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The Topic of This Month Vol.33 No.11(No.393)

インフルエンザ 2011/12シーズン

(Vol. 33 p. 285-287: 2012年11月号)

 

2011/12シーズン(2011年第36週/9月~2012年第35週/8月)のインフルエンザは、インフルエンザウイルスAH3 亜型を主とするB型との混合流行であった。A(H1N1)pdm09(以下AH1pdm09)は、2009/10シーズンに検出されたインフルエンザウイルスのほとんど、2010/11シーズンの半数を占めたが、2011年4月以降の検出はごく少数となっている。

患者発生状況:感染症発生動向調査では、全国約 5,000のインフルエンザ定点医療機関(小児科3,000、内科2,000)から、インフルエンザと診断された患者数が週単位で報告されている。定点当たり週別患者数(http://www.niid.go.jp/niid/ja/10/weeklygraph.html)は、2011年第49週に全国レベルで流行開始の指標である1.0人を超え、流行期間は2012年第18週まで22週間であった。流行のピークは2012年第5週(42.7人)で(図1)、その高さは過去10シーズンでは2004/05シーズン(50.1人)に次いで2番目に高かった。シーズン全体(2011年第36週~2012年第35週まで)の定点当たり累積患者数(342.5人)も2009/10シーズン(415.4人)に次いで2番目であった。

都道府県別にみると、2011年第50週に宮城県、愛知県で定点当たり10.0人を超え、第2週に12県から第3週に42都府県と急増し、全国的な流行となった(https://nesid3g.mhlw.go.jp/Hasseidoko/Levelmap/flu/index.html)。

インフルエンザ定点医療機関からの報告数をもとに推計した2011年第36週~2012年第18週(9/6~5/6)に全国の医療機関を受診した患者数の累計は約1,648万人であり、2011年9月に開始された入院サーベイランスでは2011/12シーズンにインフルエンザで基幹定点医療機関(全国約500カ所の300床以上の病院)に入院した患者11,118人(うち重症患者1,487人)が報告された(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/pdf/120525-01.pdf)。

ウイルス分離・検出状況:全国の地方衛生研究所で2011/12シーズンに分離されたインフルエンザウイルスの報告数は5,457であった(2012年10月18日現在、表1)。この他にPCRのみでの検出報告が1,799あった。分離またはPCRによる検出(以下、分離・検出)を含めた総報告数7,256のうち、インフルエンザ定点の検体からの分離・検出数は5,755、インフルエンザ定点以外の検体からの分離・検出数は1,501であった(表2)。

2011/12シーズンに分離・検出されたウイルスの型・亜型別割合はAH3 71%、B型28%であり、AH1pdm09は0.2%と少なかった。旧AH1 亜型(ソ連型)は2009年第36週以降全く報告されていない。B型は、Victoria系統と山形系統が2:1であった。また、海外渡航者からの分離・検出数はAH3亜型25、B型5、AH1pdm09が2であった(表2)。

AH3亜型がシーズン当初から分離され、流行のピークを過ぎるまでは大半を占めていたが、2012年第9週以降、B型の分離報告数がA型を上回った(図1および図2)。沖縄県では流行が終息することなく、第26週以降患者が再増加し、6~9月にかけてAH3亜型の流行がみられた(IASR 33: 242, 2012)。

AH3亜型、B型Victoria系統、B型山形系統それぞれの分離例の年齢分布をみると、ともに5~9歳が最も多かった(図3図4)。

2011/12シーズン分離ウイルスの抗原性・薬剤耐性(本号4ページ):AH1pdm09は解析された8株中6株は2009/10~2012/13シーズンワクチン株であるA/California/7/2009pdm09に抗原性が類似していた。AH3亜型の抗原性はわが国の2010/11~2011/12シーズンワクチン株であるA/Victoria/210/2009からHI価でわずかに変異したA/Victoria/361/2011(2012/13シーズンワクチン株)に類似していた。B型の2/3を占めたVictoria系統株の抗原性はB/Brisbane/60/2008(2009/10~2011/12シーズンワクチン株)に類似していた。B型の1/3を占めた山形系統株の抗原性はB/Wisconsin/1/2010(2012/13シーズンワクチン株)に類似していた。

AH1pdm09は解析された9株ではオセルタミビル耐性遺伝子変異H275Yを保有する株は無かった(2010/11シーズンは2.0%がH275Y保有株)。AH3亜型は解析された278株中1株がオセルタミビル/ペラミビル耐性遺伝子変異R292K を保有していた(http://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-inf.html#taiseikabu)。

抗体保有状況:2011年度感染症流行予測調査によると(本号10ページ)、2011/12シーズン前の2011年7~9月に採血された血清におけるA/California/7/2009pdm09に対するHI抗体価1:40以上の保有率は、全体では49%であり、5~24歳の各年齢群では64~78%と高く、2010年度(2010年7~9月採血)に比較的低かった0~4歳と50歳以上においても24~38%と、どの年齢群も2010年度より高かった。AH3 亜型、B型Victoria系統に対する抗体保有率は、いずれも15~19歳が最も高く68%、57%、全体では50%、45%であった。B型山形系統に対する抗体保有率は最も高い15~19歳でも38%、全体では18%と低かった。

インフルエンザワクチン:2011/12シーズンには3価ワクチン約2,888万本(1ml換算、以下同様)が製造され、推計で2,510万本が使用された。予防接種法に基づく高齢者(主として65歳以上)に対する接種率は53.3%(2010/11シーズンは53.1%)であった。

2012/13シーズンワクチン株として、AH1亜型は2010/11~2011/12シーズンに引き続きA/California/7/2009pdm09が選択され、AH3 亜型はA/Victoria/361/2011、B型は山形系統のB/Wisconsin/1/2010に変更された(本号13ページ)。

鳥インフルエンザA(H5N1)と豚由来A(H3N2)v :日本では2010年11月~2011年3月まで各地で野鳥や家禽でのA(H5N1)亜型による高病原性鳥インフルエンザが発生した。しかし、インドネシア、ベトナム、エジプトでは2011年以降も継続的に鳥での高病原性鳥インフルエンザが発生しており、人でのA(H5N1) 亜型感染も報告されている。直近では2012年9月に中国、ネパールで新たな鳥での高病原性鳥インフルエンザが発生している(http://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/tori/index.html)。一方、米国では2012年7月以降、豚と接触した人におけるA(H3N2)亜型変異株の感染が300例以上報告されている。

新型インフルエンザ等対策特別措置法:パンデミック(H1N1)2009の経験を踏まえ、危機管理としての新型インフルエンザおよび全国的かつ急速なまん延のおそれのある新感染症対策のために、2012年5月11日に「新型インフルエンザ等対策特別措置法」が公布された(http://www.cas.go.jp/jp/influenza/120511houritu.html)。

おわりに:定点サーベイランス、学校サーベイランス(インフルエンザ様疾患発生報告)、入院サーベイランス等により患者発生の動向を監視すること、通年的にウイルス分離を行い、ワクチン候補株を確保するために流行株の抗原変異、遺伝子変異を解析すること、さらに抗インフルエンザ薬に対する耐性ウイルスの出現を監視することが今後の対策に引き続き重要となっている。

2012/13シーズンインフルエンザウイルス分離・検出速報は本号16ページおよびhttp://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-inf.htmlに掲載している。

 

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