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インフルエンザ 2017/18シーズン

(IASR Vol. 39 p181-183: 2018年11月号)

2017/18シーズン(2017年第36週/9月~2018年第35週/8月)に国内で最も多く分離・検出されたインフルエンザウイルスはB型山形系統で, 次いでA/H3亜型, A/H1pdm09亜型の順であった。

2017/18シーズン患者発生状況:感染症発生動向調査では, 全国約5,000のインフルエンザ定点医療機関(小児科約3,000, 内科約2,000)からインフルエンザ患者数が毎週報告される。2017年第47週に定点当たり報告数が全国レベルの流行開始の指標である1.0人/週を超え(図1&http://www.niid.go.jp/niid/ja/10/weeklygraph.html), 2018年第2週には47全都道府県で注意報レベルである10.0人/週を超えた。報告のピークは2018年第5週(54.3人)で, この定点当たり報告数は, 1999年4月の感染症法施行開始以降最高値であった。

定点報告をもとに全国医療機関を受診したインフルエンザ患者数を推計すると, 累積推計受診者数約2,249万人であった(2017年第36週~2018年第17週)。基幹定点医療機関(全国約500カ所の300床以上の病院)からのインフルエンザ入院サーベイランスでは, 入院患者総数は20,584人(2017年第36週~2018年第17週)となった。全数把握の5類感染症である急性脳炎(脳症を含む)の届出(479人)のうち, インフルエンザ脳症報告数は166人であった(2018年10月2日現在暫定数)(本号11ページ)。

2017/18シーズンは, 入院については2016/17シーズン(A/H3主流)以上に多く報告されたが, 脳症については2015/16シーズン(A/H1pdm09主流)ほど多くなかった。インフルエンザ関連死亡等については「今冬のインフルエンザについて(2017/18シーズン)」(https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/influ/fludoco1718.pdf)を参照。

2017/18シーズンウイルス分離・検出状況:全国の地方衛生研究所が分離・検出したインフルエンザウイルス報告総数は10,244(分離7,681, 検出のみ2,563)であった(表1)。うち, インフルエンザ定点で採取された検体からの分離・検出数は9,209, 同定点以外の検体からの分離・検出数は1,035であった(表2)。型・亜型別ではB型が45%(山形系統96%, Victoria系統3%, 系統不明1%), A/H3が32%, A/H1pdm09が23%であった(表2)。分離されたA/H1pdm09は2017年第45週から増加したが, 2018年第3週からはA/H3の報告数が上回った。分離されたB型は例年より早く2017年第47週から増加し, 2018年第3週以降A型を上回った(図1図2)。地域によってはA/H3の春先の流行がみられた(図2, 本号9ページ)。日本を含む北半球全体でもB/山形系統株が優勢で長期間観察された(本号22ページ)。

2017/18シーズン分離ウイルスの遺伝子および抗原性解析:国立感染症研究所で国内・アジア地域分離株の遺伝子解析およびフェレット感染血清を用いた抗原性解析を行った(本号4ページ)。A/H1pdm09は, 全解析株が遺伝子系統樹上クレード6B.1に属し, 抗原性解析したほぼすべての株がA/Singapore/GP1908/2015(2017/18シーズンワクチン株)およびワクチン株と同じく6B.1の代表株であるA/Michigan/45/2015に抗原性が類似していた。A/H3解析株はクレード3C.2a, 3C.3aの2群に大別されるが, 1株以外は3C.2aに属した。抗原性解析では, 解析株の5~6割がA/Hong Kong/4801/2014細胞分離株(2017/18シーズンワクチン元株)と抗原性が類似していた。B/山形系統株はすべてクレード3に属し, 抗原性解析株の9割以上がB/Phuket/3073/2013(2017/18シーズンワクチン株)に抗原性が類似していた。B/Victoria系統株はすべてがクレード1Aに属した。抗原性解析株のうち, 2018年1月までの分離株の9割がB/Texas/2/2013(2017/ 18シーズンワクチン株)の類似株であったが, 2018年2月以降になると抗原性類似株の割合は6割に低下した。

2017/18シーズン分離ウイルスの薬剤耐性:国内分離A/H1pdm09 1,538株のうち, オセルタミビル, ペラミビル耐性株24株(1.6%)が検出された。A/H3は解析した国内分離209株すべて, B型も解析した国内分離289株すべてがオセルタミビル, ペラミビル, ザナミビル, ラニナミビルに感受性であった(本号4ページ)。

2017/18シーズン前の抗体保有状況:予防接種法に基づく感染症流行予測事業により, 2017年7~9月採血の血清(4,356検体)を用いて免疫獲得状況が調査された(本号13ページ)。抗体保有率(HI価≧1:40)はそれぞれ, A/Singapore/GP1908/2015[A(H1N1)pdm09]に対しては10~24歳が63~69%で他年齢群より高く, A/Hong Kong/4801/2014[A(H3N2)]に対しては5~19歳が78~86%で他年齢群より高く, B/Phuket/3073/2013(B/山形系統)に対しては15~34歳が61~69%で他年齢群より高かった。B/Texas/2/ 2013(B/Victoria系統)に対する抗体保有率は40~44歳の42%を除き, 全年齢群で40%未満であった。

インフルエンザワクチン:2017/18シーズンはA型2亜型とB型の2系統による4価ワクチンとして約2,643万本(1mL換算, 以下同様)が製造, 約2,491万本(推計値)が使用された。

2018/19シーズンワクチン製造株は, A/H1は2017/ 18シーズンに引き続きA/Singapore/GP1908/2015(IVR-180)が, A/H3のワクチン株は新たにA/Singapore/INFIMH-16-0019/2016(IVR-186)が選定された。B/山形系統は2017/18シーズンに引き続きB/Phuket/3073/2013が, B/Victoria系統は新たにB/Maryland/ 15/2016(NYMC BX-69A)が選定された(IASR 39: 102, 2018および本号15ページ)。

6歳未満児でのインフルエンザワクチン2回接種の有効性に関しては, 多施設共同症例・対照研究が行われ, 2013/14~2016/17の4シーズンで有意な発病予防効果が示されている(本号17ページ)。

鳥・ブタインフルエンザウイルスのヒト感染例(本号20ページ):家禽に対する高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスのヒト感染例は2003年以降16カ国で860例(うち454例死亡)確認され, A(H5N6)ウイルスは2014年以降中国では21例の報告がある(2018年10月4日現在)。一方, 2013年から低病原性鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスのヒト感染例も中国から多数報告され, 感染者総数は1,567例(うち615例死亡)となっている(2018年10月4日現在)。2016年10月~2017年9月の第5波では, 家禽に対して高病原性に変異したA(H7N9)ウイルスも出現し, ヒト感染例も32例が報告されたが, 第6波(2017年10月~2018年9月)では, ヒト感染例の報告は高病原性ウイルスによる3例のみである。2018年2月には1例のA(H7N4)ウイルスによる初のヒト感染例が中国より報告された。鳥インフルエンザA(H9N2)ウイルスのヒト感染例も中国やエジプトで報告されている。

ブタインフルエンザウイルスのヒト感染例は, 米国の農業フェア等での曝露によるA(H3N2)v, A(H1N1)v, A(H1N2)vが報告されている。

おわりに:患者発生動向, 通年的なウイルス分離, 流行株の抗原変異・遺伝子変異の解析, 薬剤耐性ウイルス出現, 国民の抗体保有率等の包括的な監視が今後のインフルエンザ対策に引き続き重要である。なお, 2016年4月から施行された改正感染症法においては, 季節性インフルエンザの検査数と陽性率を考慮した強化が含まれている(本号12ページ)。また, 国内の新型インフルエンザ対策としてのプレパンデミックワクチンの今後の備蓄方針に関する検討が政府内で進められている(本号19ページ)。

 

注)IASRのインフルエンザウイルス型, 亜型, 株名の記載方法は, 赤血球凝集素(HA)の分類を調べた情報を主とする場合と, さらにノイラミニダーゼ(NA)の型別まで実施された場合などの違いによるものである。
・N型別まで実施されている場合:A(H1N1)pdm09, A(H3N2), A(H5N1)など
・N型別未実施のものが含まれる場合:A/H1pdm09, A/H3など
・株名については, 主に国内の地名は漢字, 国外は英語表記 (例:B/山形系統, B/Victoria系統など)
・ヒト感染したブタインフルエンザウイルスはヒトの季節性インフルエンザウイルスと区別するために, variant virusesと総称し, 亜型の後に “v” を表記: A(H3N2)vなど

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