国立感染症研究所

 

 注目すべき感染症

 

◆ インフルエンザ

 

 インフルエンザ(Influenza)は、インフルエンザウイルスを病原体とする急性の呼吸器感染症で、毎年世界中で流行がみられている。

 

 感染症発生動向調査では、全国約5,000カ所(小児科定点約3,000、内科定点約2,000)のインフルエンザ定点からの報告に基づいてインフルエンザの発生動向を分析している。今シーズン(2011/2012年シーズン、2011年第36週~2012年第35週)のインフルエンザの定点当たり報告数は、2011年第49週に1.11と全国的な流行開始の指標である1.00を超え、2012年第5週に定点当たり報告数は42.62(報告数209,974)と流行のピークとなった。第6週以降減少が続いており、第10週の定点当たり報告数は21.06(報告数103,863)であった(図1)。都道府県別では新潟県(41.89)、山形県(39.81)、宮城県(38.70)、福島県(37.80)、埼玉県(31.89)、秋田県(31.27)、北海道(30.62)、岩手県(30.54)の順となっている。42都道府県で減少がみられているが、東北地方を中心とした5県(岩手県、宮城県、山形県、福島県、新潟県)では増加が認められた。

 

 定点医療機関からの報告をもとに、定点以外を含む全国の医療機関をこの1週間に受診した患者数を推計すると約97万人(95%信頼区間:86~107万人)(暫定値)とこちらも減少が続いている。2011年第36週以降これまでの累積の推計受診者数は約1,338万人(95%信頼区間:1,299~1,377万人)(暫定値)であり、年齢群別では5~9歳約361万人、10~14歳約217万人、0~4歳約206万人、30代約136万人、40代約99万人、20代約89万人の順であった。また70歳以上は約60万人と昨シーズン(2010/2011年シーズン、2010年第36週~2011年第35週)の推計受診者数(24万人)(以上全て暫定値)を既に大きく上回っている(図2)

 

 2011年第36週~2012年第10週までに国内では4,239検体のインフルエンザウイルスの検出が報告されており、AH1pdm09が8件(0.2%)、AH3亜型(A香港型)3,543件(83.6%)、B型688件(16.2%)とAH3亜型が多くを占めている状態に変わりはないものの、B型の割合が増加してきている(図3)

 

図1. インフルエンザの年別・週別発生状況(2002~2012年第10週) 図2. インフルエンザの年齢群別累積推計受診者数(暫定値)(2011年第36週~2012年第10週) 図3. インフルエンザウイルスの週別・型/亜型別検出状況(2011年第36週~2012年第10週)


 インフルエンザの重篤な合併症であるインフルエンザ脳症は、2004年4月より急性脳炎の発生動向調査の一環として報告されるようになった。今シーズンはこれまでに23都道府県から71例(男性42例、女性29例、71例中4例は死亡報告あり)の報告があった。診断週別にみると、2012年第2週以降継続的に報告があり、インフルエンザの流行のピークと一致して第5週に14例とインフルエンザ脳症の報告数も最多となっている一方で、第7週の報告数は2例と減少したものの、第9週は11例と再び増加がみられている(図4)。年齢は1~83歳(中央値6歳、平均値11.4歳)で、4歳が9例と最も多く、5歳、6歳が共に7例、7歳6例、2歳、8歳が共に5例の順となっており、10歳以下で73.2%を占めている。16~19歳の報告はなく、20歳以上は9例で12.7%を占めていた(図5)。ウイルス型別ではA型41例(57.7%、うちAH1pdm09が1例、AH3が6例)、B型16例(22.5%)、型別不明14例(19.7%)となっており、今シーズンの流行を反映してA型が多数を占めているものの、第7週以降では全報告24例中B型が12例とA型(7例)よりも多数となっている(図4)

図4. インフルエンザ脳症のウイルス型/亜型別報告数とインフルエンザ定点当たり報告数の週別推移(2011年第36週~2012年第10週) 図5. インフルエンザ脳症の年齢群別報告数と割合(2011年第36週~2012年第10週)


 今シーズンのインフルエンザの流行は、2012年第5週のピークを過ぎてからは報告数の減少が続いているものの、第10週の定点当たり報告数は21.06と高く、ウイルス検出ではB型の報告割合が大きくなってきている。インフルエンザ脳症の報告数は、インフルエンザの流行の推移に一致して第5週の報告数が最多となり、また第7週以降はB型の報告割合が大きくなっているのもインフルエンザの流行状況を反映しているものと推察される。インフルエンザの流行と、インフルエンザ脳症の報告数の推移には今後とも注意深く観察していく必要がある。

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