株とはおおむね反応した。A/H3亜型ウイルスのHA遺伝子解析の結果, 解析した株はクレード2a.3a.1内の, さらに多様なサブクレードに分かれ, 多くはJ.1に属した。抗原性解析の結果, ほとんどの株は2023/24シーズンWHO推奨ワクチン株のA/Darwin/9/2021の卵分離株に対するフェレット感染血清とおおむねよく反応したが, JあるいはJ.2に属するウイルスに対するフェレット感染血清との反応性の方がより良い傾向であった。ワクチン接種後のヒトの血清については, 流行の多かったJ.1およびJ.2に属するウイルスとの反応性が低下した。B/Victoria系統ウイルスのHA遺伝子解析では, 解析したウイルスはすべてクレード1A.3a.2に属した。抗原性解析では試験したすべての株が, 2023/24シーズンWHO推奨ワクチン株のB/Austria/1359417/2021に対するフェレット感染血清とよく反応した。ワクチン接種後のヒト血清についても, 流行株とよく反応した。B/山形系統は解析された株がなかった。
2023/24シーズン分離ウイルスの薬剤耐性(本号4ページ): 日本ではノイラミニダーゼ(NA)阻害剤4種(オセルタミビル, ザナミビル, ペラミビル, ラニナミビル)およびキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤(バロキサビル)が抗インフルエンザウイルス薬として承認され, 主に使用されている。解析した2023/24シーズンのB型ウイルスは, NA阻害剤およびバロキサビルに対する耐性株ではなかった。解析したA/H1pdm09亜型は, NA阻害剤およびバロキサビルに対する耐性株が検出された。A/H3亜型ウイルスは, NA阻害剤に対する耐性株ではなかったが, バロキサビルに対する耐性株が検出された。
2023/24シーズン前の抗体保有状況: 予防接種法に基づく感染症流行予測調査事業により, 2023年7~9月に採取された血清(3,958名)を用いて, 2023/24シーズン前の国内のインフルエンザワクチン株に対する年齢群別の抗体保有割合(HI価≧1:40)を調査した(本号11ページ)。A/H1pdm09亜型ワクチン株に対する抗体保有割合は, ワクチン株が変更されたこともあり, 全年齢で20%未満と非常に低い保有割合であった。A/H3亜型ワクチン株は前年度(2022年度)と同じワクチン株であったが, 全体として抗体保有割合は40%未満で, 0~4歳群と70歳以上の群で15%未満と低い割合であった。B/山形系統のワクチン株に対しては, 過去3年度と同様の傾向を示し, A型と比べ高い傾向にあり, 30~34歳群がピークであった。B/Victoria系統のワクチン株に対しては, 保有割合は前年度よりは高く, 保有割合のピークは55~59歳群(44.4%)であった。35~39歳群以下では20%未満の保有割合であった。
季節性インフルエンザワクチン: 2023/24シーズンはA型2亜型とB型2系統による4価ワクチンとして約3,135万本が製造され, 約2,432万本(推計値)が使用された(1mL/本として, 1回接種当たり0.5mL)。2024/25シーズンワクチン製造株は, A/H1pdm09亜型: A/ビクトリア/4897/2022(IVR-238), A/H3亜型: A/カリフォルニア/122/2022(SAN-022), B/ビクトリア系統: B/オーストリア/1359417/2021(BVR-26), B/山形系統: B/プーケット/3073/2013が選定された(本号8ページ)。2024/25シーズンは2,734万本のワクチン製造が見込まれている。
動物由来インフルエンザウイルス: 2023年9月以降, 鳥インフルエンザウイルスのヒト感染例は, A(H5N1)ウイルスについては, 中国で1例, カンボジアで14例, 米国で9例, オーストラリアで1例およびベトナムで1例が報告された。A(H5N6)ウイルスのヒト感染例は, 中国で5例が報告された。A(H5N2)ウイルスのヒト感染例は, メキシコで2024年4月に1例が報告された。また, A/H5ウイルス(報告時点でNA亜型が不明)のヒト感染例は, 米国で5例が報告された。A(H9N2)ウイルスのヒト感染例は, 中国で11例, ベトナムおよびインドでそれぞれ1例が報告された。また, 中国において, A(H10N3)ウイルスおよびA(H10N5)ウイルスのヒト感染例がそれぞれ1例ずつ報告された。なお, これらのウイルスによるヒト-ヒト感染は確認されていない(2024年9月27日時点)(本号13ページ)。A(H5N1)ウイルスについては, 野鳥・家禽での感染だけでなく, 近年では, 陸生・水生哺乳動物への感染事例が多く確認されており, 注視が必要である(本号15ページ)。牛で分離されるインフルエンザウイルスは, 主にD型インフルエンザウイルスである(本号17ページ)が, 2024年3月には, 米国においてA(H5N1)ウイルスによる初の乳牛への感染事例が報告され, そこからヒトへの伝播が確認された(本号16ページ)。近年のA(H5N1)ウイルスの世界的な拡大, それにともなう哺乳動物への感染事例の増大およびヒトへの感染の可能性の高まりを鑑み, 国内備蓄ワクチン株についてA/H5亜型への更新があった(本号19ページ)。
2023/24シーズンにおけるブタインフルエンザウイルスのヒト感染例が米国, ブラジル, スイス, 英国, ベトナム, カナダで報告された(2024年9月27日時点)(本号13ページ)。
おわりに: 2023/24シーズンのインフルエンザは, 3シーズンぶりに流行が戻ってきた2022/23シーズンを大きく上回る報告数であった。ハイリスクグループへのワクチン接種等の公衆衛生上の対策の実施とともに, 患者サーベイランス等による流行の把握, 病原体サーベイランスに基づく流行株の遺伝子解析, 抗原性解析, 薬剤耐性調査等による流行ウイルスの監視, ならびに国民の抗体保有状況の調査等を含む, 包括的なインフルエンザの監視体制の強化と継続が求められる。また, 季節性インフルエンザだけでなく, 世界的なA(H5N1)ウイルスの感染拡大からみられるように, 動物由来インフルエンザウイルスの監視も重要である。