印刷
IASR-logo

インフルエンザ 2019/20シーズン

(IASR Vol. 41 p191-193: 2020年11月号)

2019/20シーズン(2019年第36週/9月~2020年第35週/8月)の国内のインフルエンザウイルスはA/H1pdm09が流行の主体となり, B型ウイルスもVictoria系統を中心に2019年第51週頃から増加した。

2019/20シーズン患者発生状況:感染症発生動向調査では, 全国約5,000のインフルエンザ定点医療機関(小児科約3,000, 内科約2,000)からインフルエンザ患者数が毎週報告される。2019年第37週(9月9~15日)に沖縄県でのA型を主体とする局地的な流行により全国の定点当たり1.0人/週を超えたが(本号4ページ), 全国の流行開始はその後の2019年第45週(11月4~10日)と判断された(図1&https://www.niid.go.jp/niid/ja/10/weeklygraph.html)。2019年第52週(12月23~29日)には全都道府県で注意報レベルである10.0人/週を超え, 同時にこのシーズンの報告数のピークも同週(定点当たり報告数23.24人は例年の半分程度)であった。

定点報告を基に全国医療機関を受診したインフルエンザ患者数を推計すると, 累積推計受診者数約728.9万人であり(2019年第36週~2020年第17週), 前シーズン同時期(1,200.5万人)の約61%であった。基幹定点医療機関(全国約500カ所の300床以上の病院)を対象としたインフルエンザ入院サーベイランスにおける入院患者総数は12,982人で, 前シーズン同時期の約64%であった。全数把握5類感染症である急性脳炎(脳症を含む)の届出のうち, インフルエンザ脳症報告数は254人で, 過去3シーズンの中では最多となった(https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/influ/fludoco1920.pdf)。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が発生・流行した2019/20シーズン, 2020年1~6月の全国の全死亡の超過死亡の積算は, 米国と欧州で用いられている2つのアルゴリズムで解析した結果, それぞれ191-4,577人, 319-7,467人の範囲と推測された(本号17ページ)。

2019/20シーズンウイルス分離・検出状況:全国の地方衛生研究所が分離・検出したインフルエンザウイルス報告総数は5,929(分離4,291, 検出のみ1,638)であった(表1)。インフルエンザ定点で採取された検体からの分離・検出数は5,478, 同定点以外の検体からの分離・検出数は451であった(表2)。型・亜型別ではA/H1pdm09が85%, A/H3が2%, B型が12%(Victoria系統98.7%, 山形系統0.6%, 系統不明0.7%), であった(表2)。分離・検出されたA/H1pdm09は2019年第46週(11月11~17日)から増加したが, 2019年第51週(12月16~22日)からB型Victoria系統の報告数が増加し始め, 2020年第9週(2月24日~3月1日)以降A型を上回った(図1図2)。なお, 南半球温帯地方の冬季については, 通常は流行のピークを迎える5~8月頃も流行はみられなかった(本号18ページ)。

2019/20シーズン分離ウイルスの遺伝子および抗原性解析:国立感染症研究所で国内・アジア地域分離株の遺伝子解析およびフェレット感染血清を用いた抗原性解析を行った(本号5ページ)。A/H1pdm09は, 全解析株がヘマグルチニン(HA)遺伝子系統樹上6B.1A群に属し, さらにHAタンパク質の183番目のアミノ酸に変異を持つ株が多かった。A/H3はHA遺伝子系統樹上3C.2aおよび3C.3aの2群に大別されるが, 国内では3C.2aに属する株が過去5シーズンに続き2019/20シーズンも主流であった。クレード3C.2a内では多くのサブクレードが形成され, 遺伝子の多様化を呈した。抗原性解析では, 試験をした株のほぼすべてが2019/20シーズンのワクチン株A/Kansas/14/2017の細胞分離株(クレード3C.3a)と抗原的に乖離(ホモ中和価と比べて値が8倍以上低下の反応性を示す)していた。B/山形系統株で遺伝子解析を実施したのは国内2株のみで, B/Phuket/3073/2013(2019/20シーズンワクチン株)と抗原性が類似していた。B/Victoria系統株はすべてがHA遺伝子系統樹上1A群に属するが, 国内流行株の99%はHAタンパク質に3アミノ酸欠損を持つ1A.3に属した。抗原性解析では, 2019/20シーズンの分離株がほぼ属するクレード1A.3のうち, 9割以上がHAタンパク質に2アミノ酸欠損を持つB/Colorado/06/2017〔2019/20シーズンの世界保健機関(WHO)ワクチン推奨株〕に対するフェレット感染血清とよく反応した。

2019/20シーズン分離ウイルスの薬剤耐性:A/H1pdm09については, 国内分離2,489株のうちオセルタミビル・ペラミビル耐性変異株が40株(1.6%)で検出された。うち28株は同剤未投与の患者から分離された。また, 国内分離831株のうち, バロキサビル耐性変異株が1株(0.12%), 同剤未投与例から検出された。A/H3, B型については解析した国内分離株, アジア5カ国で分離された株すべてが, オセルタミビル, ペラミビル, ザナミビル, ラニナミビルのNA阻害剤, およびバロキサビルに対して感受性であった(本号10ページ)。

2019/20シーズン前の抗体保有状況:予防接種法に基づく感染症流行予測調査事業により, 2019年7~9月採血の血清(5,446名)を用いて抗体保有状況が調査された(本号11ページ)。抗体保有率(HI価≧1:40)はそれぞれ, A/Brisbane/02/2018[A(H1N1)pdm09]に対して5~24歳が57-60%で他年齢群より高く, A/Kansas/14/2017[A(H3N2)]に対して5~19歳が53%で他年齢群より高く, B/Phuket/3073/2013(B/山形系統)に対して15~39歳が60-70%で他年齢群より高かった。B/Maryland/15/2016(B/Victoria系統)に対する抗体保有率は40~49歳の51-52%が他年齢群より高かった。

インフルエンザワクチン:2019/20シーズンはA型2亜型とB型の2系統による4価ワクチンとして約2,964万本(1mL換算, 以下同様)が製造, 約2,825万本(推計値)が使用された。

2020/21シーズンワクチン製造株は, A/H1はA/Guangdong-Maonan/SWL1536/2019(CNIC-1909)が, A/H3はA/Hong Kong/2671/2019(NIB-121)が選定された。B型についてはB/山形系統は2019/20シーズンに引き続き, B/Phuket/3073/2013が, B/Victoria系統はB/Victoria/705/2018(BVR-11)が選定された(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000203023_00005.html)。引き続き積極的なワクチン接種が推奨される。

インフルエンザワクチン2回接種の有効性に関して多施設共同症例・対照研究が行われ, 2018/19シーズンは3歳未満児に対して, 統計学的には有意ではないが, 発病予防効果を認めた(本号14ページ)。

鳥・ブタインフルエンザウイルスのヒト感染例:家禽に対して高病原性を示す鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスのヒト感染例は2003年以降, 2019年3月を最後に17カ国で861例(うち455例死亡)が確認された。2019年10月以降, 家禽への感染例として, 高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスは中国など5カ国で, A(H5N6)ウイルスは4カ国で, A(H5N8)ウイルスは日本を含めて14カ国で, それぞれ確認されている。鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスのヒト感染例も2013年から中国で多数報告され, 感染者総数は1,568例(うち616例死亡)である。2016年10月~2017年9月の第5波では, 高病原性に変異したA(H7N9)ウイルスも出現し, ヒト感染例も報告されたが, 2019年3月の症例を最後にヒト感染例は報告されていない。これまで, 鳥インフルエンザA(H9N2)ウイルスのヒト感染例は, 中国, エジプト, バングラデシュ, インド, セネガル, オマーンで散発的に報告されている。

ブタは哺乳類や鳥類由来インフルエンザウイルスの交雑宿主として遺伝子再集合を起こす可能性があり, 米国では農業フェア等での曝露によるA(H3N2)v, A(H1N1)v, A(H1N2)vウイルスのヒト感染例が, この他, ドイツ, 中国, ブラジルでもブタ由来ウイルスのヒト感染例が報告されている。日本でもブタインフルエンザウイルスは検出されており, 注意が必要である(本号16ページ)。

おわりに:2019/20シーズンは, 2020年に入り, 例年になくインフルエンザ報告数が減少した。これはCOVID-19の流行に対する個人の行動変容や公衆衛生上の対応によるものだけではなく, 医療機関への受診を控える等の影響などにより, インフルエンザの発生動向や関連する指標へ影響を与えた可能性もあり, その解釈には注意が必要である。2020/21シーズンは, COVID-19の流行の継続が予想される状況において, COVID-19がインフルエンザの患者発生動向やウイルスの検出状況に与える影響は不明であり, インフルエンザワクチンを含む, 公衆衛生上の対策が急がれる。同時に, 通年的なインフルエンザウイルスの分離・検出, 流行株の抗原変異・遺伝子変異の解析, 薬剤耐性ウイルスの出現, 国民の抗体保有率等の包括的なインフルエンザに対する監視がこれまで以上に重要である。今後, 具体的な方法を含めた検討が必要である。

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan